表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/205

1-28:駆け出し

 僕はミアさんを昼食に呼んで、家族に紹介した。

 レベル30の冒険者に母さんはとても驚いたみたい。食事はずっと楽しくて、日差しの中にいるような安らいだ気分でいられた。

 ルゥも元気そうでほっとした。昨日の治療が効いたのか、屍狼の討伐がよかったのか、咳も出ていない。

 ただ、ちょっと様子が気にかかる。


 ――お兄ちゃん、前のその……金髪の方は?

 ――う、うん。ちょっと今日は予定が合わなくて……。


 ルゥ、なんであんなにソワソワしていたんだろう。


 食事は楽しかったけれど、ミアさんが帰った後、東ダンジョンがどうしても心に引っかかった。もう一度、みんなで迷宮の様子を見に行こうか迷ったくらい。

 でもギルドの呼び出しはなかなかない。

 そのうち夜がやってきた。


「ちょっと屋根に行ってます」


 夕食も終わり、僕は母さんとルゥにそう言い残して2階へ上る。寝室から梯子で屋根の上へ行けるんだ。

 ソラーナと話をしたい。

 僕らの家に二人きりになれる場所なんてなかった。台所と寝室しかないからね……。


 だから、屋根が秘密の場所。

 大事な話をするとき、父さんもよくそこへ呼び出してくれた。

 しんと冷える夜。空気が澄んで、月も星も落っこちてきそうなほどよく見える。

 ポケットから出した金貨が月明りを宿していた。



 ――――


 <スキル:目覚まし>を使用しました。


 『封印解除』を実行します。


 ――――



 光がコインから溢れて、ソラーナが飛び出した。


「リオン」


 ソラーナは宙に浮かんで、物憂げに夜景を見渡す。

 金髪もどこかへにゃっとして、いつもの元気がないようにみえた。


「どこから話したものか……わたしが思い出したことを」


 迷うように、金の目を泳がせている。こんな姿初めてだった。

 やがてふうっと息をつく。


「あのダンジョンに封印されていたものは、とても、とても強い神と、その敵だ。雷神トールと狼骨スコル」


 スコルと名前を口にした瞬間、小さな肩が震えた。


「今でも思い出すよ。魔物の軍勢が地を満たして、人間も神々も僅かに残った地下部で絶望的な戦いを続けていた」


 東ダンジョンはそんなシェルターの一つだったのかもしれない。

 それなら当時の武器や、精霊がいる説明がつく。


「神話はこうだ」


 ソラーナは夜空を見上げ、歌うように言った。


「神々が勝利した。神々は傷を癒すため、魔物は人々への素材となるため、迷宮に封じられた――だが実際には違う」


 僕はこくりと頷く。

 神話では説明がつかないことが多すぎる。東ダンジョンの地下には、魔物の軍勢が氷漬けになっていたのだから。


「ダンジョンが大昔のシェルターだったとすれば、最深層に魔物の将、そして魔物の群れがいること自体、攻め込まれていた証左だろう」


 ソラーナは身を抱く。指が腕に食い込んでいた。


「思い出せなかった……というより、記憶の方にも封印がかかっていた」


 神様は、必死に記憶と向き合おうとしているようだ。


「ソラーナ……」

「当時の、わたしのことを話そう。わたしと、母さんは古代の太陽の女神。空彼方に浮かぶ天体から、地上に魔力と光を送るために生み出された神々だ。だからわたし達が地上を離れれば、世界は夜のように暗くなってしまう。地下に逃れることはせず最後まで外で魔物に襲われ続けた」


 ソラーナはぐっと拳を握った。


「ああ、すぐに思い出せなかったわたしが憎いっ」


 息を整えて、続ける。


「すまない。最初に母が倒れた。太陽の女神は、母とわたしの2人だけ。信徒たちはわたしを逃そうと全力を尽くしてくれたが、母もそうだったのだろう。意識が封印にのまれる寸前、わたしは氷漬けになるのではなく、この金貨に封印された」


 ソラーナが入っていた金貨は、今は柄を失って、平面になっている。

 神様は右腕にはめた金の腕輪をみた。


「金は太陽の魔力を宿す金属。母は金でアイテムを作るのを得意としていた。もしもの時、コインにわたしが宿って落ち延びることまで考えていたのだろう。実際に何千年かの間、ここで守られていたわけだ」


 巨神――トールは氷漬けであったけれど、あの状態は神様にとっても相応の負担になるらしい。弱ったソラーナが金貨に守られなければ、そのまま消滅した可能性さえあったみたいだ。


