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第17話 王宮案内

「ここが王宮自慢の中庭です!」


「確か、勇者様とキスした場所ね」


「えへへ」


 手を引っ張って連れてこられた中庭ではバラのアーチや名前は分からないが色彩豊かな花が植えられており、小鳥たちがちゅんちゅんと鳴きながら、飛びまわっている。

 日本にもこういった趣向の園芸はあるのは知っているけど、生でみたときの感動は消えないと思う。スマホでカシャリと撮っていると、「なにものだ」と年頃の男性が私たちに近寄ってくる。


「上兄。こちら、異世界でお世話になっている――」


「空野愛華と言います」


「ああ、あの――。さっきは無礼な態度で接して済まない。俺はミハエル・オルフェール、この国の第一王子だ」


 里奈の父親と同じ黒髪の青年が二カっと笑い、手を差し伸べる。人柄が良さそうな人だと思いながら、私は差し出された手を握る。


「妹は誰に似たのかお転婆だからね、君に迷惑をかけただろう。というより、かけたんじゃないかな」


「……ソンナコトナイデスヨ」


「なんで片言なんです!」


「はは。異世界人は正直で良い。こちらのしがらみを関係なく話せる人間が来てくれて助かるよ」


「壮絶な姉妹同士の戦いがあるって聞きましたが」


「間違ってない。姉上は証拠が見つからないように動くから、こちらにできることは致命傷になる毒をいたずらで済む程度の毒にすり替えておくくらいだ。下剤みたいなやつにね」


 アリシアちゃん、だめじゃん。

 まあ、小学生くらいの策略だと「つーか、それが限界」みたいなものだろうね。毒云々は大体こちらで食事でしているから、そもそも毒を盛るのが難しそう。


「今日の晩餐に毒を仕掛けるほど妹も愚かではない。君がゲストとして呼ばれているからね」


「そうなの?」


「そうですよ。どうせなら一緒に寝泊まりしたほうが楽しいじゃないですか。修学旅行の時みたいに」


 とんだサプライズだったが、親は親で今日は帰ってこない。ならばと思い、このプチ旅行を楽しむことにする。


「異世界人の口に合うような料理を作るとシェフが張り切っていたからね。勇者に心の底から美味しいと言われなかったのがよっぽど堪えたのだろう。彼が居なくなってからも研鑽をする姿は私も見習うところがある」


「お兄さんから見て勇者さんってどんな人だったんですか?」


「そうだな。人並み以上の正義感を持ち、いろんなことに首を突っ込むはた迷惑な男。だが、その行動は過程はどうであれ、最終的には良い方向に行く不思議な力を持っていた……やはり言葉で説明するのは難しい」


「本当、ファンタジーに出てくる勇者像そのものみたい」


「勇者様だからな。話の途中だが、ここで失礼するよ。騎士団とのミーティングがあるんでね」


「すいません、忙しいところ」


「別に構わない。リィナ、父上には遅れるかもしれないと伝えてくれ」


「はい、わかりました」


 ミハエルさんが中庭から出ていくのを見送り、私たちは中庭の探索を続けると、隅の方でビリヤード玉のような体の男の人が小さな畑でキャベツやトマトらしき野菜を採っていた。


「あっ、また隠れて野菜作りましたね。コルボーさん」


「こ、これは姫様。そ、その~ここの土は下手な畑は良いですから……その隣の方は」


「空野愛華と言います。コルボーさんは何をしている方なんですか?」


「私は王宮で料理長を務めています。貴方が件の異世界人ですね。今宵は私が作り上げた対勇者用料理でリベンジしますとも!」


 その気合いが入った言葉に背中からメラメラと燃えている炎が見えるようだ。里奈からは塩やビネガーを使った料理が主と聞いていけど、これは期待してもよさそう。そう思った私はコルボーさんと別れ、里奈の案内が続く。


 次に連れてこられたのは王宮の一角にある資料室。そこには部屋の真ん中のテーブルには地図上に置かれたチェスの駒を見つめている軍服を着た女性が居た。


「姉様? お兄様と一緒だと思いましたが」


「ん? リィナか。その隣にいるのはお前が話していた異世界人だな」


「はい。空野愛華と言います」


 弟と同じ黒髪で姉なのだから、里奈に似ているのは当然だが、キリッと放つ鋭い眼光は、どこか冷たい印象を持たせる。仮に彼女が金髪に染めても、里奈と区別することは可能だろう。

 そもそも里奈がこっちに来ることになった元凶だから色々と言いたいことがある。だが、私が文句を言うのを遮るかのようにコーネリアさんが懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。


「もうこんな時間か。失礼する」


「姉様は物事に没頭すると時間を忘れるのが悪癖なんですよね。下兄様はいないようですし、別のところに行きましょう」


 命のやり取りをしているだけあって、里奈も塩対応というか冷たい気がする。私としては姉妹仲良く暮らしてほしいんだけどなと思いつつも、他の場所に連れていってもらう。


 王宮の離れにある円筒状の建物は吹き抜けになっており、天井まで本がずらりと並んでいる。その中で、アリス風のドレスをきた女の


 子に勉強を教えている優男がいた。


「下兄様、アリシア、こちらにおられたんですね」


「その子が愛華さんかな。僕はリィナの兄で第二王子のフリッツと申します」


「あたしは第3王女のアリシアよ」


「初めまして。空野愛華と言います。ここの本ってどうやってとるんですか。みたところ、はしごが無いですし」


「それはこうやってとるんだよ」


 フリッツさんが指を鳴らすと、天井の方にあった本がぷかぷかと浮かびあがり、手元に届く。


「……これ、魔法が使えない人が困るんじゃあ」


「彼女ならここを使うことはないから大丈夫だよ。僕としてはあそこまで魔法の適性が無い女性の方が珍しいけどね」


(こんなところで生まれたらコンプレックスの塊になりそう。いつ爆発してもおかしくない地雷だったんだろうな、コーネリアさん)


