古機(ふるはた) 誠(一年五組 出席番号十一)の愚痴⑤
「ヒック――ウィ――――ムッシュ……ヒック――――」
それは俺の正面から聞こえていた。
酔っぱらったフランス人がいるわけではない。というか、目の前に座っているそいつはおれの幼なじみにしてクラスメイトの、黒村正之介だった。
彼がこんな妙なセリフを発しているのは、泣いているからだ。純粋な泣き声と笑い声は、本人の意志で調整することが難しい。
「――ほいで百やん、どないすんのん?」
「せや。今から新キャラ作るっちゅーんは、なんぼなんでも無茶やで?」
直後、正之介がさらに大きな声で泣いた。それを隣に座るもう一人の幼なじみ、純香がハンカチを差し出しながら慰める。
先程の大阪弁は、我が一年五組の『ライター』を担当する双子の生徒、小円姉妹のセリフだった。おれの隣に座っている二人の視線は、百やんこと暮継百夜に向けられていた。彼は我が組の、『プロデューサー』である。
やれやれ――
おれは心の中でため息をつくと、背もたれに体を預けた。
ここは教室の中央。時刻は午後の三時。
机をくっつけて作った即興の長テーブルには、暮継・小円姉妹・正之介、純香・おれの他に、三人のスタッフが並んでいた。
すなわち、
『交渉』代表の「奥内 憂子」
『宣伝』代表の「千賀派 康上」
『プランナー』代表の「大久茂 永衣」
という面々である。
他に生徒はいない。緊急会議ということで、皆には席を外してもらっているのだ。
そして緊急会議の議題とは、
『民知らずの王』不在の『チーム・マッドネス』を、どうするか。
そのことについて、おれ達は結論を出さなければいけないのだ。
それも校内最強キャラを決める『ハルマゲドン』開催まで、あと一週間というこの時期に。
……まあ――
と、様々な意見が飛び交う中、ひとり沈黙する暮継を見ながら、おれは思った。
――結局は見送るんだろうけど。
なんせ正之介がこの調子なのだ。たとえ今から新しいキャラを作ったとしても、まともにエンジられるとは思えない。
あいつが受けた心の傷はあまりにも深く――何より、エンジる理由そのものが失われてしまったのだから。
正之介がキャラ高に入りエンギに励んでいた理由は、ただひとつだった。
八年越しの片想いの相手、三年生の「神木 春風」に告白する勇気を身に付けるためだ。
だがその想いは、無残にも昨日で打ち砕かれてしまった。
そして間の悪いことに、その衝撃はそれを知った時ではなく、本日おこなわれたCBの時に現れ、正之介は――いやジョーカーは、『降板』を宣告されてしまったのだ。
「しやけど『降板』っちゅーんは、なあ……」
「どやろ、“オーディン”に頼んでみーひん? 何とかしてくれるかもしれんで?」
「……無理かな」
姉妹の提案に、『エージェント』の奥内が小さく首を振る。暗く無口な性格の彼女だが、ポツリとつぶやかれるその言葉には不思議な説得力があった(ちなみに「オーディン」とは、このクラスの担任である織田先生のあだ名である。本人に“戦争と死の神”のイメージは欠片も見当たらないのだが、まあそうなってしまったのだからしかたがない)。
それはともかく、確かに奥内の言うとおり、おれ達がいくら織田に頼んでも、結論がひっくり返ることはないだろう。
というか、『降板』を宣告したのは、当の織田先生なのだ。いくら受け持ちの生徒とはいえ、聞き入れるようなことはできないはずだ。
しかし――と、おれは視線を正面に戻しながら、今朝のことを思い返していた。
よく晴れた土曜日の朝。おれと正之介はいつもどおり登校していた。
その途中、不意にあいつは八年越しの片想いが――しかもそれを伝えることもできないまま――終わってしまったことを告げてきたのだ。
少し残念そうに、けれど意外なほどにあっさりと。
