生まれ変わったとしたら
第一部がきついとこなので連続投稿いきまぁああす!
……暗い。辺り一面が、暗い。ここはどこだろう。なんだか、体がふわふわ浮いているような気分……
『よう、目が覚めたか?』
真っ暗な空間……そこに響くのは、僕以外の誰かの声。けれど周りを見回しても、誰もいない。それどころか、どこから声が聞こえたのかすらわからない。
『呆けた面してんなぁ、ここだよここ』
その声はまるで、頭の中に響いてくるようで。でも、男か女か……若いのかそうでないのかすら、わからない。不思議な声。
ふと、なにもなかった空間に白いもやが現れる。それは人の形を成していき……もやよりもさらに白い歯を剥き出しににやりと笑って、僕を見る。
『よーうようやく目があったな。どんな気分よ。ようこそ死後の世界へ』
『あの……ここ、どこですか……それに誰……?』
『かぁーっ、そこからかよ! ってか今言ったろ、死後の世界って。ボク? 神様に決まってんだろバカヤロー』
白いもやは、顔に手を当てたりと身ぶり手振りが激しい。いや、そんなこと今はどうでもいい。今、この白いもやはなんて言った? 死後の世界?
そりゃ、周りは真っ暗だし……変な白いもやが話しかけてくるし。けど、これって夢の話じゃ……? しかも、こんなのが神様って。
『あーめんどくせぇな。要点をまとめるとだな、お前はクラスメートからのいじめの末に死んだの』
頭がこんがらがる……そこに、この白いもやは容赦なく新しい情報をぶつけてくる。そもそも、死んだってこと自体をまだ受け入れられてないのにそれ前提で話されても……
『っつ……』
その時、頭の中にバチッと痛みが走る。次いで、流れる映像……これは、僕がいじめられていたときの記憶? それが鮮明に、場面を飛ばし飛ばし映し出される。
あぁ、そうか思い出した……僕は、クラスメートからのいじめの末に、死んだんだ。
『思い出したみてぇだな?』
『あぁ、うん……ところで、僕はどうやって死んだんだ?』
僕が死んだという事実は思い出したが……どうやって死んだか、思い出せない。自殺なのか他殺なのか、それすらも思い出せない。だから、それを聞いてみたが……
『知らね』
と一言。それでも神様かよ。
『そっか……僕、死んだんだ』
『悔しいか?』
『悔しいさ!』
悔しいかだって? 悔しくないわけがない! 海音をいじめて自殺に追いやって、次は僕を……!
あんな奴ら、許せるはずがない。生かしておいていいはずがない! なんでなにも悪くない海音や僕が死んで、あいつらがのうのうと生きていられるんだ!
『おーすげー怒りの感情』
『……わかるか、お前なんかに僕の気持……』
『わかるさ』
いつの間にか、白いもやの顔は僕の顔の目の前にあった。鼻先がくっつく……それほどの距離に。ゾクッとする。
息をするのを忘れる。目が、そらせない。体が、動かない。
『悔しいか許せないかそうかそうか。……一つ質問だ。もし生まれ変わったとしたら、お前はなにをしたい?』
まばたきをしたほんのちょっとの間に、目の前にあった顔は遠く離れたところにあった。体を反転させ、生まれ変わったとしたらなんて馬鹿げた話をしてくる。
馬鹿げた話……だけどそれを、下らないと聞き逃すことはできなかった。それどころか、質問に対して僕は迷わず……
『決まってる……復讐だ』
こう、答えていた。
『ぷっ……あはははは! いいねいいね! 復讐かぁ……うん、面白いこと考えるな』
白いもやは傑作だと言わんばかりに手を叩き、笑っていた。その笑い声は頭に響く……なのに、どうしてかそれを不快に思わない自分がいる。
ケラケラ笑うそいつは、お腹を抱えて落ち着いたあと、指を立て言った。
『よし、ならボクが、かわいいかわいい復讐者を生まれ変わらせてあげよう』
『は?』
さっきの質問の意図はなんだったのか……その答えを告げるように、口を大きく開けて話す。それを理解できるかと言われると、微妙だけど。
言ってることは、まあわかる。けれど、それを行うつもりなのが理解できない。だって、僕はもう死んでいるんだ。それを……
『言ったろ? ボクァ神様なんだ。生まれ変わらせるくらいわけないさ……生き返らせるのとかは、無理だけど』
