表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/205

2-55:ミョルニル


 炎骨スルトから剣技を受けたからだろうか。僕は、父さんとの修練を思い出していた。

 最初の頃。本当に本当に、剣を持った最初の頃。

 僕は鋭くて冷たいこの金属の塊が、とても恐ろしく感じた。ダンジョンで自分にこれが向けられるなんて想像もできない。日常的に刃物と対峙している父さんを、尊敬を通り越して不思議に思っていた。


『父さんは魔物と戦うのが怖くないの?』


 思い出の中で、父さんは僕の頭をなでた。

 その時はまだ10歳くらいだったから、手のひらが頭を覆った。


『怖いさ』

『じゃあ、どうして戦いに出るの?』


 ほんの子供だった僕でも、冒険者が危険な仕事だっていうのはわかっていた。

 父さんは少し困ったように上を向いて、笑った。


『怖いのはみんな同じなんだ。みんな怖い。お向かいのおじさんも、隣の粉屋さんも、父さんもね。みんな魔物は怖い』

『じゃあ……』

『違う、だからさ』


 父さんは僕の目を見つめた。


『みんな怖いなら、誰かがやるしかない。なら、父さんがやろうと思うんだ』


 怖いと知っているから、周りの人みんなが怖がっていることを、感じることができる。

 そのうえで恐怖をねじ伏せて、前に進んでいく。

 思い出せた。父さんはそういう人だった。

 『血の夕焼け』――最後の戦いでユミールに挑んだ時も、そんな立ち向かう意思があったのかもしれない。


『もちろん、最初から怖くない人も少しはいる。けれど怖いと思っても、震えを押さえて戦いに行く。だから勇気と呼ぶんじゃないかな』


 怖いからこそ――前に出る。怖さを知ってなお踏み出すことを、確かに『勇気』というのかもしれない。

 子供心に、僕はそう思ったんだ。

 父さんとの修練が始まったのは、その頃だろうか。


『剣は、そのためのものなんだ。武器の部位には、守り、戦うための仕掛けがいくつもある』


 敵の武器を受け止める鍔。突くための切っ先。重心を調整し、時には打撃もできる柄頭。


『剣にはハンマーだって隠れている。探してごらん、練習と知識は、いつかお前を助けるから――』


 リオン、と父さんが僕を呼ぶ。声は次第に揺れて、揺れて、僕を現実に引き上げた。


 しっかりな、とぽんと肩を叩かれた気がした。



     ◆



「リオン!」


 呼びかけられて、僕は壁際に倒れていることに気づく。前にいるのは、ソラーナだ。

 その姿を見て僕は心臓が止まりそうになった。


「そ、ソラーナ……?」


 女神様は、右肩から左腰までを失っていた。ものすごく小さくなってしまった体、その切れ目から、黄金の光が漏れている。

 ソラーナは真っ白の顔で笑った。


「よかった。安心して、君は無事だ」

「そ、ソラーナは……」

「わたしは平気だ。神は肉体を持たない、だから……まずは君を守りたかった」


 そう言ってほほ笑む。こんな姿になって痛みがないはずがない。涙がこぼれそうになった。

 遠くから炎骨スルトの唸りと、魔物の吠え声が響いてくる。どちらもひどく恐ろしかったけれど、それ以上にソラーナが傷ついてしまったことが悲しかった。


「そんな顔をしないでくれ。最初に言っただろう? わたしは、君と共にある神でいたいと」


 だから、と続けた。


「君を守れてよかった。だが……少し、休む」


 言い残してソラーナは光になって弾けた。体にまとう『黄金の炎』が強まったように思う。最後の力で、神様は加護を維持してくれたんだ。

 手に握ったままの短剣から、金貨が剥がれ落ちる。

 ちりん、とこんな時でも、涼し気な音だった。

 光の剣となっていたソラーナは、僕らの盾にもなったんだろう。だから、あんなに傷ついてしまった。


「う……」


 怖さと情けなさが交じり合う。勝手に萎える手足を、胸の奥の熱さが叱りつけていた。

 立て!