聞いたところによると、正之介は昨日の帰り道、途中にある公園で、神木先輩が男に告白しているのを見てしまったらしい。
相手は彼女と同じ三年六組で『プロデューサー』を務める、「火山 豪」。
彼は各地のキャラ高の優勝者が集まって行われる全国大会において、三位になったキャラを生み出した、名プロデューサーだ。
そのキャラはその功績によって“神”の名を冠した二つ名と、それにふさわしい能力を授けられ、今回のCBにも参加している。
その“神キャラ”――『神の瞳』の寄進数は、現在ぶっちぎりの一位を獲得していた。
そういった中でも、もしかした対抗馬となるのではないかと期待されていたのが、ジョーカーだった。
だがそんな彼は哀れにも戦う前に『降板』――つまり、CB時にそのキャラらしからぬ振る舞いをしたとして、失格を宣告されてしまったのだ。
一度『降板』を宣告されてしまえば、もうそのキャラはCBに参加できなくなる。それまでに得た寄進数も勝敗も、すべて無効になってしまうのだ。
その最悪な事態が起こったのは、一時間目のチャイムが鳴った十分後だった。
いつものように開始五分後にやって来た織田先生が、前回の内容を振り返っていた時、不意に教室のドアが周囲の壁もろとも吹っ飛ばされた。
「――あはぁン❤」
立ち上る煙の中から現れたのは、「三年四組」の三姉妹の長女、『聖室昇華』だった。
いつものようにエロうれしすぎる格好の彼女は、生徒達の視線を満足気に浴びながら、ゆっくりと教室に入ってきた。
迅速かつ確実なECの生徒は、すでに教室の外にスタンバっていた。またドアのそばにいた生徒は織田先生の霊子体によってガードされていたため、無傷だった。どれほど生気が無さそうに見えても、このあたりはさすがに天使だと感心する。
コツ――コツ――と、ヒールを響かせて歩くイシュタルが見つめているのは、もちろんジョーカーだった。
いくら土曜日とはいえ、あくまで学生ということで原則的に授業中のバトルは禁止されているのだが、やり過ぎない限りは咎められることはない。しかも来週はハルマゲドンが控えているとあって、特にこういうことは大目に見られることになっている。
ハイヒールの音が止まった。
「――見ぃつけたン❤」
イシュタルが露骨に媚びたポーズを取りながら、甘い声で告げた。
視線の先には、椅子に座ったままうつむいている正之介。
だがその格好はすでに制服ではなく、ジョーカーのそれに変わっていた。
ただ今は例のごとく、キャラになりきる前の自己暗示の呪文を唱えている最中らしく、しばらくは背後に控える二人の従者――『傾国の参謀』と『不実な執事』が、場を繋がなければならない。
どれほど不意のことであろうと、キャラをエンジる『アクター』は、シーンに対応できなくてはいけないのだ――と、すっかりCBに馴染んでしまった自分に哀しさを覚えた。
「やれやれ。いったい何の御用ですか?」
おれはスマイリーの口調でつぶやきながら――そしてイシュタルが魅せつける一組の凶悪なマシュマロを盗み見しながら――考えた。
おそらく彼女は、戦いに来たのではない。それなら一人でここに来るはずがないからだ。
「あン、愛がすくないわねぇ、スマイリーちゃん❤? 今日はとぉってもいいお話をもってきてあげたのに」
「ふむ……いいお話、ですか――」
媚びたポーズその2を取り、イシュタルが微笑む。体勢に合わせて形を変える二つの白玉を盗み見しながら、おれは応えた。
とりあえずは流れ上、イシュタルの言う「いいお話」とやらについて聞き出さなければならない。
『不実な執事』は無口な上、しゃべる時は二字熟語のみという厄介な設定にされているため、こういう時はスマイリーの出番なのだ。
おれは両手を後ろに回し、スマイリーらしい微笑みを浮かべると、彼女に言った。
「それはいったい――」
「笑止……」
――あれ!?
