織田教諭(創造番号第1549天使)の実況①
ついにこの日を迎えました。
時刻は七時四五分。
『第九回 ハルマゲドン in羽舞原校』
その最初の登校キャラが、正門に到着しました。
そこに停まっているのは、黒塗りの高級車。
運転手役の後輩(創造番号第4989天使)が後部座席のドアを開けると、黒いストッキングに包まれた長い脚が、スッと伸びてきました。
「あはぁン❤」
とても高三が発したとは思えない、艶のある声。
それは、三年四組『チーム・魅惑』の作った三姉妹キャラ――その長女である、『聖室昇華』の声でした。
その腕の中で眠るのは、三姉妹の末っ娘で奇跡のロリ高生……もとい奇跡の女子高生、『夢中放縦』です。そのあとに次女の『妖艶禁忌』が、自慢の黒髪をなびかせながら続きます。
イシュタル達は正門をくぐったところで立ち止まると、不意にその場でポーズを取りました。
それは意味があるような無いような、コミックスの扉絵に描かれていそうな感じのポーズでした。
「あン❤」
直後、霧へと姿を変えたイシュタルが二人を包み込むと、彼女達はそこから去って行きました。
周りに誰もいない、静かな朝に行われたそれ。
しかしCB専用サイトでは、先ほどのアクションが派手な音楽と共に映し出されていました。そこでは彼女達の信者が、様々な声援コメを送っています。
それは、言うなれば信者へのサービスのようなものでした。ハルマゲドンの時は、各キャラがここでポーズを取ってから、校内へと向かうのです。
さて、それでは最初のキャラが登校を終えたところで、ハルマゲドンのシステムについて簡単に説明しておきましょう。
手記にも書いたように、ハルマゲドンとは各組のキャラが一堂に会し、バトルロイヤル形式で戦う大会です。
大会は学期末ごとに年二回行われ、さらに各地に分校が増えた現在は、各学校の優勝キャラが集まって戦う、『アルティメット・ハルマゲドン』――通称『アルマゲドン』も開催されています。
ハルマゲドンでは、普段のCBとは異なる、特別なルールが設けられています。
ルールは複数にわたるのですが、まず何よりも異なるのは、舞台となる学校が、形だけをまねた別の校舎だということです。
本物と同じ、H型の校舎。プールなどの施設も再現されたそれは、もちろん神さまの力によって創られました。
創られた場所も、いわゆる「ここではない、どこか」という空間で、審判役を務める我々とハルマゲドン参加キャラ以外は、決して立ち入ることができません。
次に二つ目ですが、先程の三姉妹が「最初の登校者」であることからわかるように、登校には順番が決められています。
その決め方は、毎週末のCBにおける差し引き勝利数、つまり勝利数から敗北数を差し引いた数が多いチームから、ここへやって来ることができるのです(同数の場合は総試合数の多い方が優先となります)。
一番手である『チーム・チャーム』の差し引き勝利数は、“24”。
試合数はそれほど多くありませんが、そのぶん堅実に勝利してきた結果、一位を獲得するに至りました。
またそんな彼女達の寄進数ですが、
イシュタル 50口(個人ランキング5位)
カーミラ 32口(同7位)
リリス 41口(同6位)
となっています。
トータルの寄進数は二位、平均は五位。彼らとしては、もう少し数を伸ばしたかったというところでしょうか。
――と、ここで時刻は、七時五〇分となりました。
続いてやって来たのは、予選第二位のキャラ。
二年五組『チーム・不屈』の『斬斬り刀』です。
高く結い上げたポニーテールも、今日は一段と絶妙な角度で伸びています。
その差し引き勝利数は、“18”。
寄進数は63口(4位)。
どのキャラも概ね50口あたりから必要なKの数が増大する中、堂々の「壁(=50口)超え」を果たしました。
それからルールにしたがって五分おきに、キャラ達は以下の順番で登校してきました。
七時五五分
三年五組『チーム・異形』(差し引き数“15”)