 立って、構えるんだ。


「平気かい?」


 目の前に影がさす。神様ロキだった。

 ミアさんや、フェリクスさん、そしてサフィも駆け寄ってくる。みんなかなりの傷を負ったみたい。ミアさんは左腕を押さえて、フェリクスさんも右腕に大火傷を負っていた。

 もしソラーナが身を挺して守ってくれなかったら――そう考えただけでぞくりとする。

 癒しの能力を使いたいけれど、薬神シグリスは上で小人を守るのに精いっぱいだ。何より、魔力はまだ温存した方がいいと思う。

 ミアさんが鎖を口にくわえながら尋ねた。


「リオン、戦えるかい」

「は、はい……!」


 やり直しだ。

 20メートル近い巨体が、遠く熱気に揺らいでいる。もう一度、スルトに近づくところからやらなければならない。

 魔物の数も元通り。スルトの火が封印の氷を溶かし、魔物をこの階層へ呼び寄せているのだから。

 さらに、スルトは必殺の炎剣を持っている。


「あれは炎骨スルトの武器、『枝の破滅』とも、レーヴァテインとも呼ばれた武器だ」


 ロキが腕を組んで、目を細める。

 一度は世界を焼き尽くそうとした巨人だ。もし僕達が敗れるようなことがあれば、小人達は全滅して、アルヴィースの街、やがては王都までこの火は届いていくのだろう。

 ソラーナがかつて神話をみせてくれた。その時に感じた、ルゥや母さんが火に包まれるという不安が、現実のものになる。


 ――オオオッ!


 スルトが吠えた。狂乱して僕らへ襲い掛かる魔物の群れ。

 そこに、巨大弓(バリスタ)から魔法や大矢が打ち込まれた。瞬く間に魔物達が灰になり、スルトに向けて一直線へ通じる道ができた。番兵ゴーレムが魔物にぶつかって、少しでも回廊を維持していく。


「これって……」


 頭に耳慣れない声が響いた。小人王様の言葉だ。


 ――我々小人も、魔力と仕掛けを振り絞ろう!


 小人王様は、どこかで僕らの様子を見ているのかもしれない。壁際で赤い宝珠がきらりとした。

 上から10体くらいの人型が――番兵ゴーレムがさらに降りてくる。


 ――目星があるのだろう?


 僕は顎を引いた。

 目指すは、見いだした弱点。

 スルトの両膝にある『ゴーレム核』だ。巨人の膝下は、土と岩で作られた義足で、ゴーレム核を壊せば敵は立っていられない。

 決意が強くなる。『負けちゃだめだ』という思いから、『みんなで勝ちたい』という意思に。


「行きます! 援護をっ」


 叫ぶと、ミアさんとフェリクスさんが息を揃えてくれた。


「おうっ」

「はいっ」


 駆け抜ける。距離はたったの50メートル。

 <太陽の加護>、『黄金の炎』であれば一瞬で駆けぬけられる距離だけど、魔物がいるなら話は別だった。小人がこじ開けた穴は、殺到する魔物で見る間に埋まる。

 それを鎖斧と魔法、そして番兵ゴーレムが少しでも長持ちさせた。

 ガルムの炎弾が真横から襲い掛かり、スルトが炎剣を振り上げる。


「っ」


 間一派で回避。炎の余波が、きっと対面の壁まで届いただろう。

 炎剣の振り下ろしは、みんなも避けたと信じたい。

 でも――これだけじゃない!


「リオン、避けろ!」


 ミアさんが悲鳴をあげる通りだった。

 振り下ろしの後、右に避けた僕を刈り取るように、大薙がくる。炎の剣が、扇状に床を洗っていく。


「目覚ましっ」


 サフィが刻んでくれた『(ラド)』の文字。風の精霊シルフが飛び出して、追い風を吹かせてくれた。

 丁度、近くにいたゴーレムを駆けのぼり、足場のように使う。跳躍して、薙ぎ払いを回避した。

 距離はあと30メートル。

 魔物がいない空間を駆け抜ける。床が熱い。速く駆け抜けないと、靴ごと焼けてしまいそうだ。


「グオオオッ」


 目の前に、2つの巨体が立ちふさがった。どちらも8メートル近い、『炎の巨兵』だ。巨人は手を組み合わせ、僕を叩き潰そうとする。

 左右にステップして避けると、傷口がとても痛んだ。

 歯を食いしばって耐えた。女神様はもっと痛かったはずだから。

 あと、10メートル。

 僕は、魔力の城壁の隙間に飛び込んだ。


「1つっ」


 短剣ですれ違いざまに、膝のゴーレム核を切りつけた。


「2つ目っ」


 炎骨スルトがよろめき、倒れる。目が驚愕に見開かれていた。

 神様と、精霊、二つの力で得たスピードは、炎骨スルトの想像も超えていたのかもしれない。

 頭が下がってくる。僕は<雷神の加護>を使って、急所を、頭を狙おうとした。


 ――おのれ!