おれはスマイリーらしからぬリアクションをギリギリで回避した自分を褒めつつ、話を問答無用でぶった切ったやつに振り向いた。
「……ロングさん?」
「……」
だがロングこと純香は、小道具である二字熟語(ルビ付)が書かれた本を無感動に見つめたたまま、こちらに振り向こうともしない。
(こいつ……)
たたずまいこそ平然としていたが、長い付き合いであるおれにはわかった。
純香は、明らかに苛立っている。
以前からこいつは「チーム・チャーム」――特にイシュタルに妙に批判的だったのだが、それがこの場面で噴出してしまったのだろう。
まったく、とおれは心の中でため息をつきつつ――だがその気持ちはよくわかるので、それ以上追及するつもりはなかった。
そう。
人は自分にないものを持っている人間に対して、攻撃的な態度を取りがちである。
だから、しかたないのだ。
イシュタル様の鎖骨の下にそびえるのが二つのアルプスに対し、同じ位置にある彼女のそれが堂々たる海抜0メートル地帯である以上、おれは寛容な精神で純香の勇み足を赦すとしよう。
幼いころ空手に夢中になっていたせいで、彼女の身体は脂肪よりも筋肉を優先する体質になってしまったのだから、しかたないのだ。
おれはすばやく頭を切り替え、再びイシュタルに向き直った。
先程の発言には純香の地が含まれてしまったものの、『降板』される様子はなさそうだった。まあ無口だが気の強いキャラ設定なので、不自然ではないと判断されたのだろう。
おれはメガネを中指で押し上げると、暮継にさんざん練習させられた「裏のありそうな微笑み」を浮かべながら、あらためてイシュタルに言った。
「これは申し訳ありません。わたし達の願いは、ジョーカー様の敗北ですからね。そのため、“いいお話”とは、むしろ二人にとって好ましくないことかと思いまして」
もともとスマイリーとロングは、少年が悪魔の力を我がものとするために放棄した“理性”と“知性”が擬人化した存在であり、もういちど少年の中に戻るためにも、ジョーカーの敗北を望んでいるという設定なのだ。
よってジョーカーの利益はおれ達の不利益であり、だからこそロングは「笑止(=くだらない)」と言い捨てた――という確認を、念のためにしておく。場の空気を整えるためだ。違和感を感じたエキストラによって雰囲気が悪くなれば、キャラをエンジにくくなってしまうからだ。
それに対し、おれに劣らず裏のありそうな笑みを浮かべたイシュタルは応えた。
「あらン❤ そうだったわねぇ――でも肝心のジョーカーちゃんはどうなのかしら?」
「さあ? わたしには何とも。どのような結論であれ、憐れな下僕は主人に従うしかないものですから」
大げさに肩をすくめながら、おれは思った。
そろそろ、限界が近づいていると。
朝一からこのキャラをエンジるのは、ちょっとキツイと。
あくまでジョーカーの引き立て役に過ぎないおれは、多少のエンギはしてもあとは控えていることがほとんどだった。なんなら薄笑いを浮かべたまま、ただ突っ立っているだけのことも多いのだ。
それが、今回はやけにエンジる時間が長い。そろそろジョーカーの高笑いが聞こえてきてもいい頃だ。
「クク――」
直後、下からやってきたその声に、おれはホッと息をついた。
やはり準備はできていたらしい。
おれは景気付けのひと暴れとなるかもしれない事態に備えて一歩後ろに下がると、我が主人に向かって視線を下げた。
「――ムッシュ……」
…………は?
どこにフランス人がいるのかと思った。
ECに転校生でも来たのだろうかと。
だが違った。
それを発声したのは正之介で、しかもそれは泣き声だったのだ。
おれはびっくりした――と、身も蓋もない言い方しかできないほど驚いていた。
正之介は顔を机に向けたまま、黒くふち取られた瞳から涙をポタポタ流している。
おれは視線を正面に戻した。
イシュタルもびっくりしていた。媚びたポーズその3で固まりながら、どうしたらいいかを考えているようだった。
「……やれやれ――」
おれはとりあえず言った。
「……あはぁン――❤」
イシュタルも、とりあえずな感じでつぶやいた。
「……黒村くん――」
そう言ったのは、いつのまにかそこにいた織田先生だった。
「……ぇ?」
正之介が、ゆっくりと顔を上げる。
そして目の前の織田を見て――不意にその目が見開かれた。
「フ……ワヒャヒャヒャッ! おれは『ジョーカー』だあぁぁっっ!」
