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2-26:黒小人

 布の下、つまり馬車の荷台にあったものに僕もフェリクスさんも硬直してしまった。

 2人して顔を見合わせる。


「……石像」

「ですね」


 それは、とても奇妙な石の像。

 小さな女の子の形で、とても精巧だ。大きな目や毛先、服とカバンの皺まで、緻密に彫られている。指輪なんて今にもきらりと輝きそうだ。

 僕でも腕がいい人が彫ったんだってわかるけど、ポーズが、なんていうか……とても変だ。

 四つん這いになって、隣の荷物袋に右手を伸ばしている。まるで何かを取ろうとした瞬間に、硬直したみたいに。



 ――――


 黒小人(くろこびと)■■■が封印解除可能です。


 ――――



 肩が跳ねてしまった。


「く……黒小人?」


 それは目的地アルヴィースにいたという、小人の一種。

 『闇の小人』ともいわれる。神様や人間に取引をもちかける、油断ならない存在。

 まだまだ遠いと思っていた出会いに、僕は言葉を失ってしまった。


『よ、よく見せてくれ』


 ソラーナが金貨から飛び出してきた。

 人形サイズの神様が、変わった石像の周りを飛び回る。


「た、確かに黒小人――ドヴェルグに……みえるな。封印解除できるのか?」


 頷きながらも、混乱してるのは僕も同じだ。


「ええと、アルヴィースにいるかもって話だったんだよね?」

「そうだが……なぜここに?」


 わからないことだらけだ。

 辺りを警戒しながらフェリクスさんが言う。


「申し訳ありませんが話がまったく見えない。これが、その……我々が捜していた小人? どう見ても石像なのですが」


 僕もこくりと首肯する。

 スキル<目覚まし>は反応しているけれど、見かけは普通の石像なんだ。

 ソラーナがうむむと腕を組んだ。


「小人は、半人半神。今のわたしのように魔力で顕現するのではなく、肉体がある」

「う、うん……」

「封印のされ方が神々とは違うのかもしれない」


 ええと……。

 ちょっと考えてみよう。


「ソラーナは金貨に封印されているんだよね……?」

「うむ。だが、小人は肉体を失うわけにはいかないから、肉体ごと封印される、あるいは石になって肉体を守っているのかもしれない……。ロキはどう思う?」

『ま、どうだろうね? 僕としては後者に賛成かな。太陽を浴びて黒小人(ドヴェルグ)が石になったなんて噂も聞いたことあったけど、あれも小話だしねぇ』


 僕は石になっている黒小人を見た。

 よく見ると眉根を寄せて、ちょっと苦しそうな顔をしている。


「……平気、なのかな」


 そっと触ってみると、胸で勝手にスキルが起き上がった。



 ――――


 <スキル:目覚まし>を使用しました。


 『封印解除』を実行します。


 ――――



 ぱっと光が散る。僕とフェリクスさんは慌てて白い布を被せた。


「リオンさん、何を……!」

「ご、ごめんなさい」


 僕もフェリクスさんも冷や汗をタラタラ流しながら、周囲をうかがっていた。

 今の状況を見られたら、盗人だと思われてしまうかもしれない。最悪でも戦士団の身分を明かせば、『調査』ということにできるようだけど、トラブルはトラブルだ。


「うぅ~ん……」


 息をのむ僕らの前で、白布がもぞもぞ動く。

 リンゴがごろっと荷台から転がり落ちてきた。


「うあっ」


 荷台を覆っていた白布を巻き込んで、封印解除された存在は地面に落ちる。

 ずしゃ、と痛そうな音に僕は目をつむった。

 しばらく、白い布はウネウネと動いていた。


「いたた……!」


 やがて、女の子がひょっこりと頭を出した。

 チュニックを着ていて、歳は4、5歳くらいの大きさ。

 だけど黒小人だとしたら――本当にその年齢かはわからない。

 鍛冶屋さんみたいなエプロンをしていて、緑色の髪が目を引く。王都にはいなかった髪色だ。

 黒い瞳は、今まで見てきたどんな人とも違っているような気がした。なんだか、ちょっと動物みたいな光り方をしたように思う。


「……あ、アタシは……」

「リオンさん」


 フェリクスさんが、布がとれて、露になった荷台を指差す。


「あれを」


 僕は息をのんだ。

 馬車の荷台。その左端に隙間が開いて、赤黒い色が見えていた。隙間は他の荷物で隠されていたようだけど、白布と一緒にズレてしまったんだ。


浮遊(フィオタ)


 フェリクスさんが魔法で荷物を浮かせる。

 どうやら荷台は、『二重底』になっていたみたいだ。

 隠されていた底にはびっしりと赤黒いオーブが並んでいる。


「ゴーレム核ですね」


 フェリクスさんの分析に、ミスリル・ゴーレムが胸を過ぎる。

 あれと同じ『ゴーレム核』が、荷台いっぱいに並んでる……!


「西ダンジョンにあった核と色が……似てます」

「関係があるかもしれません」


 ゴーレムの技術と一緒にのってきた、黒小人。

 どういうこと?

 どこからきたの?