 スルトが炎の剣を地面に突き刺した。

 ここ、攻撃の直下だ。

 リスクを忘れていた。

 僕を誘い込んで、いっそ逃げられない距離まで引き付けて、炎剣(レーヴァテイン)の爆発に巻き込むつもりなんだ。

 フェリクスさんが叫び、魔法を使う。


「リオンさん! こっちへ!」


 僕は反射的に地面を蹴っていた。あれほど苦労して近づいたスルトから、今度は遠ざかる。

 走れ、走れ、走れ!

 20メートルほど離れた位置に、仲間がいた。番兵ゴーレムが集まって、即席の壁になってくれている。

 裏からじゃらりと鎖が飛んできた。

 無我夢中で掴む。

 ミアさんがぐいと壁の裏側へ僕を引き寄せた。


氷壁(ラバジ)……!」


 フェリクスさんが番兵ゴーレム達の壁を、魔法で補強。サフィもゴーレム達に鎚を振るい、『祝福(ブレッシュ)』で強化していた。ロキの魔力も加わる。

 小人王様の声も頭に響いた。


 ――私も、宝珠から守護の魔力を送るが……!


 ダメ押しとばかりに、二度目の終末の炎が爆ぜた。



     ◆



 雷神トールと、世界蛇ヨルムンガンドは何合目ともなる打ち合いを続けていた。

 戦況は一方的だった。

 牙。毒液。柱のような尾がしなる。全てを鎚ミョルニルでいなしつつも、トールの体は着実に傷ついていた。

 夜は白み始めている。血と泥に汚れた雷神の体と、闇色に照り輝く大蛇の体は、対照的だった。


 ――楽しいわねぇ。


 世界蛇は金の瞳を三日月形にして、喉を震わせた。鎌首をもたげて、浮かぶトールに目線を合わせる。


 ――あなたは、街や、鉱山を庇っている。この私が破壊しないようにねぇ。おかげで動きが読みやすいったらない。


 周囲では木がなぎ倒され、両者がどこで戦ったのは明らかだった。

 もし誰かが上空から見れば、そんな戦場の跡が、だんだんとアルヴィースの街や鉱山から遠ざかっていくことに気づいただろう。

 市街に大蛇が躍り込めば、大勢に被害が出る。だからこそトールは傷を増やしながらも、体を張って大蛇の進路を妨害していた。


 ――しかも、あなたは力を出し切れていない。


 大蛇は真っ赤な口で笑った。


 ――それは封印のせい? それとも何かを狙っているのかしらぁ?


 トールは無表情を貫いた。背負った雷雲からは強風がやってきて、赤髪を乱している。

 背後の鉱山、そこに刻まれた裂け目から火が走った。


 ――スルトの炎ね。


 トールは瞠目して振り返る。大蛇がぐばりと大口を開け、笑い声を夜空に響かせた。


 ――角笛の少年が焼け死んだのは残念だけどぉ……この状況なら、今後、邪魔になる可能性の方が高いしねぇ。


 火山噴火のように、山の裂け目から炎が吹く。トールはゆっくりと首を振った。


「ふん!」


 分厚い掌を大蛇にかざすと、背負った雲から電光が走る。雷を幾条も束ねたような轟音が、辺りを揺らした。

 雷撃のほとんど地面に落ちる。土ぼこりが大蛇の視線を塞いだ。

 煙が晴れた頃、ヨルムンガンドは言葉を失った。

 トールとの距離が開いている。雷神が後ろへ――下がったのだ。


 ――今更、撤退?