……絶望に首までつかりながら、なおエンギしようとした点については、認めるべきだと思う。
ただ残念ながら、それは正之介を絶望のスープから引き上げるどころか頭の先まで沈める結果にしかならず、哀しげな瞳の織田先生は静かな声で、しかしはっきりと告げた。
「一年五組五番、黒村正之介。キャラ逸脱により、『民知らずの王』を『降板』とします」
――というわけで現在に至る。
こうして『民知らずの王』は失格となり、おれ達は一週間後に迫ったハルマゲドンへの対応を協議しているというわけだ。
とりあえず最初に選ばなければならない選択肢は、二つ。
ハルマゲドンに参加「する」か「しない」かだ。
今や全世界から注目されているCBだが、ハルマゲドンには必ず参加しなければいけないわけではない。
神さまのオーディションに合格したキャラがいなかったり、キャラの作り直しをしたい場合など、事前に申告すれば免除されることになっている。
たださすがにまったくの不参加というわけにはいかず、CBの予選は少なくとも三回、ハルマゲドンは年二回のうち一回の出場が義務付けられていた。
今回のハルマゲドンでは、すでに一年四組と三年三組の不参加が決定している。
また一年六組も状況微妙だとの噂が流れていて、もしこれでおれたち五組までが見送りとなったら、一年の出場は『チーム・イノセンス』の三組だけになってしまう。『チーム・チャーム』と同じく、キャラは三人。合計の寄進数なら一位となる、強力な組だ。
でもまあ――
と、おれは過去に何度もそうしてきたように、他から一歩どころか数歩は離れた気持ちで周囲を眺めながら、心の中でつぶやいた。
――べつにどうでもいいんだけど。
ハルマゲドンの出場キャラが二人だろうが百人だろうが、それはおれの関心外のできごとだった。
それに――と、とりあえず涙は止まったらしい正之介を見ながら思った。
『降板』は五組が受けた痛手であって、正之介個人にとってはむしろよかったのではないかと。
確かにエンジることを望んだのは正之介だったかもしれないが、それはあいつの想い人である神木先輩に告白するためだ。
それができなければどんなキャラをエンジようがたいした意味は無く、事実あいつは未だに告白を実現できていないのだ。
もう少しキツイ言い方をすれば、最近のあいつにとっては、キャラをエンジることが逆に目標からの逃避になっているんじゃないかと思ってたくらいなのだ。
それに――これはいわゆる希望的観測ってやつなのだが――神木先輩の件に関しては、まだ諦める必要はない。
なぜなら正之介が目撃したのは、あくまで神木先輩の「告白」であって、その「結果」ではないからだ。告白のシーンがあまりにショックだったらしく、気がついたら家で晩メシを食べていたらしい。
だから彼女と同じクラスで『プロデューサー』をしている火山が、何て応えのかは、まだわからない。
そりゃあ神木先輩はおれから見ても可愛いくて魅力的だし、また火山の方も才能ばかりか顔も一流クラスで、そもそも神木先輩はキャラをエンジるために入学したんだから、まああんな人が身近にいれば惚れちゃうのもしかたないよねって感じなのだが――しかしそれでも、まだ確認したわけではないのだ。うん。
よっておれとしては、せっかく『民知らずの王』から解放されたのだから、きちんと告白の結果を確かめ、もし可能なら告白してしまうのがいいのではないかと、そう思っている。
五組には他にもキャラ志望のやつがいるし、その中にはあるていど完成しているキャラだっているのだから。
そんなことを考えつつ、おれは暮継の様子を伺った。
彼は会議が始まった時と同じく、手を組んだまま沈黙している。
ちなみに正之介がああなってしまったことの理由については、おれから暮継に話しておいた。皆にバレてしまうよりはいいと思ったからだ。
「そうか」と、彼は意外なほどあっさりとそれを理解し、スタッフには彼から説明してもらった――正之介がああなったのは、「数日前、ケガをしていた猫を拾ったものの、看病のかいもなく死んでしまい、それを不意に思い出してしまった」からだと。
何ひとつ表情を変えずに嘘をつける暮継の度胸に加え、それならしかたないと思われる正之介の性格のおかげで、一応みんなには納得してもらった(と思う)。
会議は、参加/不参加については未だ結論が出ていなかった。
だがもし「参加」ならという前提で『プランナー』の大久茂から提案されているのは、あるていど設定が固まっている別キャラをオーディションにかけるということだった。