『網目』 30口(8位)
『残刻』 17口(11位)
八時〇〇分
二年四組『チーム・無法者』(差し引き数“13”)
『爆』 5口(16位)
『射』 6口(14位)
『殴』 6口(14位)
『防』 3口(17位)
『治』 8口(12位)
八時〇五分
二年六組『チーム・派手』(差し引き数“12”)
『姫のまにまに(クリーン・キラー)』 65口(3位)
八時一〇分
一年三組『チーム・無邪気』(差し引き数“9”)
『夜のアリス(ブービー・ドール)』 71口(2位)
『酔いどれ案山子』 30口(8位)
『丑三つ喇叭』 25口(10位)
八時一五分
二年三組『チーム・否日常』(差し引き数“7”)
『観殺者』 7口(13位)
ちなみに寄進数の低いキャラ――たとえば『チーム・ビッグベイビーズ』の面々が『姫のまにまに(クリーン・キラー)』などよりも差し引き数が多いのは、彼らがCBの途中で『民知らずの王』によってKを奪われてしまったためです。
しかし彼らは同じ目にあった『観殺者』同様、ハルマゲドンには出場することにしたようです。
また総寄進数は一位ながら『チーム・イノセンス』の登校順が低いのは、彼らのテーマである『無邪気』が主な原因かと思われます。
“幼い子供の魂から生まれた”という設定の彼らは、まさにそのテーマどおり後先考えずに戦いをしかけ、勝利と同じくらい敗北を重ねてしまったからです。
しかしそのアグレッシブな姿勢(とキャラ作り)は多くの信者の支持を集め、チームの主軸である『夜のアリス(ブービー・ドール)』は、一年生にして個人ランキング二位となるほどの寄進を得ました。
――そして八時二〇分。
正門の前には、八台目となる車がやってきました。
通常ならば、すっかり勢いの落ち着いているタイミングです。
しかしCB専用サイトには、これまで以上にアクセスが集中していました。
それもそのはず。
いま車に乗っているのは、前回のハルマゲドン優勝者にして、アルティメット・ハルマゲドン(=全国大会)でも三位となったキャラ。
その功績によってキャラは二つ名に“神”の名を冠することを赦され、さらにその名にふさわしい能力を授けられました。
その差し引き数は、わずかに“3”。
しかしその数字にも信者の確信は揺るぐことはなく、結果、集まった寄進数は116口。「壁(=50口)超え」どころか三ケタに達した、まさに“神キャラ”にふさわしい数字です。
車は正門前で止まり、運転席から降りてきた後輩(創造番号第710810天使)が、後部座席のドアを開きました。
CB専用サイトでは、この日のために組のスタッフが用意した、特製のBGMと編集映像が流されています。
荘厳でありながら、聴く者の胸を熱くする、キャッチーなサウンド。
それに合わせて、彼女の魅力を余すところなく伝えるPVが展開されていきます。それは才能と経験が絶妙なバランスで組み合わされたことで生み出された、実にすばらしい作品でした。
ちょうどその映像が終わるころ、車の後部座席から白いロングブーツを履いた脚が現れました。それに合わせて、音楽はクライマックスへと上りつめていきます。
三年六組『チーム・英雄』
戈倉陽子エンジるそのキャラの名は、『神の瞳』
タイトな純白の衣装で身を包み、その上には同色のマントを羽織っています。ベルトやアクセサリーなど細部も作りこまれ、また左腕の手甲の下からのぞく禍々(まがまが)しい刻印も、複雑な過去を醸し出していてポイントが高いです。
しかし何よりも印象的なのは、背中に負った巨大な剣、「竜断剣」と、右目を覆う眼帯でしょう。
自身の身長ほどもある巨剣は、剥き身のまま紐で固定されていました。ドラゴンをイメージして作られたそれは、荒々しい威圧感を帯びつつも、高貴な風合いを兼ね備えた一品です。
また眼帯は割れた仮面をモチーフに作られ、その下には神さまの力を封じ込めた瞳が隠されています。今回のCBではまだ一度も使われたことがなく、信者のあいだではその効果について様々な憶測がなされていました。
