番外編 園遊会後半のエメリヒの恋
(エメリヒのお話です)
園遊会会場をラウラと連れ立ってゆっくり歩いていると――
「ラウラ様~~~~!!!!」
アドリアーナの叫び声がしたかと思うと当の本人が現れて、ラウラにばふん! と抱き着いた。
「きゃっ!」
「……おっと!」
よろけたラウラを急いで受け止める。
「ありがとう、エメリヒ」
ラウラが俺を見上げて微笑んだ。
あまりの可愛さに、心臓が跳ね上がる。
「いや。今日はエスコート役だし」
うるさい鼓動に気づかれないよう平静を装って答えつつ、ラウラからそっと離れる。
すごく惜しい。が、仕方ない。
それにそばにいたら絶対に挙動不審になる。今だって顔は熱いし、手足がスムーズに動いているのか自信がないくらいだ。
いつだったか、図書館で彼女を受け止めたときはこんな気持ちにはならなかったのに。
ラウラが可愛すぎるのがいけないんだと思いながら、まだ彼女に抱き着いているアドリアーナを見た。
羨ましい。――違った。
「気をつけろ、アドリアーナ。危ないだろ」
「ごめんなさい。挨拶まわりに疲れちゃって。やっとラウラ様に会えたから、つい」
しょんぼりとするアドリアーナの頭をラウラがよしよしと撫でる。
「そうね。もう少し加減してくれると助かるわ。――でも、お勤めはご苦労様でした」
「えへへ。ラウラ様にそう言っていただけると元気百倍です!」
うん、その気持ちはわかる。ラウラの言葉ひとつ、笑顔ひとつが、回復薬百本ぶんの威力があるもんな。
さっき俺の父親に対峙したときのラウラなんて、とんでもなくかっこよかったし。
「そういえばエメリヒのお父さんがぷりぷり怒っているのを見かけたけど――」
アドリアーナが問いかけるように俺を見た。
「ああ。さっき絡まれたんだが、ラウラが撃退してくれた」
「さすがラウラ様! エメリヒのお父さんってほっんとぉぉに酷いんで、どんどんやっちゃってください!」
「そうね。久しぶりにお腹の底から怒りが沸いたわ。こんなのコンラッド以来かも」
「まあ。相当ですね!」
ラウラとアドリアーナは仲良さそうに笑いあっている。
視線を巡らすと、少し離れたところで待機しているコンラッドが苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
ヤツからやや距離を取って、ほかの守り人たちが固まっている。
なんか知らないが、マクシムが俺に向かっていい笑顔で親指を立てていた。
俺がラウラを好きだと自覚するのとほぼ同時に、アドリアーナが『エメリヒの恋を応援する!』なんて宣言をした。おかげでコンラッド以外の守り人たちも、やたらと協力的だ。
特に騎士であるマクシムは俺を弟分だと思っているみたいで、求めてもいないのにアドバイスをくれる。
ケストナーもだが、あれはただ俺をからかって遊んでいるだけだ。教師のくせに。
――そのケストナーが俺に向かって手招いている。
ラウラたちに断って近づくと。
「あっちにいい穴場があったぞ。誰も来なさそうな。うまく連れこめば――」
「アホか!」
ケストナーが言い終える前に、マクシムが頭はたいて黙らせた。
まったくこの教師はとため息をつきつつラウラに目を向けると、彼女の前には男がひとり立っていた。彼女のクラスメイトだ。会場を一緒に回ろうと誘っている。
くそっ。ほんの少し目を離した隙に!
「悪いが彼女のエスコートは俺がしている!」
慌てて戻ってそう告げると、男は一瞬不快そうな顔をしたもののラウラには笑顔で挨拶をして、踵を返した。
ホッとしたのもつかの間、男が俺とすれ違いざまに、「この前まで彼女を毛嫌いしてたくせにっ」と小声で吐き捨てた。
確かにそうだ。そのことについては弁明のしようもない。
ラウラが俺を見て小首をかしげた。
「どうしたの? 怖い顔がいっそう怖くなっているわよ?」
険しさが増しているとしたら、今の生徒に言われた言葉が事実だったからだ。ラウラを悪女と決めつけていたかつての自分が腹立たしい。
だとしてもラウラも俺も、お互いに過去の過ちは水に流したんだ。
「さっきケストナー先生が、あまりに教師らしくない発言をしたんだよ」
明らかに恋敵であるあの生徒の話をしたくなくてごまかすと、ラウラは「先生が⁉」と驚いて目をみはった。
その顔もすごく可愛い。
「そう。でも大丈夫。マクシムが叱ってくれた」
まあ、ところころ笑うラウラ。
そりゃ俺だって、こんなに可愛いラウラとふたりきりになれたら嬉しい。
だけどラウラにとって俺は、最近親しくなっただけのただの友達だ。その前はへたしたら、世界で一番嫌いな男だったかもしれない。
いつかラウラが俺を好きになってくれるよう、今はゆっくりと、だけど着実に、信頼を勝ち取っていくしかない。
本日こちらの書籍が発売します!
『私を殺す攻略対象と、赤い糸でつながっているのですが』
SQEXノベル
1430円
イラスト 春野薫久先生
活動報告に詳細を載せています!
イラストが大変素敵なので、ぜひお手に取ってみてください!




