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パーマ施術中にめまい!どうするか!?

 6月某日


「梅雨ってホンマにいらんわ、筋肉が沈黙するぜい!」


自分以外誰もいない美容室「BIRD HOUSE」で中山潤がポツリと訳の分からない独り言を言う。


雨が連続続きでじめじめとした蒸し暑い日が続いていた。そのどんよりと暗くなるような心にしてしまう天候。それが人間の身体にも影響を与えてしまうことがある。


 本日のお客さんは常連の竹原タケハラ 伸子ノブコ50歳。


カットとパーマの依頼で来店された。濡れた傘を折りたたんだ状態で店のドアを開けた。


「いらっしゃいませ。お荷物お預かりします。」


元気な潤の言葉が店に響く。


「うん、ありがとう、よろしくね…。」


暗い顔で声が小さい。いつもと違って顔色が悪く元気がないことに直ぐに気が付いた。


「あれ、体調悪そうですが大丈夫ですか?」

心配した潤が聞くと…


「う、うん。ごめんね。今朝耳鳴りとちょっと頭がクラクラする感じが続ていたけど、ましにはなってきたから…。」


「ホンマですか?無理そうなら施術中でも仰ってくださいね。」


心配する潤だが、1時間以内とかの短時間で終わるというものでもない。ただ、お客さんが望んでいるわけだし断るわけにもいかないため、予約どおりカットから開始していった。


カット中…


「あっ、天候が悪いと体調不良起こしやすいんですか。」


「そうなのよ、昔からそうなのよね。天気が悪くなると耳鳴りとか耳の違和感がでてきたりして、酷い時はめまいもするんよね…。


「へぇ~病院ではなんて言われてるんですか?」


「いや、症状でても何時間か経てば治まるから病院へは行ってないんよね~、健診でもなんも異常ないし、気にしないようにしてるって感じで…。」


「えっ、病院行ってないんですか、めまいもするんなら行っといたほうが…」


心配する潤と違って、竹原はあまり気にしていないようだ。


しかし竹原の年齢は50歳。健診で基礎疾患は特に言われてないようだが、大病を急に患うリスクはないとは言えない。


竹原の体調を気にかける潤とは違って、病院嫌いなのかと思われる竹原との温度差は一抹の不安が心の片隅に佇んでいた。


カットも終わり、ブロッキング、ロッド、パーマ液を塗布した状態でしばらく時間を費やすのだが…


事態は思わぬ方向に流れこむ…。


竹原の表情がとたんに曇りだし硬くなる…


「あぁ、なんか頭がグルグル回る……あぁぁぁ…」

竹原の表情がだんだんとこわばって眉間にしわがいく。かなり辛そうだ。


「大丈夫ですか!竹原さん。」


「………」

答えられない竹原…いや、言葉がでないというべきか。


潤はゆっくりと座席を45℃ほどに傾けて嘔吐受けの袋もすぐに取り出せるように手元に置いた。

そして脈をみる。少し早いがリズムの乱れもなくしっかり触れている。

呼吸が少し早い、顔色は良くはないが蒼白という感じでもない。冷や汗もかいていない。


「竹原さん、そのまま目を閉じていてください。両手で僕の手を握ってもらえますか?」


潤は竹原の両手を握り問いかけた。


そして、竹原はギュッと潤の両手を握った。両手の力に差はない。


両下肢の動作も問題なさそうだ。今のところ吐き気が催してはいないが油断はできない。


「今ちょっと話せそうですか」

潤は優しく声をかけた。


「うん、ちょっとマシになってきた。でも、頭動かすと視界が揺れちゃうわ…。うーん、気持ち悪いなぁ…ごめんね、迷惑よね。」


「いえいえ、全く構いませんよ、ちょっとマシになってきて良かったです。今頭痛や吐き気はないですかは?」


「う、うんそれはないわ、大丈夫。で、でもちょっと身体は動かしたくないかも…。」


「ええ大丈夫ですよ。じっとして休んでいてください。ところで今耳の違和感は続いていますか?」


「そうね、ずっと続いているわ。もうそれに慣れちゃってたけど。」


潤は頭の中で思考する。


パーマ液をかけた状態、それと竹原の身体の状態。


急に発症しためまいは多少なりとも脳卒中に関連することがある。その確率は低いが、もしそうであれば救急車を呼んで早急に対応できる病院に搬送しなければならない。


現在の竹原は耳の違和感や耳鳴りが慢性的にみられた。かつ頭を動かすとめまい症状が強くなる。頭痛はない。麻痺と痺れはなく発語も問題ない。雨の降る天候。以上の点から耳鼻咽喉科領域のめまいと考えられる。命の危険はない。しかし検査しないと答え合わせができないため、脳神経領域という万が一の可能性もある。