 世界蛇と戦神は何度も戦ってきた。戦いに誇りを持つはずの戦神が世界蛇(ヨルムンガンド)を前にして自分から下がるなど、ありえないこと。

 山と街を守ってボロボロのくせに、鉱山へと引き下がっていくトールの顔は誇らしげだった。


「言っただろう!」


 はっはっは、とトールは笑った。愉快で、痛快で、楽しげに。

 白み始めた空を後ろに下がりながら、トールは鎚を掲げてみせた。


「人間をなめるなと。何度も立ち上がる。体は小さいが――」


 ぐっとトールは左の親指で胸を指さした。


「ここにでかい意思がある」


 トールの胸には、赤い光が灯っていた。



     ◆



 大空間は静まり返っていた。暗いのは、熱で魔石灯が壊れたせいかもしれない。

 薄闇に、火を纏った炎骨スルトが浮かび上がっている。


 ――なぜ?


 スルトの声が響いた。


 ――なぜ、お前たちは、燃え尽きていない?


 僕は焼け落ちた番兵ゴーレム達の外側へ出た。結果としては、スルトは両膝を犠牲にして僕を誘い込んだことになる。けれど必殺の炎は、僕らを焼き尽くすことはできなかった。

 けほっと僕は咳き込む。周りが熱い。息ができているのが不思議なほどだ。


 たぶん、理由はたくさんあるんだろう。

 ソラーナが炎の剣とぶつかりあって、力を削いでくれたこととか。

 小人の番兵ゴーレムが壁になってくれたこととか。

 ロキや小人王様も魔力で僕らを守り、フェリクスさんとミアさんも僕が逃げるのを助けてくれた。

 最後の最後で、用意していた耐火マントが効いたのかもしれない。裾の方は縮れて、だいぶ痛んでしまったけれど。


 ――我々の炎が、世界を焼き尽くす炎が、ちっぽけなお前独りを焼けないなど。


 僕は巨大な顔を睨みつけた。目に涙がたまるのは、周りが熱すぎるせいだけじゃない。


「違う! 僕は、みんなに助けられた! 神様が、小人が、ミアさんがフェリクスさんが、みんなが守ってくれた! だから――!」


 全力で戦ってきた恐ろしさが、遅れてやってくる。

 けれど神話の巨人に向けて叫んだ。


「独りじゃない!」


 だから、負けない。


 ――オオオッ!


 スルトが再び火勢を強める。

 その時、迷宮が揺れた。天井の裂け目から、赤い光がやってくる。

 同じ色の明かりが僕の胸にもあった。


「リオンっ」


 トールが僕に、巨大な金鎚を放った。金槌は僕の頭上で輝くと、光になってはじけた。

 魔力が降る。

 雷神トールの、絶大な魔力が。


『世界蛇との決着を、ふいにしてきたんだ。気張れよ、英雄』


 ドォン、とすさまじい音を立てて大蛇が外から天井の裂け目にぶつかった。


 ――スルト、気を付けなさい!


 膝をついた炎骨スルトは、怒りに燃える目で僕を見下ろしている。

 大蛇の声が降った。


 ――トールは陽動にかかったのではない! 戦神の本命は、最初からこの少年……!

 ――まさか人間に、スルトの討伐を本気で託していたなんて……!


 今更に気づく。敵は、きっと僕がスルトの相手になれるなんて、想像もしていなかったのだろう。

 その油断が、計算違いが、きっと今の状況を生み出した。

 僕は雷神トールの力を受けて、踏み出した。頭に神様の声が響く。



 ――――


 <スキル:雷神の加護>を使用しました。


 実績を達成。


 新しい能力が付与されます。


 ――――



 スキルは神様との絆で生まれるもの。だとすれば、トールとの絆が深化すれば、新しい力が得られるのかもしれない。

 王都でソラーナとの間に『太陽の娘の剣』が生まれたのと、同じだ。

 僕は巨大な魔物、炎骨スルトの前に立つ。

 かつて戦神トールがいくつもの巨人に、自分よりも大きな存在に、立ち向かったように。

 同じ意思が絆を強めている。

 胸に宿る赤い光は、スルトの炎より熱い。



 ――――


 <雷神の加護>を使用します。


 『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。


 ――――



 <太陽の加護>による『黄金の炎』と、<雷神の加護>の『戦神の意思』が、同時に僕にかかっている。

 踏み出す。

 たった一つの跳躍で、スルトの正面へ踊り上がった。


 ――オオオッ!