 私は心の中で彼女に同情しながら、前から聞いてみたかったことをフリッツさんに話してみる。


「魔法って私でも使えたりします?」


「コーネリア姉様はともかくあなたのような凡人がそう簡単に扱えるわけないでしょう」


「すまない。口は悪いが、アリシアの言うとおりだ。魔法を使うには魔力が必要だ。それは生まれつき持っている才能と言い換えてもいい。君たちの世界でもヒョロガリの人間がスポーツで王者になるのが難しいのはわかるだろう」


 小柄な選手が活躍することはたびたび報道されるけど、大体は体格の良い選手ばかりだ。そう考えると、一般人の私が魔法が扱えるなんて夢物語なのだろう。

 自分よりも幼いアリシアちゃんにあそこまで断言されると、余計なことを引きずらなくてよかったとさえ思える。


「私が魔法を使えないことはよーくわかりました。マジックアイテムみたいな魔法で動くものとかってあります?」


「魔導具のことかい? あるにはあるが、君たちの世界にも機械と呼ばれるもので再現できるものが多いと聞く」


「たとえば?」


「ここの灯りも魔導具だが、異世界にも電球や蛍光灯と呼ばれる機械があるのだろう?」


 私が天井を見上げると、ランプのようなものがついているのが見える。だが、ランプ一つでこの建物全体をこれほど明るくするのは地球でも難しいのではと思う。素直に魔導具の凄さを思い知った。


「いえ、私たちの世界でもここまでは無理だと思います」


「そうか。それなら、先人たちの努力に感謝しないといけないな……そろそろ時間だ。一緒に食堂に行くかい?」


「お願いします」


 私はペコリと頭を下げて、フレッツさんの後をついていく。

 食堂に着くと、何十人も座れそうな長テーブルが中央にあり、燭台には火がゆらゆらと揺れていた。しばらくして、ミハエルさんとコーネリアさんがやってくると同時にコルボーさんが料理を運んできた。


 パンやサラダ、スープ、何かの肉や魚を焼いたものが運ばれていく中でひときわ異彩を放っているのが、ダイコンや芋などの根菜が入っている煮物だ。

 私のところにだけ置かれていた木の箸で芋をつかむ。色から見るによくダシがしみ込んでいそうだ。


(なんで私のところに箸があるんだろう? 勇者様が日本人だから、異世界人専用で作らせたとかかな)


 そういった疑問が浮かびながら、ホクホクの芋を口に放り込む。ちょっとしょっぱい気もするけど、ご飯に合いそうな味だ。ないけど。

 パンじゃなくて白いご飯だったらなと思いながら、パンを千切って一緒に食べると意外と会う。なんでだろうとコルボーさんを見ると、不敵に笑っていた。


「以前、勇者様にお米を炊いたところ、品種が違うのかパサパサしていて不味いといわれましてね。なんとかできないかと考えましてね。試行錯誤を重ねた結果、米を粉にしてパンを作る際に一緒に混ぜたのですよ」


「私たちの世界でいう米粉パンですね。だから和風の味付けとあうんだ」


「ええ。お口に合ってなによりです」


 コルボーさんがものすごくうれしそうに笑顔を見せている。私たちの世界と食材が違っていても創意工夫で何とかなるものなんだなと思いながら、目の前の料理を食べていく。とれたてのサラダはシャキシャキしているし、酸味のある紫色のトマトのような謎の野菜もアクセントになっていておいしい。

 魚は白身魚に近い、スープはシンプルだけど野菜のうまみが感じられるから、何時間も煮込んだに違いない。


「問題はこの謎肉……私たちの世界で珍味は大体鶏肉と言われるけど、これはどんなのかな」


 私は切り分けた謎肉を恐る恐る口に入れる。噛んだ瞬間に肉汁がじゅわりと広がり、とろけてなくなる。これ、高級な牛肉に近いかも。気に入った私は、その肉をパクパクと食べる。


「コルボーさん、これ何の肉ですか?」


「ええ。これはオーク肉を熟成させたものです」


「オーク……ってあの豚みたいな魔物ですよね」


「はい、そのオークです。繁殖力もあるせいで、いくら狩っても手に入れられるので一般人でも入手が容易な食材となっております」


「オーク……なんて恐ろしい子!」


 あの見た目でこんなに美味しい牛肉、もといオーク肉が食べられるのは良いなと心底思った。最後にバナナやオレンジのような果物を食べた後、私は客室へと案内された。そこは里奈の部屋と遜色ないほど広く、豪華な部屋であった。


「う~ん、広いけど落ち着かないな」


 修学旅行の時でも家と違うところの寝泊まりだったけど、あのときは一人きりじゃなかったし。防音の魔法でもあるのか、外からの音が聞こえず静寂が広がる。明日がお祭りみたいだし、旅行疲れならぬ異世界疲れをとるため、ベッドでゆっくりと目を閉じた。

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