古機(ふるはた) 誠(一年五組 出席番号十一)の愚痴⑥
「……ちょっと待ってくれ。すぐかけ直す」
そう言って電話を切った暮継が、目の前の人物を無言で見つめる。
「あれは……」
「……誰?」
「「昭和か」」
大久茂の発言に不用意なセリフを繋げた純香が、小円姉妹のツッコミによって抹殺された。
それはともかく、スタッフが驚いているのも無理はなかった。
そこにいるのは、ある意味で深い縁がありつつも、まったく予想もしていなかった人物だったからだ。
二年三組 天上 愛
サラサラのロングヘアと、背が高く華奢な体つき。クールビューティと評するのがふさわしい顔立ちは、巫女さんカフェで働けばものすごく人気の出そうな外見だ。
しかしそんな彼女の肩書は、キャラをエンジる『アクター』ではなかった。
彼女はそれを作り出す側、つまり『プロデューサー』である。
神キャラを育てた火山のせいであまり目立っていないが、彼女も数々の強キャラを生み出してきた名プロデューサーの一人なのだ。
「……会議は終わったのかしら」
「……ああ」
天上先輩の言葉に、暮継が普段どおりのぞんざいな口調で応える。
だがそれを気にする様子もなく、先輩はお祓いの呪文が似合いそうな、芯のある声で続けた。
「そう。それでハルマゲドンには」
「出るさ」
「そう。勝算はあ」
「ある」
「そ」
「ノーコメント」
……沈黙。
「あれは……」
「……なに?」
千賀派のつぶやきを、純香が繋ぐ。
だがそこにツッコミが入ることはなかった。
その時そこにいた全員が、そのやり取りを「なに?」と思っていたからだ。
かたや良キャラを生み出してきた、名プロデューサー。
他方は賛否両論うずまくキャラを創り出し、鬼才と評されるプロデューサーである。
二人に個人的な繋がりがあるなどとは、聞いたことがない。
ただひとつ知っていることといえば――と、おれは視線をそいつの方に向けた。
人のよさが全面ににじみ出た顔で、二人を見つめる正之介。
あいつのエンジていたジョーカーが、その凶悪スキル『意味なし革命』でKを奪ったのが、天上先輩の創り出したキャラなのである。
そのキャラの名は、『観殺者』。
Kを奪われるまでは、同学年の『姫のまにまに(クリーン・キラー)』や『斬斬り刀』と、寄進数を競っていたほどのキャラだ。
(でもそれが――)
今回の訪問と関係あるのだろうか。
キャラの設定は自由だし、そもそも、異能を決めるのは神さまなのだ。もちろんそれは、彼女だって承知しているはずだ。
二人は重苦しい沈黙を保ったまま、見つめ合っていた。
その数秒後、先に切り出しのは暮継だった。
「……悪いが退いてくれ。時間がないんだ」
そして足を踏み出そうとした直後。
ピッ、という音がしそうな勢いで、その額に人差し指が突きつけられた。
立ち止まった暮継を見つめたまま、先輩は言った。
「ええ。でもその前に、『降板』の件について一言」
彼女は続けた。
「ざま~みろ」
天上先輩は去っていった。
「……あれは……」
「「……なんや?」」
奥内のセリフに、小円姉妹が続いた。
だがその疑問に応える者はいなかった。
誰一人答えがわからなかったからだ。
「……ああ、もしもし? さっきは悪かったな――」
何事も無かったかのように、暮継が携帯片手に去っていく。
静まり返った教室。
何ひとつ事情のわからないおれ達は、しかしそれでもひとつの思いを共有していたらしい。
凛とした瞳で相手を見据える、天上先輩が放ったセリフ。
おれ達は、まるで計ったかのようなタイミングで、それに対する感想を口にしていた。
『かわいい……』
事情は何ひとつわからないが、なんかちょっとうらやましいシチュエーションじゃねえかコノヤロー的な気持ちが、おれの中で静かに渦巻いていた。
「……こら要チェックやな」
「ホンマや。『事実はキャラ設定より奇なり』とは、よう言うたもんや」
「何あれ!? 何あれ!? すっごい気になるんだけど!」
「“合宿”で最初にやることは決まったわね」
「……とりあえずみんなには根回し(=メール)しておく――」
男子どもが沈黙を保っているのとは対照的に、女子の方はやたらと盛り上がっていた。『エージェント』やら『プランナー』やらの肩書きを持っていても、こんなところはやっぱり思春期ど真ん中の高校生なのだ。
(……しかし)
彼女たちの喧騒を聞きながら、おれは背もたれに体を預けた。
皆の怒りがうやむやになったのはいいんだが、問題は何も解決していなかった。
学内のみならず世界中が注目している、最強キャラ決定戦の『ハルマゲドン』が一週間後に迫り、それにおれと純香が出場するはめになるかもしれないのだ。
それを忘れて能天気に騒ぐ純香を見つめながら、おれは心の中で思い切りため息をついた。
そしてこんな時――騒ぎに乗り切れず冷淡に状況を眺めている時――、いつも彼女に言われてきたセリフを思い出していた。
「なんでアンタはいつもそうなの!?」
(いやまあ……ねぇ――)
初めて言われた時と同じ応えをつぶやきながら、おれは彼女達の興奮をぼんやりと見つめていた。
すいません。今回も主人公の語りでした。
合わせてサブタイトルにも、通し番号をつけました。前半とか後半とかだとゴチャゴチャするので。
しかし回によって、文字数がメチャクチャですね。あるていど統一させたいのですが…なるべくがんばります。
それでも読んでくれてる方、本当にありがとうございます。
次回からはキャラ達によるバトルロイヤル、『ハルマゲドン』が行われます。
初登場の『キャラ』も出てきます。




