復讐の転校生
「お前らー、今日はまず転校生を紹介するぞ。ほい、自己紹介して」
「仮刀 神威です。皆さん、よろしくお願いします」
教卓に立ち、俺は目の前に広がる光景を目に焼き付けた。そこには、数十人の人間が椅子に座っていて、俺はそいつらの視線を一身に受けている。
俺は転校生として、このクラスにやってきた。が、俺がこのクラスに来たのは二度目のこと。もちろん、ここに訪れるという意味ではない、このクラスに配属されるという意味で。
「やだー、ちょっとかっこよくない?」
「爽やかって感じだよねー」
転校生が来たことで、クラスの連中は少し騒がしくなる。聞こえている……どうやら、俺は女子から見るとイケメンの部類に入るらしい。『生前』とはえらい違いだ。
神様、変なとこに気を回してくれたな。仮刀って名字もそうだ……どんな名字だよ。
「じゃあ仮刀は……そこの席に座ってくれ」
「はい」
指定された席へと向かう最中……俺はクラスの連中の顔を一人一人見回していく。みんな、転校生に興味津々のようだ。それに、誰も俺の正体に気づいてはいない、当然だが。
見た目はもちろんのこと、声の高さや挙動に至るまで、生前とはなにもかもが違う。今の俺神威を、生前の俺と結びつけることは不可能だ。
ま、死んだ人間が生まれ変わって、また同じクラスにやってくる……そんなこと考える奴なんて、誰もいないだろうしな。
俺がこのクラスに配属されたのは、神様の配慮かそれとも偶然か。それはわからないが……一つ確かなのは、このクラスは海音と俺がいなくなったことで、他のクラスよりも人数が少ない、ということだ。
生前、このクラスの連中……俺と海音を除いた総勢23名に、俺と海音は殺された。そう……今俺に、人のいい笑顔を浮かべているこいつらは、紛れもない人殺しだ。
人を追い詰め、殺して……それを反省することもなく、悔いることなく、次の獲物を探していじめる。その、繰り返しだ。おそらく目に見えないだけで、このクラスでは次のいじめが行われているに違いない。
俺へのいじめを見て見ぬふりしていた奴……そいつが、一番疑わしい。そんな奴が、はたして居たのかはわからないが。
……わからない、か。いじめられてた人にとって、案外覚えてないもんなんだな。いじめの主要人物ならともかく、クラス全体の規模になった場合……誰が表立って参加し、誰が見て見ぬふりをしていたかなんて。
じゃあ……やっぱり、海音にとって俺は、見て見ぬふりだけをしていた卑怯者じゃなくて、いじめに参加していたかもしれない奴、なんだな。
「よろしくねー、仮刀くん」
「あぁ、よろしく」
自分の席につき、隣の女子と挨拶を交わしつつ椅子に座る。こいつは……確か、桜芽 波夜って名前だったか。黒髪ロングの、いかにも優等生ですって雰囲気だ。
でも、こいつも裏では……なにをしてるかわかったもんじゃない。海音の時は……他の女子と混ざって、悪口を言っていた気がする。優等生でもそんなことするんだと、思ったよ。
俺の時は……どうだったか。やっぱり自分がいじめられてるときと、そうでないときとじゃ周りへの視野が全然違うな。
普通に見てたら、とてもいじめを行うような連中には見えない。……いや、人なんて中身じゃ、どんなことを考えているかなんてわかったもんじゃない。
「ねえねえ、仮刀くんってどこに住んでたの?」
「仮刀って変わった名字だよな、名前も」
「彼女とかいるの?」
休憩時感、転校生にはお決まりと言えるクラスからの質問タイムが始まる。こいつら、どの面下げて俺に話しかけて……いや、俺が前世の俺だなんて思わないからか。
人の良い転校生を演じるため、質問には一つ一つ笑顔で答えていく。大変だったよ……殺したい奴らの前で、笑顔を浮かべるのは。
授業中まではさすがに絡まれなかったが、隣とは必然的に絡むことになる。教科書を見てもらうことで、だ。机をくっつけ、見せてもらう。横顔を見る。なるほど綺麗な顔だ。
「ど、どうしたの?」
「ん? なんでもない」
あまりじっと見すぎたか……やりすぎると、つい手が出そうになる。たとえ直接的な被害をこいつが下していなくても、それはそれだ。見て見ぬふりをしていた時点で同罪。
その後、休憩時間が来る度にクラスの連中の質問攻撃にあう。正直うっとうしかったが、態度に出すわけにもいかず答えた。
授業合間の休憩時間、昼休憩……今日一日で、わかったことがある。海音、俺に続いて、今このクラスでいじめられている奴の目星だ。
今日一日、転校生である俺の所に一度も訪れなかったのはあいつだけだ。引っ込み思案の可能性もあったが、それはない。それに、昼休憩には他の連中とどこかに行っていた。
なにより、覚えている……いじめられている奴は引っ込み思案どころか、クラスの中心にいた一人だということを。亜久留 兵八……あいつなら、転校生という珍しい存在の所にはいの一番に来てもおかしくはない。
なのに、今日一日静かだった。あのうるさいのがだ。それが、なによりの証拠。
「……亜久留、か」
帰り道……部活見学や一緒に帰ることを誘われたが、それを断り一人で歩いていた俺は考えを巡らせる。初日にして付き合いが悪いと思われたかもしれないが、仕方ない。考えるべきことが、あったから。
なんせ……あの亜久留 兵八は、俺をいじめていた主犯格の一人だったから。それに、海音のときも率先していじめていたはずだ。
それが、どうして今クラスでいじめられているのか。奴を観察していたが、目立った被害はなかった。それはそうだ、目につけばたとえクラスの奴じゃなくても学校に連絡がいる。
俺がトイレに連れ込まれたときだって、トイレに残された俺に対して奴らは必ず一人は出入り口に見張りをつけていた。逃げられて、びしょびしょぐしゃぐしゃの姿を見られたらヤバイからな。
それに、クラス全員が周知していた以前と違い、今は異分子がいる。転校生初日にして、わかりやすい動きはないだろうさ。
だが、いずれそうも言ってられなくなる。奴らはいじめをやめない。現に、人が死んでもやめてないんだ……転校生一人が来たところで、やめるはずがない。
そうなると、これからの奴らの動きは……そう遠くないうちに、いじめをしていることを打ち明け俺を仲間に引き入れるか、見て見ぬふりをしろと迫るか……そのどちらかだろう。その際、俺が外部に漏らさないように念入りに釘を指して、な。
「……くっ」
思わず笑みがこぼれる。もしも本当にあいつらが俺に話を持ちかけてきたら……どう答えようか。復讐のためにいじめに加担する? それとも見て見ぬふりをして、時期を待つ?
ヤバい……笑みが消えない。まさか思っても見ないだろう……復讐を考えていた矢先、その第一号が俺をいじめていた主犯格の一人になるとは。
いじめていた奴に復讐できる上に、そいつはいじめられている……もし亜久留 兵八が姿を消しても、またいじめによる自殺……そう思われるのがオチだろう。
「くくく……くふふふふ……!」
最高じゃないか。俺の復讐の記念すべき一人目に、お前を選んでやるよ!




