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2-21:世界樹の水鏡

 倒したミスリル・ゴーレムの体は、他の魔物のように消えたりはしなかった。岩も土も、古代の武具も散乱したままだ。

 ゴーレム核――赤黒いオーブも、瓦礫を台座のようにして残っている。

 ソラーナの思案気な声が聞こえた。


『ふむ……察するにこのゴーレムは、迷宮が生み出したものではない。だから、迷宮で倒れても灰にならないということかな?』

「うん……」


 頷きながら、僕はゴーレム核が見えるようにぐるっと周った。

 僕は不思議なままだったけど、ソラーナは少し納得したみたいだ。


『なるほどな。長い封印を氷の中で過ごす。ゴーレムの素材は土や岩とはいえ、1000年の間に、そこには魔力が通う。いわば、魔力によって維持される血肉になるわけだ。だから魔力が切れれば、他の魔物と同じように灰になる』


 僕は答えを返せなかった。

 難しくて理解が追いつかなかったというのもあるけど、目の前に積もるゴーレムの残骸が、ひたすらに不吉なんだ。


「ソラーナ、さっきなんて言ったの?」

『……うん。一瞬、あの遺灰に似た気配を受けたんだ』

「え……」


 僕はむき出しになったゴーレム核を眺めた。赤黒い、嫌な色をしている。

 あの遺灰に少し似ているんだ。


「……これも、外から持ち込まれたってこと?」


 フェリクスさんが杖をついた。


「調べるのは後にしましょう。どのみち、この部屋はしばらく封鎖になります。調べる時間はあとでたっぷりあるでしょう」


 ミアさんはしゃがんで、散らばった武具を拾いあげていた。


「もったいないねぇ。けっこう良さそうな盾もあるよ」


 フェリクスさん、疲れたように目を細めてる……。


「………………冒険者ミア。ダンジョンの遺物は、鴉の戦士団が預かります」

「はいはい」


 釘をさすフェエリクスさんに、ミアさんは肩をすくめて苦笑していた。

 さっきよりも打ち解けた雰囲気で、なんだかほっとした。

 そのあと、傷ついた戦士団を治療する。大きな傷は<薬神の加護>、『ヴァルキュリアの匙』で癒して、後は回復薬を用いた。


「じゃあ、行きましょう」


 みんなに合図してから、さっきの未踏エリアに戻る。

 相変わらず寒い。息が白くなった。

 壁のほとんどが氷に囲われて、ここから別の部屋になんて行けそうにない。


「……これから、どうするの?」


 ロキが金貨から応じた。


『ふふ、僕を出してくれないかい?』


 <目覚まし>でロキを封印解除する。人形サイズになった神様は踊るようにくるりと回ってから、僕らへ一礼した。

 黒髪と、同じ色のローブがふわりと揺れる。

 ロキは広間の丁度真ん中で地面に両手をついた。


「ダエグ・ベオーグ……」


 部屋が明るくなった。壁や天井に彫り込まれた文様――フェリクスさんが言うには魔法陣――が輝いたんだ。

 地鳴りのような音がして、部屋全体が微震する。

 それが止むと、床の一部が四角く沈み込んで、隠し扉が生まれた。


「ここの魔法は迷宮を守るため。主神がなした封印からも、しっかりと奥を守ってくれたようだね」


 ロキはふわりと浮き上がって、隠し扉へ潜っていく。

 僕達は顔を見合わせて、小走りで後を追った。

 なんていうか、ロキらしい。未踏エリアのさらに奥に隠し部屋があるなんて。

 通路はもう氷はなくて、耳たぶが痛いような寒さはなくなっていた。しばらく行くと登り階段、上がるとそこは――


「お、同じ部屋……?」


 目をパチパチしてしまった。

 だってさっきの未踏空間と似たような場所に出たんだから。

 よく見ると数百人が入れそうだったさっきの場所よりは、ちょっと狭い。せいぜいその半分くらいだろう。

 でも円形で、天井はお椀型にすぼまっている。あちこちに魔法の印が光っているのも同じで、他の違いといえば氷がないことくらいだ。


「リオン、こっちこっち」


 ロキはもう先へ進んでいた。

 壁際に階段があり、広間に向かって張り出す舞台へ続いている。

 偉い人が演説する場所みたいだ。あるいは途中で途切れた橋ともいえるかもしれない。

 そこから見渡しても、がらんとして何もないけどね。

 舞台の先には魔石が円柱に据えられていた。


「装置は眠っている。この水晶を封印解除してくれないか?」


 こっくり頷いてから、僕は力を呼び起こす。


「目覚ましっ」



 ――――


 <スキル:目覚まし>を使用しました。


 『封印解除』を実行します。


 『世界樹(ユグドラシル)の水鏡』を封印解除しました。


 ――――



 お椀型の天井。

 そこから一滴の雫みたいに光が落ちてくる。光は床の中心ではじけると、波紋を広げるように部屋全体へ明るさを行き渡らせた。