 スルトが吠えて、魔力障壁を展開する。パチン、と気が抜けるほど小さな、指を鳴らす音がした。

 横合いから聞こえたと思う。僕もスルトもそちらを見た。

 トリック・スターがそこに浮かんでいた。


「ロキを忘れてもらっては困るねぇ」


 スルトの目が見開かれた。巨大な肩、その横に浮かんだ黒いローブ――魔神ロキを睨み据える。


「平和な時代、君たち巨人からも魔術を学んだりしたのだよ。君らの魔術(やり方)も学び済みだ」


 怒り狂ったスルトが右手を振るう。ロキの体が、ごっそりと削がれた。


「やれやれ、この僕が捨て身とは。芸がないが……」


 ロキは僕を見つめ、薄まりながら笑いかけた。


「頼む……いや、託すよ、リオン」


 展開されかけた魔力障壁が、霧散する。スルトという戦いの中心を守る魔物も、城壁も、もう存在しない。

 僕は精霊シルフの追い風を受けた。まっすぐに空中を進む。

 胸に宿った赤い光がどんどん強まっていく。

 ソラーナの時は剣だったけれど、今、頭に思い浮かんだのは『鎚』だった。

 燃焼する巨人の顔が近づいてくる。熱で鼻が痛い。目が焼け落ちてしまいそうだ。

 僕の周りには魔力が降っていて、今にもスキルにさらなる力が目覚めそうだった。いや、みんなにチャンスをもらったのだから、目覚めなきゃいけないんだ。

 でも――


『……適性がやや足りないか』


 トールの無念そうな声。


「そ、そんな……!」


 もらった魔力が、僕の手の中で形にならない。降ってくるそばからトールの魔力は霧散していくだけだった。

 ロキの声が追ってくる。


『ソラーナとの絆が、やはり特別なのかもしれないねぇ。君の魔力操作に対する適性は、やはり()()()()だ』


 このチャンスを受け止める力が、才能というものが、僕にはないのかもしれない。

 それはそうだ。

 外れスキルで、元々は落ちこぼれで、父さんのような英雄でもない。

 こんな大事なときに、僕自身の弱さが足を引っ張るなんて……!

 トールが叫んだ。


『リオン、それでも想像しろ。俺の力を、俺の鎚を!』

「そ、想像……?」


 魔法は想像力――想いが像をなす力ってかつてロキは教えてくれた。

 一生懸命念じる。頭に浮かんだのは、父さんと訓練したことだった。

 あの大きな手がこうするんだと教えてくれたような気がして、僕は短剣を持ち替える。


 掴むのは、短剣の刃。


 指を守るガントレットを頼りに、刃を掴んで、鍔の方を上にする。

 十字の剣や短剣は、ひっくり返せば()()()()の形をしている。殺撃――本来は長剣で使う、鍔で相手を打撃する構え方だ。

 手に『ハンマー』を握ったことで、僕は、僕自身がトールの『鎚』を握ることをぐっと確かにイメージできた。


 妹からもらった銀色のガントレットが心強い。指を守るだけじゃなくて、お兄ちゃん、とルゥが手を添えてくれているみたいだ。


 ――焼いてやる! 焼き尽くしてくれる!


 スルトの顔はもう眼前。

 諦めない。

 足りない魔法適性は、家族との『思い出』で補う。

 雷神から借り受けたその武具の名を、喉が弾けそうなほど叫んだ。


「ミョルニルッ!」



 ――――


 <雷神の加護>を使用します。


 『ミョルニル』……雷神から、伝説の戦鎚を借り受ける。


 ――――



 逆に持った青水晶の短剣。雷光が纏い、輝く巨大な鎚を顕現させる。

 轟音と共に、僕はミョルニルを終末の巨人へ振り下ろした。

お読みいただきありがとうございます!


ここまででブックマーク、☆評価、感想、レビューなどでリオンを応援いただけましたら幸いです。


あと2話ほどで第2章も終わりですが、章の最後で『お知らせ』をさせていただく予定です。

最後までお楽しみただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
転生少女は大秘境スローライフを目指す ~スキル『もふもふ召喚』はハズレと追放されました。でも実は神獣が全員もふもふしてた件。せっかくなので、神獣の召喚士として愛犬達と異世界を謳歌します~

【書籍化】 3月15日(水) 小説第2巻・漫画第1巻が発売します!
コミック ノヴァ様でコミカライズ版は連載中です!

4vugbv80ipbmezeva6qpk4rp5y4a_ba7_15w_1pr_on12.jpg

書籍サイトはこちらから!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