 ソラーナがふわりとオーブの上に舞い降りる。


「これは……西ダンジョンのゴーレムが、どこから遣わされたのかもわかったのではないか?」


 その時、遠くから足音が聞こえた。ゆっくりとこっちへ、この馬車へと歩いてくる。

 魔物じゃないから、魔力探知はできない。

 足音は4人。まちまちの歩幅で、談笑しながら歩いてくるようだ。

 逃げ出そう思えばできただろう。


「フェリクスさん」

「……見張りが戻ってきましたか」

「はい」


 4人、と手で合図する。ソラーナがさっと金貨へ戻った。

 隠れましょうと言わなかったのは、単純にその方が話が早いと思ったから。

 リスクはある。けど、鴉の戦士団と迷宮に潜ったり鍛練をした今なら、『野生の心』だけで相手の強さが推し量れた。

 強い人って歩き方から違う。


「……索敵、信用しますよ」


 フェリクスさんが囁く。

 やがて戻ってきた男達が駆け寄ってくる。


「てめぇは」


 僕は相手を見つめ返して、その先を制した。

 それはあの男――夕方にスリを働こうとした、鼻にキズがある男だった。

 フェリクスさんが短く笛をふく。仲間に合図を出したのだろう。


「……積み荷について、お聞きしたいことがあります」


 僕の言葉に、男達はひそひそ囁いていた。


「雇い主がいってたのはこいつか?」

「ああ……まさかと思ったが、確かに金貨を持ってやがった」


 ……雇い主?

 少し気にかかる。夕方のスリはやっぱり僕を狙っていたんだろうか。

 ソラーナが囁いた。


『リオン』

「うん、わかってる」


 いつでも『黄金の炎』を発動できるように身構える。

 油断はしない。索敵漏れも、今はない。


「こんなところで何してやがる?」


 答えずにいると、舌打ちされた。


「捕まえろっ」


 人相の悪い1人が飛びかかってくるのを、逆に前へ踏み切って避ける。

 相手はまだ僕を子供だと思っている。

 レベル19で足踏みしたままだけど、神様の加護がたくさんあるから、身体能力ではレベル差2つや3つは埋められる。


「がっ……」


 まあ、埋めるまでもないと思うけど。


『はは、いい投げだっ』


 金貨でトールが笑った。

 神殿で待つ間、神様は僕に稽古をつけてくれた。その時に教えられたのが、大きな敵と戦う方法。


『勇気あるお前にはぴったりだ』


 身長差を活かして相手の足を狙う(すべ)は教わり済みだ。

 もう2人はフェリクスさんがたちまち昏倒させている。


「お前……!」


 スリの男が、目を怒らせて凄んだ。

 ナイフを逆手に握り、切りつけてくる。

 でも短剣なら僕だって知ってる。もちろん、受け方も。


「はっ」


 短く息をはいて、相手の腕を手甲でガードする。勢いを殺した後、手首を返して相手の腕を掴みあげた。


「い、いででで」


 『黄金の炎』使ったのは、余計だったかも……。

 相手はナイフを落として呻いていた。

 仲間達が到着する。他の戦士団に、ミアさん。

 鼻にキズのある男が真っ青な顔で言った。


「お前達は、いったい……?」


 みんなと視線を交わしあう。

 一応、騒動を見ている人がいるかもだから、『鴉の戦士団』とは言えないよね……。

 誤魔化すように笑った。


「目、覚めましたか?」

「………………は?」


 ちらりと後ろに目を向ける。

 白布にくるまって、黒小人がこちらを見つめていた。


「す、すご~……」


 なんだか無害そう。黒小人の性質を聞いていても、ついそう思ってしまう。

 さて、次はあの子にも色々聞かないといけないよね……。

 不意に、ぞくりとした。

 荷馬車を振り返る。全てのゴーレム核が真っ赤に光っていた。

 鴉の戦士団が前に出ると、男達は慌てふためく。


「し、しらねぇ、俺らは何もしらねぇ!」

「運べって言われただけなんだ!」

「ただその……茶髪で金貨を持ったガキが、情報(ネタ)だけでもカネなるって、それだけで……」


 <狩神の加護>、『野生の心』。

 危険な魔物を示す赤い光が、目の前の荷台だけじゃなくて、視界のあちこちにあった。

 7、8……


「じゅ、17個……?」


 他の荷馬車にも核は積まれていたようだ。それが今、一斉に魔力を強めている。


『これはこれは、なぁるほど』


 ロキの声。


『ゴーレム核に巨人の遺灰を使っているのか。腕のいいやつが敵にいるね』

「ど、どういうことなの?」

『巨人は神々を憎むもの。その性質を使って、神々の力を感じるとゴーレムが起動するようにしかけてあるのさ』


 いつもより低い魔神様の声が、焦りとなって胸を焼く。


『これひょっとすると……ヤバいかもよぉ?』


 ゴーレム核が次々と起動。周りの岩や木、あるいは荷台の武具を取り込んで大きくなる。

 喉が動いた。

 下手をすれば、王都の東側の、繰り返しになる。

 広場の外には密集した建物や屋台――城外市があるんだから。


『リオン!』


 トールの声がした。


『思い出せ! ここはダンジョンじゃない』


 封印が弱いんだってことに気がついた。

 閃く希望。

 金貨の中には4柱の神様と、力を取り戻したソラーナがいる。


『角笛があった時ほど長くはやれないが……』

『人形相手には十分かな』

『働くのも、こういうタイミングなら悪くないね』


 トール、ロキ、ウルがそれぞれ言う。

 月光を浴びて、カルマルの夜にゴーレムの軍勢が出現した。


『リオン、今回は共闘というぜ』


 トールの言葉に、黄金の炎がさらに熱く燃えた。


お読みいただきありがとうございます!


ここまででブックマーク、☆評価、感想、レビューなどで応援いただけましたら幸いです。


次回更新は明後日12月5日(日)予定です。

(明日はちょっと親族行事があるので・・・(-_-;)

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