「そんな……」


 建国の神話と、全然違う。


「これが真実だ」


 ソラーナは目を閉じた。冷たい風がやってくる。

 王都を覆う星々の輝きも、ぽつぽつと見える街の灯りも、どちらもひどく頼りない。


「圧勝ではなく、辛勝でさえない。神々はほとんど負けかけて、主神は力を振り絞って全てを封印したんだ。敗北決着を、1000年か2000年先送りにするため」


 ダンジョンに魔物がいるはずだ。父さんの死や、ルゥの病の――悲劇の原因となるはずだ。

 神様にさえ手に負えなかったんだから。

 戦いの最中、仲間の神々ごと氷漬けにしてしまわないといけないほどに。


「いわばわたしは、魔物に負けかけて、落ち延びた、敗残の神だ」


 苦笑いに、胸が締め付けられる。


「失望、させたかな……」

「そんなことない、です」


 僕は立ち上がって、ソラーナの両手を掴んだ。ルゥを励ますときみたいに、まっすぐに相手を見る。


「ルゥを治してくれたし、ダンジョンでも、助けてくれた。ソラーナは――そのままでも立派な女神様だよ!」


 目をそらさないよう、気を付ける。

 大事なことを伝えるときに、父さんがそうしてくれたように。

 ソラーナは一瞬、目をぱちぱちした。


「う――」


 泣きそうな顔に見えて、慌ててしまう。

 ソラーナの信徒になった時、この人に感じた不安や恐れはこのせいだったのかも。お母さんも信徒も失って、目覚める前からソラーナは独りぼっちだったんだ。

 記憶をなくしても心は寂しさを覚えていたんだろう。


「あ……のっ!?」


 泣きそうな女神さまに急速にしぼむ自信。やっぱり、励ますのって難しい……!


「あ、わ、な、泣い……っ?」

「太陽は泣かないっ」


 ソラーナは頭を振った。金髪が真横に揺れる。


「信徒の君がいるというのに、神がうつむいてなどいられない」


 くすり、とソラーナは笑う。


「ありがとう、君が最初の信徒でよかった……」


 ふと声が出てしまったのは、その表情が救われたようで、僕も胸が温かくなったからかもしれない。


「駆け出し、だね」

「ん?」

「僕も最初のボスを倒したばかりだし……」

「なるほど。わたしも、信徒1人だけ、最初の1人か――確かに、2人そろって駆け出しだ」


 顔を見合わせて、僕たちは笑った。

 いろいろなものの重さとか、苦しさとか、何もかもが軽くなる。

 駆け出したばかりなんだ。

 これから、初めていけばいい。神様と一緒に。

 ソラーナは腕を組んで、ふわりと宙へ飛び上がる。夜空を見上げていた。


「しかし、こうなると妹さんの病がますます心配だな」

「……ダンジョンと、関係があるの?」

「あると思う。何者かが封印を緩めているように思えるが、もしかしたら封印それ自体が弱っているのかもしれぬ。わたしが目覚めたのは君のおかげだが、たとえば100年前なら『封印解除』でも目覚めなかったかもしれない」


 そもそもソラーナと出会ったこと自体、起こし屋で古具屋さんと知り合いになったからだ。

 あれきり会えていないけれど……。こっちもかなりの偶然、幸運だ。

 ソラーナはそこでぶるっと震える。


「金貨に戻る時間か。リオン、また呼んでくれ」


 僕は金貨を取り出し、ソラーナに向かって手を伸ばした。なんとなく、その方がいい気がしたから。


「ふふ、ありがとう。君はいい信徒なだけじゃなく、いい男の子だね!」


 にっこり笑った笑顔は、いつものように太陽だった。

 お互いの手が触れ合う。胸が熱くなって――


「「え?」」


 僕たち2人の体が、金色に輝き始めていた。

 ソラーナと最初に誓いを結んだ時、それ以上の力が神様から流れ込んでくる。


「な、なにこれっ」

「わ、わたしにもわからん!」


 周囲から「眩しい!」「寝れない!」と苦情が相次ぐ。

 皆さん、明日も朝早いのにごめんなさい!


「お兄ちゃん火事!?」


 ルゥが屋根に顔を出して、僕は慌ててソラーナを金貨にしまった。

 けれども、妹からの追及はない。


「……ほんとに、火事だ……」


 東ダンジョンの方角から、火の手があがっていたのだから。狼の遠吠えが聞こえる。

 僕にはなぜか、穴に落としたギデオンの叫びが、耳の奥に聞こえるようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
転生少女は大秘境スローライフを目指す ~スキル『もふもふ召喚』はハズレと追放されました。でも実は神獣が全員もふもふしてた件。せっかくなので、神獣の召喚士として愛犬達と異世界を謳歌します~

【書籍化】 3月15日(水) 小説第2巻・漫画第1巻が発売します!
コミック ノヴァ様でコミカライズ版は連載中です!

4vugbv80ipbmezeva6qpk4rp5y4a_ba7_15w_1pr_on12.jpg

書籍サイトはこちらから!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 夕食終わったあと朝まで喋ってたの……?光った時朝早いがどうとか眩しいやら寝れないやらで朝なのか夜なのか混ざってたけどw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