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第10話 修学旅行(後編)

「今日はマリンスポーツ体験と午後からは自由行動の日だ。自由行動だからと言ってくれぐれも学校の評判を落とすような真似はしないように。唸れ、鉄拳!ジャスティスパンチがとぶぞ!」


 水着に着替えた私たちが先生の注意事項を聞き、私が事前に申し込んだバナナボートの列へと並ぶ。列を並んでいる他の人を見ると、男子は無頓着なのか学校ではいているような水着が多いが、女子はモールやデパートで新調した水着をこれでもかというくらい見せびらかしている。


「ほほぉ、今日の愛華ちゃんは攻めてますなぁ~」


「ひゃん!もう、平野さん!」


 後ろから胸を揉むのは彼女しかいない。そう思いながら、後ろを振り返ると胸元にフリルがついた水着を着ている平野さんがいた。もし、これが男子なら里奈に頼んで魔法を使ったお仕置きを考えるところよ。


「いつもは当たり障りのない大人しいデザインの水着じゃないですか?」


「これは里奈が選んだから」


「里奈ちゃんですか。ということはあの子の水着は……」


 平野さんが獲物を見るようなシーウォーカーの列に並んでいる里奈の方を見る。いくら魔法がある世界とはいえ、水の中の世界というのはもの珍しく、里奈の興味を引いたそうだ。


「あれはあれで良いものですね。私ならもう少し攻めます」


「あれ以上攻めたら、紐になるわよ!」


「あのスタイルなら、それくらいしても構わない。何故分からん、愛華」


「エゴだよ!それは」


「エゴで何が悪い」


「駄目に決まっているでしょ」


 開き直っている平野さんにツッコミを入れながら、前へと進む。

 バナナボートに乗ると、スピーディーに進み海を移動する爽快感と波によってバウンドすることでの迫力感が凄い。道中、男子がふざけて手を離して、海にドボンと堕ちたけどライフジャケットを着ていたから、何事もなく回収されて私たちのバナナボードの体験は終わった。



「凄かったんですよ、いろんな魚が見れて。あとナマコ? でしたっけ、あれも触らせてもらいました。ぷにゅとしていて、初めて味わった感触です」


 海鮮バーベキュー中、里奈や他の子たちとマリンスポーツについて語った。そんな中、里奈は塩焼きにした串つきの魚を両手に持って、ウキウキと話しかける。向こうの旅の食事を思い出したのか普段よりも2割増しのテンションだ。


 午後は自由時間になっているため、私服に着替えてショッピングする予定の人もいれば、せっかくの海ということでビーチバレーやスイカ割りをしようと話している人もいる。私たちはどうしようかと同じグループの子と話していると大きな音が聞こえた。


「なんだありゃあ!」


「ダイオウイカか!? 俺、初めて見たぜ」


 スマホを向けている先には海の家が小さく見えるほどの巨大なイカが何の予兆もなく現れた。あれもシャドウなのかと里奈や真央の方を見ると、肯定するかのようにコクリと頷く。


「あれはクラーケンですね。港町ではそれほど珍しい魔物ではないですが」


「この世界にクラーケンなどいるわけがない。シャドウで間違いない」


「「コール、セットアップ!」」


 二人は同時に変身をして、聖騎士姿と小悪魔姿になると、私たちを守るように前へとでる。目視できる距離とはいえ、鎧を着ているため泳げない里奈は遠距離から複数の光の矢を放つ。でも、触手の防御を潜り抜けた矢がクラーケンにあたっても倒れることはない。

 里奈の攻撃を受けて、怒ったのか波打ち際で呑気に撮影している男子を長い触手でからめ捕る。それを見た真央が慌てて、翼を広げて飛び去る。


「この魔装デスサイズ……触れれば切れるぞ!」


 手にした大鎌で触手を切り、男子を救出する。救出された男子はお友達と共に波打ち際から離れていく。クラーケンが自慢の触手を1本失ったことで、口から黒い玉のようなものが放出される。ただの墨だろうと思っていたが、建物が壊れる程の威力をみて怖くなった。


