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秘密を知っている



「うっ……!」



 背後から全身に走る痛みが、思考を奪っていく。それでも、考えないわけにはいかない……なんで、こんな状況になっているんだ?


 俺を刺した人物……それは、手に血のついたカッターナイフを持った、琴引 綾平。……いや、榁途 綾平だ。



「なんの、つもりだ……?」



 傷は浅くないとはいえ、背後からのもの。しかも、急所は外したと言っていた……だからか、しゃべれないほどではない。


 それでも、息苦しいし、傷口からなにかが流れている感覚がある。おそらく……いや、十中八九これは血だろう。


 このまま放置しておけない、手当てしないといけない……だがそのためには、まずはこの状況をどうにかしないといけない。



「なんで、お前が……!」


「……」



 綾平にこんなことをされる理由が、俺には思い当たらない。俺と綾平は、綾平が転校してきて以来の付き合いだ……それ以前の関わりなどない。関わりなどないのだから、恨まれる覚えだって、ない。


 なのに、綾平は俺にこう言った……この、人殺しが、と。


 人殺し……? その言葉自体は否定する要素はない。だが、殺した相手はクラスメートだ……綾平だって憎しみの感情を向けていたはずだ。それに、綾平だって殺した。俺以上に。


 俺が綾平に、人殺しなんて罵られるいわれはないはずだぞ。



「おい、なんとか、言ったら……」


「なによ、その顔……まさか本当に、わからないの?」



 ……綾平は、なにを言っているんだ? なにが、わからないって?



「私は、榁途(むろみち) 海音の妹……なのに、本当にわからない? とぼけてる? ふざけてるの?」


「はっ……だから、なんの話を……?」



 綾平が海音の妹なんて、すでにわかっていることだ。むしろ、海音が死んだ原因であるクラスメートへの復讐、という利害の一致があったってことで俺たちは協力関係を結ぶはずじゃなかったのか。


 なにがなんだかわからない。その俺の様子に、綾平はだんだんと怒りの感情を見せていく……

 


「……そんなに私を怒らせたいの? 私が本名を話して、なにか動きがあるかと思ったけど……なにもないし。いや、初めて会ったときから、もしかしたら気づかれるんじゃないかって気持ちもあったよ。だけど、そんな素振りはなかったし……様子見をするために、すぐには殺さなかった。その後もなんの動きもないから……油断させるために、協力関係をほのめかそうと大胆に動いてみたよ。でも、そうか……そっちがその気なら、仕方ないね」


「お、おい、さっきからなにを……ぅぐ!?」



 さっきから、綾平がなにを言っているのかさっぱりわからない。その真意が知りたい……だが、膝に走る衝撃が俺の動きを封じる。


 膝に……なにか、刺さっている。これは、カッターナイフの……刃か? なんでこんなもんが、こんな簡単に刺さってるんだ……!



「ここまできてもとぼけるつもり? もう、とぼけるのはやめなよ……人殺し……お姉ちゃんを殺した、人殺しが!」


「! ……は?」



 痛みに、頭がどうにかなってしまいそうだ……だが、その言葉だけは、しっかりと聞き取ることができた。できたが、意味が、わからない。


 今、なんて……俺が、綾平の姉を……海音を、殺した?



「いや……なに、言ってるんだ……海音を殺したのは、あいつらで……」


「お姉ちゃんの名前を気安く呼ぶな!」


「ぐっ!?」



 逆の膝に、またもカッターナイフの刃が刺さる。くそ、意味がわからない……


 俺は海音を殺してない。いや、そもそも仮刀神威(おれ)は、海音が死んだあとに転校してきたんだ。接点などない。仮刀 神威は、榁途 海音のことすら知らない。



「おい、なにかの、間違いだ。俺は、海音を殺してない。いや、海音って奴が誰だか……」


「言ったよね、とぼけるのはやめなよって。あなたは、仮刀 神威なんて名前じゃない。いや、そんな人間どこにもいない……あなたは、このクラスで死んだ、男子生徒……その生まれ変わり、でしょ?」


「……は……」



 なにを言っているのか、わからない……いや、意味はわかる。問題は、なんでそのことを知っているかだ。


 俺が、仮刀 神威が生まれ変わりだってことは、誰も知らない。それどころか、普通そんなこと考えもしない。転生という言葉があるが、それにしたって高校生から高校生になんて、誰も思わない。



「言ったでしょ……あなたの秘密を、知ってるって」


「……それって……」



 綾平の言う、俺の秘密。それは、クラスメート殺しのことだと思っていた。だが思い返せば、秘密がなんであるか詳細は言わなかった。


 クラスメート殺しのことではなかった。生まれ変わりという、本来知りようのないはずの、ものだったのか。


 なんで、そのことを知っている……? いや、それもだが……そのこと、俺が生まれ変わりであることと、俺が海音を殺した、という発言は交わらない。



「……どこで、そのことを知ったのか知らないが……それでなんで、俺が海音を殺したってことに……」


「とぼけてる、わけじゃなさそうだね……もしかして、自分に都合の悪い記憶は消したの? 吐き気がする。ねぇ……人殺しさん」



 なにが……なにが、起きているんだ。記憶を消した? 意味がわからない。……意味が、わからない。意味が……



「……ぁ」



 だが、その瞬間……頭の中に、妙なノイズが走った。

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