パンを求めて
森を抜ける風が、乾いた草の匂いを運んでくる。
王女様は口には出さないが、その足取りは明らかに重くなっていた。
背筋はまっすぐ保たれているものの、歩幅が徐々に小さくなり、裾の裾が地面を引きずり始めている。
(……腹が減っているな)
水は、途中の湧き水でどうにかなった。
だが食料は、城を出てから口にしていない。
僕も腹は鳴っているが、殿下のほうが体力の消耗は激しいだろう。
「この先に、村があります」
そう言った瞬間、王女様は一瞬だけ目を伏せた。
安堵の色と……警戒の影が混じる。
王都に戻らねばならない。
殿下を無事に送り届け、王国の防衛線を立て直すために。
そのためにも、この道を生きて抜けなければならなかった。
* * *
だが、谷を抜けたところで足が止まった。
村の入り口には青地に銀の波紋——敵国の軍旗が風にはためいている。
十数名の兵士が村人を広場に集め、取り調べをしていた。
「……王女テレジアの行方は」
兵の低い声が耳に届く。
(やはり、ここまで入り込んでいるのか)
別の兵士が答える。
「近くの森に潜んでいるはずだ。生け捕りにしろ——王の命令だ」
後ろで、殿下のわずかな息づかいが変わった。
僕は振り返らず、視線だけで森の奥を示す。
「……戻ります」
* * *
森の外れに、放棄された小さな農家を見つけた。
壁は剥がれ、屋根も穴だらけだが、中は乾いている。
僕は王女様を中に招き入れ、壊れた椅子を避けながら座れる場所を確保した。
「少し、ここで休んでください」
殿下は何も言わず腰を下ろしたが、その手はわずかに震えていた。
空腹で血糖が落ちているのだろう。
(食わせないと……)
剣の柄を握る。
「……村に行きます。戻るまで絶対に外に出ないでください」
王女様は何か言いかけたが、僕の顔を見て口を閉じた。
僕はその沈黙を背中に受けながら、扉のない出入口をくぐる。
アクティウムが国内を蹂躙している以上、ただ逃げ延びるだけでは意味がない。
この国を守るために——そして、最弱と蔑まれた自分を変えるために——僕は剣を振るう。
遠くで水音がする。
アクティウム兵の水魔術かもしれない。
胃の奥の痛みを無理やり押し込み、村へと足を向けた。