潤は竹原に問いかける。


「竹原さん、どうしましょうか。救急車を呼んで今すぐに病院で診てもらいましょうか、今後を考えると万が一のことがあります。」


「えっ、やだぁ脅かさないでよ。救急車呼ぶほどでも…。」


「ただ難点があって救急車を読んだらパーマ液を直ぐに洗わないといけません。洗う時にめまい症状は強くなると思いますが…。」


「あっ、いや大丈夫よ…多分…もう少し休めばマシになるかもだし…。」


「わかりました。じゃあこのまま様子をみましょう。状態悪くなればすぐに仰ってください。」

潤にも少し汗ばむ顔が垣間見える。それだけ竹原の状態を気にかけているのだ。


お客さんの美容のために潤は情熱を捧げるが、命の危険とかと比べたら天秤にかけるべくもない。

そもそもこの中山潤という男はそれなりに医療に精通した知識を持ち合わせているのだ。


潤の頭の中ではこの症状は良性発作性めまい、下手するとメニエール病の可能性がみえている。病院受診しておらず、ほったらかしにされているのも問題だが、耳鼻咽喉科を受診することで100パーセント治るというエビデンスは存在しない。しかし脳卒中の可能性は否定するためにも病院受診はしなければならない。


「竹原さん、時間になりましたので、洗髪します。頭を動かして大丈夫ですか。」


潤はゆっくりと竹原に問いかける。


「うーん、やっぱりしんどいな。あっでも、今洗わないと髪がね…」


「そうなんです、この時間配分だけはさすがにどうしようもないので…頑張ってみましょう。ゆっくりと頭を動かしてみてください。」

手を握りしめて竹原の背中に手かけた。


「うーん、しんどいけどなんとか…」


ゆっくりと竹原の身体を動かす。潤は傍で介添えする。


なんとかシャンプー台までもっていくことができて、洗髪することができた。


すべての工程がゆっくりとして、潤の神経は竹原の美容と体調の両面で全集中である。


次第に竹原の状態は和らいでいった。


すべての工程を終えたが、なかなか腰が重くて立とうとできない。


竹原の体調は改善傾向だが、まだ頭がクラクラする。


「竹原さん…終わりましたがこのあと病院行けそうですか?」


「えっ!うーん、このまま帰宅して家でゆっくりしてみるわぁ…」


「いやいや、さすがに病院には行かないとだめですよ。病院でとりあえず診てもらわないと、また今後似たような症状が再発することもありますし、原因を医者に明らかにしてもらわないと…」


「う、うん。でもここから病院遠いしタクシー呼ばないとだし…」


「いえいえ、竹原さん。自分だけではなく家族さんのことも考えてあげてください。同居している旦那さんや娘さんが心配されますし、今回は美容院で症状出ましたけど、路上だったら救急車を呼ぶような状態です。脳卒中の可能性も完全に否定できないわけだし、病院には行ってください。家族のためだと思って。」


潤の熱い表情と声が竹原の心に突き刺さる。そのパッションは美容師が常連客に対する配慮を超えている。一人間として竹原の人生や家族をも心配しているのだ。


「そ、そうね。」


「タクシーは大丈夫です。僕が車で連れていきますよ。もう今日は竹原さんが最後のお客さんなんです、心配ご無用。」


「えっ、いやいや悪いわよそんな。ガソリン代と手間も掛けさせるし…。」


「いえ、気にしないでください。僕がそうしたいだけ…。」


カットとパーマを終えた竹原はきらびやかに印象を変える。見た目は綺麗になっても心までは綺麗にはできない。しかし潤のパッションは内面も綺麗にしたがっているようだった。


竹原は50歳…まだまだ人生は長いだろう。外見を美しく保つにはまず内面の健康が必須不可欠だ。


潤の自慢の軽ワゴン(エブリイワゴン)で優しく後部座席に竹原をエスコートする。まだ多少ふらついている。病院での付き添いは家族さんに連絡して、後から病院に来てもらうとしよう。


病院に送ったあと、竹原の夫の到着を待って潤は病院を引き揚げた。


夫は何度も頭を下げている。


潤の表情に安堵がもたらされる。


帰りの車で人生つについて考える。色んな思いが頭を巡らしていた。


そして思いもよらずボソッと独り言が車内に吐き出された。

「俺も家族欲しいなぁ…。」


43歳独身。見た目もいいのに結婚しない、いやなぜか結婚できない男。中山潤の人生は続く。


読んでいただきありがとうございます。

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