2-30:武器に宿る加護
サフィさんはずいぶん長い間、硬直していたと思う。
無理もない。だって、目覚めたら1000年後で、ここは故郷アールヴヘイムから遠く離れた場所。そもそも、大切な故郷の名前すら『アルヴィース』と変わってしまっているんだ。
ソラーナが見守っているのは、起きた時の神様自身のことを思いだしているからかもしれない。
「サフィさん……」
火が消えたみたいに、賑やかさが失せていた。
「サフィでいいわ」
緑のおさげを振ってサフィは座りなおす。
子供みたいな姿だけど、目の光は強かった。
「こっちも覚えていることを話すわ。ずいぶん長い間、眠っていた気がするの」
だけど、と言葉を継いだ。
「目覚めたら周りには誰もいなかった。ていうか、1000年って……!」
頭を抱えて首を振る。本当の幼子みたいだ。
「……ごめん」
「いえ」
「それで元いた部屋の外に出たのだけど、頭がぼうっとして、何よりも寒くて……あまり目覚めた直後のことは覚えてないわ」
ソラーナが口を開く。
「角笛は聞こえたかい?」
「……角笛? ああ、なんか聞こえたような気もするけど……」
サフィの指で、赤い指輪がきらりとした。
「それに眠っていた場所のずっと下の方から、もう、なんていうか――とっても怖い気配を感じたの! 逃げ出そうと思って、ずっとずっと階段を上がって、そしたら川みたいな場所に出て……木箱に隠れたと思ったら、次に目覚めたらここだったのよ」
僕らは顔を見合わせてしまった。
たぶん、ところどころ記憶が飛んでいる。そのせいで要領を得ない部分が多いんだ。
「……少しいいかい」
ソラーナがサフィの指輪に目を細めた。白い腕を伸ばして、サフィの手を取る。
「魔力を帯びた指輪だな」
女神様に応じるみたいに、ロキが机に近寄った。
「貸してごらん。ははぁ、小人の細工だね」
ロキは僕らを見下ろしながら、口の端を上げる。
「『守護の指輪』だ。魔力をこめたらこめた分だけ、持ち主を苦難から守る。これで想像がついた」
魔神様は人差し指を振った。
「おそらく、彼女は角笛か、何らかの理由で封印から目覚めた。しばらくの間は、指輪の防護が封印を押しのけて動くことができる。だがそのうち時間切れ、ついに再封印され石になった――そういう形だと思う。木箱に潜り込んだというなら、そのまま出荷されたんだろう」
ロキはくすくす笑っていた。
「骨董屋の馬車じゃなくてよかったね。何ゲントの石像になるのかな?」
「くっ、この……!」
「ロキ、ひどいよっ」
怒るサフィに、僕だってさすがに加勢する。ロキはものすごく丁寧に腰を折って、振っていた指をサフィの手に向けた。
「しかも。この指輪、周辺の魔力を吸収する効果もあるようだ」
「周りの……?」
「今回は、一緒に運ばれていた魔石だろうねぇ。つまり時間がたてば、魔力が復活――要は再チャージされるってコト」
サフィが飛び上がった。
「お、思い出したわ! そう! それで、ついさっきも目が覚めたの! ただ木箱の外は全然違うところだし、お腹すいてるしで――荷物をあさりにいったの」
やっと一つ納得できた。サフィは封印解除される直前、袋に手を突っ込んだ形で石になっていた。
あれは多分、食料を探していたんだろう。
「た、逞しいねぇ……」
ミアさんは呆れるやら感心するやら。
ソラーナが顎に手をやる。
「ふむ。だが補給の途上でまた石になり、わたし達に見つかったということか――」
フェリクスさんが目元を揉んでいる。
「……懸念を整理しましょう。状況は不明な点が多い。しかし、どうやらあのゴーレム核も、サフィと同じようにアルヴィースから来た可能性がありますね」
同乗していたわけですから。
フェリクスさんの言葉に、僕も考えこむ。
鉱山街アルヴィースが、アールヴヘイムと同じ場所にあるのは確かみたい。なら、確かにサフィがいた場所、つまりは旅の目的地からゴーレム核が来てるってことになるよね。
「ゴーレムか……」
西ダンジョンでも、今回でも、ゴーレムには巨人の影を感じる。同じように大きいのだけど、それ以上の何か。
サフィはしばらく机を見つめていた。
思い切ったように顔をあげる。
「その……封印ってのはまだアタシにもよくわからない。けど、アールヴヘイムにはまだ仲間がいる。あなた達の呼び掛けにも、応える声あったんでしょ?」
サフィは僕らを見回した。
「お願い、アールヴヘイムを助けて、起こしてあげて。お礼はみんなからきっと出る、小人の鍛冶場から……!」
真摯な願いは、僕が予め知っていた『黒小人』の危険なイメージとは違う。
小人の技術が味方につけば、ルゥを守ることにも繋がるだろう。
「もちろん」と応じたい。
その時、ロキの声が頭に響いた。
『リオン』
外に出ているのに、声を出してない……? 金貨にいる時と同じやり方だ。
『気を付けるんだよ。この子はどうか知らないが、神話時代にも、不信や裏切りは当たり前にあった。とにかく用心することだ……』
ロキ……やっぱり、何かあったのかな。
サフィが寂しそうに笑う。
「……ダメ? へへ、やっぱり、黒い方は信用できないかな」
いえ、と僕は首を振る。
「予定通りだよね、みんな」
ミアさんも、フェリクスさんも頷いた。ソラーナも太陽みたいに見守っている。
「リオン、わたしは君に賛成だ」
サフィの顔がぱっと輝いた。おさげを揺らして、重たそうなバッグから小さな金鎚を取り出す。
「それじゃ、アタシも協力する! 待ってな、アルヴィースにつくまで武器を見違えるくらいに鍛えてあげるから!」
小人の鍛冶屋さんは胸を張る。
「あなただけの、特別な魔法文字を刻んであげる!」
「ルーン?」
「武器を強める、紋章のようなものね! 小人の刻む魔法文字は、神々でも真似できない特別なもの――期待して待ってなさい」
僕らはアルヴィースへの道を急ぐことにした。
新しい仲間――小人の鍛冶屋サフィを仲間に加えて。
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次回更新は明後日12月10日(金)予定です。