(里奈ってこんなに怖い思いをしながら戦っていたの)


 魔法が使えたら一緒に戦えるなんて言うのは甘い考えだと、この時初めて思い知った。私は漫画やアニメに出てくるような主人公じゃない。ただの一般人が力を手に入れても戦うことすらできないのだと思い知らされる羽目になった。

 触手による人質攻撃と組み合わせて使ってくるため、真央はなかなか本体に攻撃できずにいた。一度離れて距離をとり、里奈のもとにくる。


「ええい、人質が邪魔だ。いなければ、すぐさま消し炭にしてやるというのに」


「私も攻撃をしているのですが、再生する触手に阻まれて有効打になりません」


「人質になる人間も人間だ。呑気に撮影をしている場合か」


「もしかするとショッピングモールの時みたいに『自分は平気』『映画か何かの撮影』と思っているのかもしれません」


「平和ボケとは厄介だな。里奈、人質はそちらに任せるがいけるか?」


「やってみます。一点集中、ホーリーアロー!」


 先よりも太い矢が触手を打ち抜き、次から次へと人質を解放していく。その様子を見た真央は再び飛び去り、クラーケンのもとへと向かっていく。人質をとろうとしても、すぐさま里奈が触手を破壊するため新しい人質が増えなかった。


「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」


 真央が手にしたデスサイズでクラーケンを真っ二つにすると、その姿は何もなかったかのように消えていく。

 後処理を終えた里奈たちが戻ってきたのを見て、私は何事もなかったかのように運営している海の家でサイダーをおごった。


「お疲れさま」


「ああ~、キンキンに冷えていますっ……!戦闘の後なので、しみ込んできます……」


「汗をかいて気持ち悪い。炎天下の戦闘(うんどう)はこれだから困る」


「ところで、真央。前から聞きたかったんだけど、なんで戦闘服がスク水なの?」


 私の言葉に真央が石像のようにピキーンと固まる。その様子を不思議そうに見ている私を「それを聞くか」と言わんばかりに睨め返される。


「まあ、話したところで減るものでもないが……前着ていた衣装はこうだ」


 足元の砂に絵を描いていく。デフォルメされた真央の姿ではあるが、サキュバスみたいなかなり際どい恰好ではあるが、女悪魔といえばこの格好というイメージ通りでもあった。


「だがな、黒騎士が言うには『さすがに肌面積少なすぎでは? 外で戦闘したとき、わいせつ罪で警察に捕まりますよ』と言われて、近い衣装を探してこの姿にした」


(きっと、黒騎士さん『違うそうじゃない』と心の中で思ってそう)


「なるほどリスクを減らすための衣装変更……合理的ですね」


「異世界は倫理感が強くて困る。私がことをなそうにも成人にならないと色々と不便だからな」


「えっ~と、本当に魔王だよね。なんで法律を守ろうとするの。異世界侵略しようとしている時点で守ってないけど」


「小学生が大人のように動き回れるかと聞かれたら、誰もがNoというだろ。だから、ある程度自由が保障される年齢まで侵略するのを止めてやろうという心意気だ」


「それ聞いちゃうと私、ますます実家に帰る理由がなくなりますね」


「お前とはシャドウ事件が解決するまでの付き合いと決めている。それが終われば、私とお前は敵同士仲良くする必要はないだろう」


「私としては二人とも仲良くして欲しいけどね」


「これからも仲良しですよ、真央さん」


「断る」


 私たちはツンツンした真央を連れて無理やり、みんなと一緒にビーチバレーやスイカ割りで楽しむことにした。やる気はあっても魔法を使わない里奈はヘッポコだし、真央は元からやる気がない。そのため、私たちのチームはクラーケン戦とは違って、嘘のようにボロ負けした。

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