2-45:ゴーレムの妨害
鴉の戦士団が戻ってきて、僕らのパーティーは5人から7人に増えた。
迷宮ごとにパーティーの最適人数は決まっていて、アルヴィース・ダンジョンでは7人らしい。これ以上の人数になると、魔物に気取られやすくなって、連戦による消耗が戦力の増加を上回るみたいだ。
今まではというと、僕とミアさん、フェリクスさんにサポーター2人を加えた計5人。これはレベルアップを早めるため。
大勢で魔物を倒すと、一人一人に吸収される魔力は少なくなる。だから少人数で強敵を倒すというのが、レベルアップの近道だったんだ。
でも、今は目的が違う。
目指すは最下層だ。
4層、5層、そして――6層。
無言で階層を下げていく。
アルヴィース・ダンジョンは5層目から宮殿らしい広間を見せ始めたけれど、6層目からは太古の技術がもっとはっきりした。
落とし格子や、隠し扉のような罠。時々、くぼんだ壁から巨大矢の発射台――弩砲がこちらを睨んでいて、ドキリとする。
<狩神の加護>があるから先頭は僕で、つまり僕ばかりびっくりするんだ。
幸い、錆びついてもう動かないものばかりだったけど。
「宮殿の防衛機構ね。ゴーレムみたいに、勝手に矢を射るものもあるわ」
サフィがリュックの中から教えてくれた。
フードを確かめながらミアさんが小声でぼやく。
「……こういうの、普通は入り口近くに置くもんじゃないか? 上層から攻められるんだから」
「あるいは……」
足を動かしながらフェリクスさんが言う。
「攻められたのは、下からだったのかもしれませんよ。サフィの言葉であれば、鉱山の麓にはもう一つの入り口があったのでしょう?」
会話の途中だけど、僕は手を挙げた。
これは止まれの合図だった。みんなで息をひそめる。
耐火マントとフードを被って隠密行動していると、まるで古代の宮殿に忍び込んだ盗賊みたいな気分になる。
「……遠ざかりました。ゴーレムです」
巨大な二本足だから、多分、間違いないだろう。
進んでも遭遇しないことを確認してから僕は動き始めた。次は、7層目だ。
「ゴーレム、ちょっと多いね」
ミアさんに僕は首肯する。
「敵のゴーレム使いが、迷宮に放ったのかもしれないです」
「あーあー。面倒な敵ばかり出てくるな」
その予測はすぐに証明された。
8層までは接敵を最小限に降りてこられたけれど、9層目、よりにもよってボス層へ降りる階段の前で5体のゴーレムが陣取っていた。
フェリクスさんが苦笑する。
「これはこれは。あからさまですね」
「ボス部屋に入るなってか。ゴーレム使いが、奴隷商人と結託してるのがわかったね」
僕達は素早く視線を交わしあう。
フェリクスさんが手を肩の高さまで上げてから、指をゴーレムへ向けた。
後ろの戦士団へも指示を伝えたんだろう。王都の南ダンジョンでも見た合図――『蹴散らして進む』という意味だ。
「いこうっ」
僕とミアさんが踏み込む。
後ろから魔法の援護。たちまち2体のゴーレムが炎に包まれ、撃破された。
「コアは全部、左肩です!」
僕は探知結果をミアさんに伝える。
パワーアップした鎖斧が、ゴーレムの左肩を打ち砕いた。
僕も敵陣の後ろに回り込んで、精霊の力を借りる。
「目覚ましっ」
風の刃がゴーレムの左肩を切り裂いた。まとった土が剥がれ落ち、露になった赤いオーブ。跳躍の勢いで破砕する。
ゴーレムの軍勢はもう最後の1体になっていた。
「ウオ、オオオ!」
振り下ろされる拳をかわす。<雷神の加護>を使って、左肩に電撃を叩きつけた。
地を揺るがせる雷。
<雷神の加護>、だんだんと威力が増したように感じる。
『……加護は神々との絆によるものだ。リオン、君は、トールとより強い絆を結び始めているのかもな』
ソラーナの言葉に、汗をぬぐいながら首を傾げる。
『認められているってことさ。トールは、戦士の神だから』
そういわれると、ソラーナとの間でも新しい力が芽生えたりした。能力『太陽の娘の剣』がそうだ。神様と過ごす内に、加護が強まったり、能力が増えたりすることもあるんだろうか。
例えば、今みたいに巨人やゴーレムに立ち向かい、『戦士』に近づくことで。
「ヴ……オッ」
倒したゴーレムが仰向けになって倒れ、岩と土へ戻る。
女神様は声を震わせた。
『リオン、また……見違えるように強くなった。君は、背負うたびに、強くなる』
「止まっているわけには、いかないから」
ボス層には――ルゥを守るために、求める力がある。
でもそれだけじゃない。
1人の小人の女の子にとっても、大事な秘密が眠っているんだ。
「みんな、奥へ」
僕達はボス層へ至る長い階段を降りた。
たどり着いた空間は、天井が高い。
15メートルはありそうで、たとえ鐘楼をここに運んできても屋根が天井にぶつかることはないと思う。
広さも街が一区画入ってしまいそうな円形。僕らが王都で暮らしていた街並みが、すっぽりとこの空間に収まってしまうだろう。
それががらんとした虚空になっているのだから、寂しさと、不穏さを同時に感じた。
これだけの大空間を必要とするボスってどんなものだろう。
頭に神様の声が響く。
――――
巨人の尖兵が出現しました。
――――
闇から現れたのは、巨大なヒトガタ。分厚い体の上で、赤い両目が光っている。乱れた黒髪は、魔獅子のタテガミのようだ。
「巨人タイプの魔物、ですね」
僕は呟いていた。
見上げるほどの大きさだけど、『憤怒の化身』より少し小さい。頭は天井の半分ほどの高さだ。
でも、安心はできない。
「ここにも、遺灰が影響しているなら……」
神様の声はすぐに歪んだ。
――――
巨%|大∠が出現しました。
――――
震えが肌を走る。理屈じゃない、原始的な緊張。
やっぱり、東ダンジョンと同じだ。
迷宮の封印を狂わせる遺灰が、使われている。
現れた巨人。そこに空間の闇が集束し、巨体は闇にまみれていく。
僕らは身構えた。
黒く塗りつぶされた人型は、手を広げた態勢で静止している。けれども、その指先に、真っ赤な火が灯った。油を全身にまとったかのように。
火は両腕、肩、そして胴体へと伝播して、大きな体を炎で包み込む。
瞬く間に空間は光と熱波に満ち溢れた。
――――
炎の巨兵が出現しました。
――――
業火と叫びが空間を揺るがし、迷宮のボスは――いや、封じられていた裏ボスは僕らに殺到した。