まるで僕の心の中を読んだかのように、告げる。
『とはいっても、誰も彼もじゃないぜ? 特別だよ』
馬鹿げた話……なのに、どうしてかこの白いもやには、それをするだけの力があるように思えた。
『どうする? いやならやめとく。言っとくけど、ボクが生まれ変わらせてやろうと思ったのは、なにをしたいか→復讐と答えたからだ。もしそれを忘れてのうのうと人生を謳歌しようとしたら、その時はボクが殺す……いや、消えてもらう。ま、復讐を成し遂げたら後は自由、好きにしてくれよ』
生まれ変わらせる条件は、復讐を目的とするから。復讐を忘れたとき、またボクは死ぬ……いや、消えるってことだ。つまり、生まれ変わったとして、復讐の運命から逃れることはできない。
そんな……そんなことって……
『わかった……生まれ変わらせてくれ、僕を。いや、俺を』
なんて、最高の条件なんだ。
僕……いや、俺は復讐のために生まれ変わる。復讐を忘れる? そんなことはあり得ない。復讐の機会を、この白いもや……いや神様は、最高の条件で与えてくれるというのだ。
最高の条件だ……復讐のために生まれ変われるなんて。最高すぎて、なにか裏があるんじゃないかと疑ってしまうほどに。
『安心しなよ、オレはただの善意でやってる。いじめによって落としたかわいそうな命に、復讐の機会を与えようっていうこの慈悲……いやぁ神様らしいだろ?』
もちろん口ではなんとも言えるが……なぜだろう、この神様が嘘をついてるとは、思えない。本当に、神様の善意というやつなのだろう。
『なら早速、お願いしま……』
『まあ慌てなさんな。生まれ変わる前に、ほれ』
逸る気持ちを抑えきれない俺に、いつの間にか目の前にいた神様がなにかを手渡してくる。それを受け取り、確認すると……
『ひっ!?』
……眼球、だった。
『おぉっと捨てるなよ? 生まれ変わった際は、そいつを左目に埋め込んだ状態でってことになる』
『な、なんでが、眼球を……?』
『生まれ変わり……本来いないはずの人間を造るには、オレでもちぃと手間がかかる。で、そいつをサポートしてくれるのがその眼球よ。言っちまえば、そいつが体を生成してる源……眼球を深く傷つけられりゃ、その体は土に還るってこった』
『へ、へぇ……眼球が傷つくなんて、そうそうないと思いますけど。にしても……グロいっすね』
体を生成してる源とかよくわからんが……眼球って……生々しすぎだろ。今失禁しなかったのが不思議なくらいだ。
『まあそう言うなって。そいつは、体の身体機能を高める効果もある。復讐に役立つと思ってな』
おぉ、ただグロいだけじゃなくて、そんなオプションがあるのか。それはすごい。
眼球が乗った手を握りしめ……たらつぶれてしまいかねないので、逆の手を握りしめる。これで、あいつらに……復讐ができる。
『じゃ、そゆことで気張ってくれや。生まれ変わった際の戸籍とか家族構成とかは、こっちでいろいろいじっとくんで』
『あ、はい』
いろいろいじっとくって……なんてアバウトな。まあ、俺が生まれ変わった体の後の心配をしなくていいのはありがたいけど。
『ただ……名前は、決めさせてやろう。なにがいい? 生前の名前いっとく?』
『名前……』
名前、か……生前の名前を名乗るにしても、もうあの頃の俺は死んだんだ。もうあの頃の名前を名乗るわけにはいかない。あの頃の名前は、捨てよう。
となると、名前、名前……
『神威……』
『あん?』
『神威がいいです。神威ってのは、神の威光って意味があるようですから。名字は、お任せします』
『なるほど神の威光ねぇ……くくっ、なかなかのセンスしてんじゃないの』
せっかく神様に生まれ変わらせてもらうんだ。その感謝の気持ちを忘れないものがいい。
神様が俺に向けて手をかざすと、俺の体が光に包まれる。温かい……気がする。真っ暗な空間が白に包まれ、意識が失われていく。
『次目覚めた時は、第二の人生を謳歌してくれや』
『あの、神様……いろいろ、ありが……』
『その人生を、復讐に染めて復讐で終わらせてくれ。じゃあな、神威』
俺が感謝の言葉を告げる前に……世界は白い光に包まれ、俺の意識はその場から失われた。




