第終話 さる武器屋の英雄伝
2014/01/02 2つの変更点があります。
書き途中であるのにも関わらず、投稿してしまったことをお許し下さい。また、上の文と下の文で書いていることが誤っていたので、そこを修正します。
以下が変更内容です。
1.
今回は、ミュエルの発案でも、リーナの発案でも無く、中央国から直々のお達しだった。外交に忙しい毎日のユーティリアは、
魔物たちを殲滅しながら、
↓
今回はミュエルの発案でも、リーナの発案でも無く、中央国から直々のお達しだった。外交に忙しい毎日のユーティリアは、その外交の中で、魔物たちの動きが活発化していると話を聞く。村々も襲われ、食料資源も足りなくなっていると苦情も出た。
すると、どこから話を聞きつけたのか、中央国の上級騎士たちから、第十三地区の騎士団長のミュエルへと話が伝わる。
すぐに魔物を退治し尽くそうとミュエルは、精神汚染が進み、体の形質が変わっていくことに傷心していたリーナを連れて新しい旅に出る。
今になって思えば、ミュエルは少しでも、リーナの気を紛らわしたかったのだろう。
そして、魔物たちを殲滅しながら、
2.
これまで発症していなかった分の汚染が、今になって自身の体を蝕んでいるのだ。
「ラルフは、中央を守る騎士になったのです。いきなり、聖剣を全部集めようと言い出した時は、驚きましたけど」
一年目の話。
↓
これまで発症していなかった分の汚染が、今になって自身の体を蝕んでいるのだ。
「みんな、離れ離れになったのです」
過去の記録。
誰かに語りかけるように、リーナはそれらを読んでいく。
一年目の話。
極寒の北の大地。
その神域の跡地と言われる場所に、真新しい城のような建築物ができていたため、中央国は他国と協力し、この城を調査することにした。
調べていくと、魔物たちを統べる王――魔王が、この城には住んでいるという。
これに危機を覚えた中央国は、魔王城から少し離れた場所に位置する竜操者たちの住む村に拠点を置き、王女と共に魔王との和解を行おうと考える。
しかし、獣の顔と人間の体。両手には人の身では到底扱えない程に巨大な槍を持つ魔王は、王女の話に耳を貸さず、代わりに魔物の群れを城内に放った。
王女の護衛に付いていた騎士たちは、その魔物の群れを迎撃しつつ、無事に王女を竜操者の村へと送る事に成功する。
「ありがとうございました。第一次遠征で魔王の城まで進入できたのは、勇者様のおかげです」
中央国の現王女のユーティリアは、ただ魔王城を見つめる、顔を覆い隠す騎士の兜と、冷寒仕様なのか、厚い鎧を身に付ける勇者に声をかける。
勇者は、ユーティリアの言葉に会釈で答えると、無愛想に自分のテントの中に戻ってしまう。
仕方がない。
「心の傷は、癒えませんか――リーナ」
五年前に起きた南での魔神封印以来、勇者――リーナ・ミュードの顔から笑顔が消えた。
テントの中。
妙に、暑い。
それは、精霊用のケースの中に入れられた、炎の精霊のおかげである。リーナが帰ってくるまで、テントの中を温めてくれていたおかげで、中に入った途端、震えるような寒さの外とは全く違うテント内の蒸し暑さを感じる。
リーナは兜を外し、鎧を脱ぎ捨てて軽装になると、自身の体格に見合って作られた、木製の小さな机に向かう。
日記。
今までと、これからの旅を記録した一冊のノート。
あれから、五年も経った。
いや、五年しか経っていないと言うべきか。
その五年の中で最も変化したのは多分リーナ自身だと、はっきりとは言えないが、そう言っても良いと思う程に、成長した。
一年目で、世界に散らばった聖剣を全て集め、二年目で、魔神が残していった魔獣の瘴気を辿り、全ての魔獣を殲滅。三年目で、世に存在する全ての魔物をこの島の神域へと追い詰め、四年目で魔王の城を発見。
そして今、五年目を迎えようとしていた。
「色々、あったのです……」
リーナの背が蠢き、何かが飛び出した。
竜の形状と酷似した翼。
自身に精神汚染が起きている事が発覚したのは、二年目の旅の途中である。
仲間たちが対応できず、リーナに食らいついてきた十を超える魔獣の群れ。
死を覚悟して、でも嫌で。恐怖心が自身を覆い、闇の部分を明かした。
竜の翼が背から生え、四肢が竜の鱗に纏われて変化する。仲間たちは何も言わなかったが、リーナ自身、何も思っていなかった。