そしてその候補に挙げられているのが、「深掘 悠木」のエンジる、『無償の無慈悲』だった。二つ名にも入っている、『無慈悲』をテーマとしたキャラだ。
ただそれにしてもまだ詰めるべき設定が残っているのと、何よりもキャラをPRする時間が無さすぎるということで、できれば今回は見送りたいというのがスタッフの本音のようだった。
「ん~、『ルーザー』はもうちょい調べたいこととかあんねんけどなあ……」
「せやねぇ、ほとんどイケてるだけに、よけい気になるっちゅーか……」
「それはこっちも同じだよ。いまCM打っても寄進にはつながらないだろうし、次のハルマゲドンへのアピールっていっても、それにふさわしいシーンを残してくれないと意味無いし。やっぱり僕は反対だね。何もかもが悪すぎる」
小円姉妹に応じる形で、『宣伝』代表の千賀派がはっきりと意志を表明する。
大久茂も内心では同じように考えていたらしく、反論することはなかった。純香は何か言いたげな様子だったが、上手く言葉が見つからないらしい。やはり彼女も沈黙していた。
「…………うん――」
そして情勢が不参加で固まりつつあった時、暮継が不意につぶやいた。
すでに『無償の無慈悲』のオーディション時期に話題をシフトさせていたメンバーが、ピタリと話を止める。
彼はその独特の凄みを持つ視線でゆっくりと一同を見渡しながら、再び口を開いた。
「――それじゃあ『食えないアヒル(ジョーカー・ダックス)』のオーディションは、明日にしよう。奥内、申請書を出しといてくれ。皆はこれから“合宿所”に集合だ。他のスタッフには俺が声かけとくから」
「……は?」
「……え?」
「……ぇ?」
「……は?」
「…………え?」
「……な?」
「「……なんて?」」
「会議は終わりだ。さ、急げよ。一秒も無駄にはできないんだ」
暮継は一人立ち上がると、ポケットから携帯を取り出した。
“合宿所”とは我がクラス一番の金持ちである小円姉妹の邸宅のことで、客好きかつ面倒見のいい彼女達の両親は会議やエンギの練習場としていつでも部屋を貸してくれる上にメシなどの世話までしてくれるのでこの名が――などという説明はどうでもよかった。
いま問題にすべきは、会議の流れが冒涜と言ってもいいレベルでひっくり返されたことについてであり、しかもハルマゲドンに参加するキャラがよりにもよって『ジョーカー・ダックス』――つまりは、おれと純香の二人であるという暴挙についてだった。
おれ達の正式なキャラ化については、確かに(暮継が黙っている時の)会議の中でも検討された。
『民知らずの王』には大量のアンチもいたが、そのぶん熱狂的な信者もいる。
だから未知数の新キャラよりは、獲得を見込めそうなスマイリーとロングをきちんとキャラ化して戦わせた方がいい、というのはひとつの理屈ではある。
だが問題は、ジョーカーの信者が、少しばかり熱狂的に過ぎるという点だった。
彼らはあくまでジョーカーが好きなんであって、他の二人にはさしたる興味がない者が多い。
しかも『降板』によってジョーカーの復活が永遠に望めなくなった今、信者をスマイリーやロングにスライドさせるのは難しいとは、すでに指摘されていることだった。
その過程をすべて無かったことにした暮継に対し、小円姉妹がブチ切れた。
「百やん、あんた何言うとんや!」
「せや! なんやねん、いきなり“合宿”て!」
「なんだ、空いてる部屋が無いのか?」
「「ちゃうわ!!」」
部屋ならめっちゃ空いてるっちゅーねん――と、動揺のあまりか姉妹がずれた方向に怒りを向ける。
「――ああ、もしもし? 俺だ。ちょっと頼みたいことがあるんだが――」
しかし当の暮継はそんなことを微塵も気にする様子を見せず、携帯を手に出口へと向かう。
イシュタルに破壊されたあと、科学の力では説明不可能な天使パワーによって、完全に修復された扉。
彼がそこに手を伸ばした瞬間、計ったかのようなタイミングでそれが開いた。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
第11話をお届けします。
またいろいろと新しい名前が出してしまいまして、申し訳ありません。
色んな生徒がそれぞれの役割を担っている、という雰囲気を出したかったもので。
できればこのペースがずっと続けられるよう、がんばります。
それでは失礼します。