 円形の広場は輝く水面のようになる。


「わぁ……」


 声が出てしまう。

 一面の輝きはやがて収まって、ゆっくりと起伏を作り始めた。

 平らなところ、盛り上がっているところ。あちこちに光球も浮いている。

 特に平たい場所に4つの光が集まっているところが目を引いた。

 なんだろう。何かを現しているようだけど、答えが出そうで出てこない。


「平らな場所に、4つ……?」


 ふと思い浮かんだ言葉がこぼれる。


「……もしかして地図?」


 そうだ。

 平原に4つが集まっているなんて、まるで王都に集まった東西南北のダンジョンだ。

 ロキが拍手する。


「そう。世界を創造し、今も覆っている魔力は目に見えない巨大な樹を作っている。魔法的には魔力樹、あるいは世界樹ともよばれた。そこに接続(アクセス)して遠くの存在と通信する。まぁ『樹』というのは形が樹系に似ているからつけられたもので」

「う、うん……」


 顔が引きつったのがわかる。

 頭をどうっと説明が駆け抜けていき、反対側の耳から落ちた。


「なるほど」

「う、うんうんっ」


 ミアさんと僕が頷くと、ロキはすべてを諦めた目で首を振った。


「……これは、世界中の迷宮を示す地図。光っているのが神々のシェルター、つまりダンジョンがある場所。4つ集まっているのが、ここ――王都というわけさ」


 光面は平らではなくて起伏がある。険しい山のように盛り上がっているところもあって、どんな地図を見るよりも、この国の地形がわかりそうだ。


「これは神々の戦争で使われたもの。より遠くの神々や仲間と連絡を取り合うための、魔法による連絡所なんだよ」


 小さな姿からロキは僕を見上げた。


「リオン。君の目覚ましの角笛(ギャラルホルン)は、王都にいた神々を目覚めさせたけれど、もっと遠くにも聞こえた存在はいたかもしれない。そしてここは遠くからの声を受け取る場所だ」


 はっとした。


「角笛に……応答があるかもしれない?」

「そーいうこと。そもそも応答を期待して鳴らすものでしょ?」


 片目を閉じるロキ。

 アスガルド王国全体の地形が、光で再現されているみたい。4つのダンジョンを持つ王都の平原。その西側の荒野。遠くの山々。

 見とれている間にその山々の間から声が響いてきた。

 ダンジョンを示すという光が、赤くなって揺れている。


「これって――」

「しっ」


 ロキが唇に人差し指をあてる。


 ――私達を。


 そんな声が響き渡った。


 ――私達を、助けて!


 声は途絶える。

 地図上では、山々が連なる場所にその迷宮はあった。声と共にロウソクみたいに揺れ動いていた光は、もう落ち着いている。

 フェリクスさんが口を開いた。


「あの場所は……アルヴィースですね」


 首を傾げる僕にフェリクスさんは教えてくれた。


「鉱山街です。鍛冶や細工で有名で、川を通じて王都にも多くの武具を納めています」


 ロキがにんまりした。


「なるほど、うってつけだねぇ」

「う、うってつけ?」

「そうさ。あの位置、あれは僕の記憶によればまさにそういう存在が隠れたダンジョンだ」


 ちょっと引っかかった。

 そういう存在――まるで、神様じゃないみたい。


「小人だ」


 ミアさんが肩を跳ね上げて聞き返す。


「こ、小人?」


 金貨が震えて、他の神様も出たがっているのがわかる。

 封印解除するとみんな金貨から飛び出してきた。

 光面を滑りながら、ソラーナが手を広げる。人形サイズで、金髪がきらきらしていた。


「半神とも呼ばれ、多くは神々の同盟者だった存在だ。色々な武器や道具を作り出してきた。トールの鎚、オーディンの槍、どこへでもゆける舟……そのような神具を生み出したのは、力ではなく技術に優れる小人達だった」


 心臓が高鳴った。初めて王都を出る。

 家族と離れるのはつらいけれども、それでも目的地が決まったのかもしれない。

 フェリクスさんが小冠(コロネット)を押さえた。


「王都からも遠い。敵は我々が次にどう動くかはわからない。とすれば、あえて王都から離れた場所に確固たる根拠で向かえば、敵の先手を打てる可能性がありますね」


 ソラーナが尋ねる。


「リオン、どうだい?」

「うん……!」


 神様の起こし屋、次の場所。

 それは技術持つ小人の国――アールヴヘイムだ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  リオンは神の力を使えても、楽勝とは言えませんね。  ロキの二枚舌で能力を組み合わせて進むのが面白いです。  神は人間と思考が違うから、人間ならではのアイディアで助けられると思います。  で…
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