そもそも、こういう時――何を思えば良いのか、分からなかったからだ。
きっと、魔神の瘴気が少なからず、体の中に残っていたのだろう。思ったことがあったとしても、その程度の話。
リーナは旅の記録が書かれた日記を開くと、仲間たちと駆け回った思い出に浸ることが多くなった。
段々と、忘れてきている。体に染み付いた戦いの記憶は忘れないが、しばらく会わないでいると、顔と名前が思い出せなくなってくる事に恐怖を覚えている。
これまで発症していなかった分の汚染が、今になって自身の体を蝕んでいるのだ。
「みんな、離れ離れになったのです」
過去の記録
誰かに語りかけるように、リーナはそれらを読んでいく。
一年目の話。
マイヤは、多くの自然を繁栄させるために、世に生きる様々な植物を探して一人、旅に出てしまった。
それでも、ミュエルとラルフとディアの三人は、中央に残っていたのだ。
ディアを第十三地区の騎士として迎え入れた時、ラルフは三人に提案した。
『聖剣を集めましょう!』
急に何を言いだしたのだろう、と話を聞く。何でも、これから先の未来で聖剣を使う人間がいなくなってしまうと聖剣に宿る精霊が告げたのだ。
そして、このままでは聖剣は、時間と共に劣化し、使えなくなってしまうと。
だから、剣の扱いに長けた国でもある中央国に聖剣を置き、未来に託すのだと提案した。
この旅は、かなり過酷であった。知らない土地にある、知らない剣を探さなければならないのだから、骨が折れる。
けれど、聖剣に宿る精霊同士で会話ができるらしく、居場所探しに支障は無かった。問題があるとすれば、国々を移動する時間が多いだけで、この旅は無事に終えることができた。
ところが、ラルフは全ての聖剣を集め終わると、自身の聖剣までも中央国に奉納し、姿を消してしまうのだ。
急に友達がいなくなり、寂しくなったリーナ。すると、ラルフの姿を中央国で見かけた者がいると聞き、その場を訪れると、『アインセル武器屋』と書かれた看板を見付ける。更に言えば、そのすぐ下に書かれた、『モンキー武器屋の主人直伝』という文字も。
リーナが中に入ると、恥ずかしそうに出迎えるラルフ。
『ぼくも、何かを造り出そうと思ってね。リーナの剣も、錆び付いたら見せに来てよ』
作り笑いで、「はい、分かったのです」、と答えるリーナ。それに対し、ラルフも笑顔で、頷いた。
二年目の話。
今度は、ディアの提案だったことを覚えている。
ディアも、精神汚染を患っている人間だ。その中でも、洗脳型と進化型に分類される内の進化型に分類される、これもリーナと全く同じだ。
しかし、見た目の変化は一切しないディアは、マナを自在に操れ、武器の強造を行うことができ、戦闘能力も凄まじく高い。
ラルフがいなくなり、次代の最強はリーナかディアかの二人だと囁かれてきた時、ディアは『魔獣、国、排除、回る』、と話した。
それが意味する事と言えば、一年目の旅の途中、魔物以外に、瘴気を発しながら牙を剥く魔獣と遭遇したことがあった。
もう、誰も瘴気の犠牲にさせたくないと決意したディアは、リーナとミュエルと共に魔獣を倒しながら、再び世界を回った。
全ての魔獣を斬り終えて、中央国へと戻ると、商人の姿をしていながらも、醸し出される懐かしい後ろ姿を目撃する。
マイヤである。
二年ぶりの再会に、はしゃぐ四人。ラルフも誘い、その夜は五人で宴会を開いた。
次の日になると、ディアの装備が第十三地区の訓練場に置かれていた。
そう、ディアはマイヤと一緒に、北の森に向かったのだ。
仲間たちが、次第に自分たちの未来を決めていく中、リーナは焦りと共に、精神汚染が確かなものになってきたと怯えていた。
それでも、ミュエルはリーナの側から離れず、ずっと一緒に居てくれた。
三年目。
もう、分かるだろう。
ミュエルとの、別れである。
今回はミュエルの発案でも、リーナの発案でも無く、中央国から直々のお達しだった。外交に忙しい毎日のユーティリアは、その外交の中で、魔物たちの動きが活発化していると話を聞く。村々も襲われ、食料資源も足りなくなっていると苦情も出ていたらしい。
すると、どこから話を聞きつけたのか、中央国の上級騎士たちから、第十三地区の騎士団長のミュエルへと話が伝わる。