「……」
ショートに整えた金髪を小さく揺らしながら、『神の瞳』が静かな足取りで進みます。何かを決意したような表情は、しかしかすかな憂いを帯びていました。
相手に同情の余地すら与えない圧倒的な強さと、その合い間に見せる儚い表情。
信者の多くが彼女に寄進したのは、過去の戦績だけが理由ではありません。その振れ幅の大きいキャラ設定にも、強い魅力があったからです。
彼女のエンギ力と、それを最大限に引き出したスタッフの働きによって完成した『神の瞳』は、すばらしい音楽と大量の応援コメに見送られながら、校舎へと消えて行きました。
……さて。
時刻は八時二五分になろうとしています。
正門の向こうから、九台目の車がやって来ました。
そこには、今大会最後の出場キャラが乗っています。
しかし、今やサイトへのアクセス数はぐっと落ち込み、コメント数も激減しています。その数少ないコメントも、彼らが参加することへの疑問や批判、あるいは罵倒の割合が多めでした。
まあ罵倒はともかく、疑問に思う人がいることはわかります。
とてもじゃありませんが、出場する意味が見出せないからです。
車が、正門の前で停まりました。
運転席から後輩(創造番号第7789天使)が下り、後部座席のドアを開きます。
「やれやれ――」
高校生らしからぬセリフと共に、先の尖ったローファーが地面を踏みしめました。
「――それでは参りますか」
手でコートのシワを伸ばすと、彼は車の方に向き直りました。
すると後部座席からは、編み上げのロングブーツを履いた脚が現れました。
やはり編み上げを多用した黒いゴシックドレスを身につけた彼女は、銀髪のロングヘアを軽く整えると、手にした本を開いてつぶやきました。
「粉骨……」
……おそらくは「粉骨砕身(がんばる!)」と言いたかったのでしょう。無表情ながらも瞳の奥には、熱い意志が秘められていました。
彼らこそ、わたしが受け持つ組の作り出したキャラ。
一年五組『チーム・狂気』
『傾国の参謀』
『不実な執事』
二人は正門をくぐったところで立ち止まると、そこで背中合わせになりました。
「フッ――――」
「開始……」
スマイリーは不敵に微笑みながらメガネのブリッジを押し上げ、ロングは本のページをめくりました。
人気キャラならここで盛り上がってくれるのですが、いかんせんそこから一番遠いところにいる彼ら。
スタッフの予想どおり、ジョーカーの信者のほとんどは彼らにスライドすることなく、またジョーカーが残した負の遺産も手伝って、応援コメはほとんどありません。
その差し引き数は、堂々の“0”。
加えて寄進数も“2口”ずつしかなく、まさに何ひとつ展望の見えない状況です。
確かに過去のハルマゲドンを見れば、やはり同じくらいの寄進数で出場したキャラも存在しました。
しかしそれは今後を見据えた宣伝が主な目的であり、出場させるのも新キャラであることがほとんどでした。多くの信者が注目するハルマゲドンで健闘することにより、自キャラの魅力をアピールするためです(Kはハルマゲドンが終わるたびにリセットされるので、うまくプロモーションしておけば次回のCBでスタートダッシュをかけることができるのです)。
このような条件にも関わらず、なぜ『プロデューサー』の暮継君が彼らを送り出したのか、それは不明です。
それでも教え子である以上、やはり彼らにはには頑張ってほしいと思います。
どれほど絶望的であっても、またその設定がどれほど人を――いえ神さまを喰ったものであっても。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
ようやくハルマゲドンが始まりました。
次回から彼らによるバトルロイヤルが始まります。様々な設定のキャラ達がカオスな戦いを繰り広げます。
予定では明後日、よろしければまた読んでやってください。