すぐに魔物を退治し尽くそうとミュエルは、精神汚染が進み、体の形質が変わっていくことに傷心していたリーナを連れて、新しい旅に出る。
今になって思えば、ミュエルは少しでも、リーナの気を紛らわしたかったのだろう。
そして、魔物たちを殲滅しながら、南から西へと東に飛び、北に向かおうとした時の話だ。
東から旅立とうとした時、ミュエルの兄であるスタットが、病に伏せているという話を聞いたのだ。どんなときでも冷静であったミュエルも、自分の兄が病気になったとすれば、旅を止めざるを得ない。
ミュエルの部屋に別れの手紙を残して一人、リーナは北山を越え、魔物たちを全て北の神域に追い込んだ。
そして、ついさっきまでの魔王とのやり取りが四年目で、今日が終わりを迎えれば、五年目になるのだ。
――もう、仲間がいない。
五年目が近付いていく中、リーナは今日の日付で日記を書き終えると、鞄の中にしまう。
することが無くなり、暇な時間が残る。次の指示が来るまで待てと言われたが、旅に待てという指示は通用しないだろう。
こんなにも暇な時間は、稽古をしていた。
手加減無しに繰り出される斬撃を受け流しながら、こちらも攻める。それの繰り返しだったが、あの日々の方が充実していた。
――一人で、こんな北の奥地に来るよりは。
すぐ側に置かれていた鞘から剣を引き抜き、刃と柄の繋ぎ目の刃の側面に、うっすらと書かれた名前を見る。
これに気付かされたのは、南から帰ってきて、毛布の中で涙を流していた時であった。
寂しくて、でも、とても清々しくて、外に出て剣を振りたくなったのだ。
そして、外に出て剣を引き抜く。
心地の良い金属音と、まだ慣れない剣の重みを抱きながら、月明かりに照らされた刃面に目を向ける。
――ハイル・ライクス。
英雄の名が刻まれた剣を、少女は一生、手放さないと誓った。
魔王城。
単独で乗り込んでいるリーナは、王宮まで難なく辿り着く。
体の半分を竜と化した魔神の瘴気に、この時は感謝している。
そう、この――戦いの時だ。
「起きているのです?」
『なんだ、人間……いや、お前は、何だ?』
人間と、竜と、魔神が合わさった生物。表現するとしたらそうなるが、ここでは違う。
英雄に与えられた、名誉ある名を囁きながら、リーナは翼を広げた。
「私は、リーナ・ミュード。武器屋の主人に鍛えられた、勇者です!」
旅はまだ終わらない。
ここから先も、まだ旅は続く。
仲間たちは、自分の選んだ未来に向かって走り出した。
そしてリーナも、その一人なのだ。
飛翔する勇者、剣を強く握り締める小さな手に、英雄の大きな手が合わさったような、そんな気がした――。
昨日ぶりです。上雛平次です。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
これにて、『さる武器屋の英雄伝』は完結です。
本当は、1.5章と2.5章、5.5章も書きたかったのですが、また機会があれば、別作のおまけとして追加していこうと思います。
こんな稚拙な私の作品でも、楽しんで頂けたのであれば、嬉しい限りです。
また、今日で2013年が終わり、あすから、2014年が始まります。一日一日を大事にして、自分が何をすべきなのか、それは本当に今しなければならないことなのかを見極めて、過ごして欲しいと思います。
この終話を書き終えた私の感想になりますが、これをバッドエンドと捉えるか、ハッピーエンドと捉えるかは、人それぞれだと思います。ただ、一つだけ言いたいのは、後悔してはいけないということです。
ここは終章の話ですが、殆どがリーナの心理描写を書いていたせいか、さる武器屋はどこに消えたのだろうか、と書いていながら自分自身で思ったくらいです。それも、リーナに自分の全てを叩き込んだハイルの思いから察して頂ければ、何となくでも分かると思います。
自分と同じように、リーナも大切であった、ということです。
そろそろ、書いていて恥ずかしくなってきたので、ここで閉幕と致します。
本当に、長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。感想等、ダメ出しや警告でも構いませんので、何かしらのご意見があれば、書いて下さると嬉しいです。
では、皆様の輝かしい明日と、私自身に栄光があることを祈っております。
良いお年を。




