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完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第四章 俺と不条理な笑い
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第三話 世界を変えた男

 昼休み。俺は三田と等々力と三人で机を集める。恒例行事だ。もう等々力が俺に弁当を作ることはないが、一緒に食べる習慣は続いている。


「しかし、驚きましたね」

 等々力がぼそっと呟く。話題は当然、草壁だ。


「草壁さんが腋毛を生やしたって、市内で話題になってますよ」

「規模がでかいな」

「……草壁さん、マジか……腋毛……」

 三田はショックを受けてるようだった。アイドル視してたからな。


「前から男子の間でも、草壁さんの腋になにかがあるとは噂になってたが……」

「噂にはなってたのかよ」

「影派と気のせい派とモザイク派で分かれて戦ってたんだが」

「現実から目を背けてる派閥ばっかだな」

「でも、いきなりどういう心境なんでしょう」

 等々力も困惑した表情を浮かべている。そりゃそうだ。等々力からしてもあんだけ戦ってたのに急に見せびらかし始めたんだから。


「……てか、ずっと気になってたんだけどさ」

 三田が不思議そうなトーンで俺を見て、言う。


「前に草壁さんが弁当持ってきたことあったよな? あれなんだったんだ?」

 さらっと黒歴史を思い出していた。

 腋毛弁当のことだろう。等々力との戦いの中で、いきなり教室を荒らして去っていったアレ。確かに三田には意味不明だろう。そういやなんの説明もしてなかった。というか説明不可能だ。

 ……めんどいな。


「そんなことあったか?」

「は? なんかいきなり持ってきただろ。覚えてないのか?」

 とぼけることにした。このタイミングで俺と草薙の関係まで知られるとだるい。無かったことにして強引に押し切ろう。

 ただそれには、等々力の協力が不可欠。さて、どうなるか……。


「三田さん、なんの話をしてるんですか?」

 等々力が不思議そうに言った。阿吽の呼吸。思いが届いたのだ。


「ええ!? いやあったろ!? いきなり弁当持ってきたけど中身が変で……あったよな?」

「すいません……三田さん、大丈夫ですか?」

 心配そうに言う等々力。面白いくらい真に迫っている。


「あれ? 俺がおかしいのか!?」

「副委員長まで務めてる等々力が嘘つくと思うか?」

「いや、だって、草壁さんがいきなり弁当……俺に作ってきたような……」

 それは本当にねえよ。


「そっか……俺の願望が作り出した幻だったのか」

 よし、なんとか誤魔化せたぞ。三田がアホでよかった。


「ちょっといい?」

 突然、割り込む声があった。目をやる。

 草壁だった。

 俺たちの横に堂々と立って、そしてさらっと言った。


「今日から私もあなた達と一緒にお昼を食べることにした」

「俺たちの努力はなんだったんだ!

「やっぱり現実じゃねえか! ふざけんな!!」

 騒がしい俺たちを気にせず、草壁は当然のようにテキパキと弁当箱を開けている。


「な、なんで急に来たんだ?」

 俺は焦って尋ねる。またなにか、腋毛アピールみたいな変な理由があるのだろうか。


「私だけ一人で食べてるの寂しい」

 めっちゃシンプルな理由だった。


「あ、あの……草壁さん」

 三田がおずおずと話しかける。おお、記念すべき初会話だ。


「最近なにか変わったというか……その……体の……黒ていうか、その……」

「三田君、世界は不毛。ファッション、踊らされている。もっと本当の自分を~」

 草壁はもう千回くらい言ったことを、改めて三田に語っている。


「そうか……本当に、生やしてるのか、腋毛」

 まだそこかよ。


「三田君、腋毛はいいぞ」

 草壁は旧ツイッターの旧オタクみたいなことを言って畳み掛けていた。


「そ、そうか……うう……」

 三田はうめいてる。そんなグロッキー状態で続けて、言葉を吐き出す。


「で、でも、その、腋毛ってなんか」

 なにを言うんだろう。


 どうせしょーもないことだろうけど。


 そう思っていた。


 その認識は、間違いだった。


「ファッションが良くないとか言ってるけど……でも、みんなが無駄としてる腋毛をあえて見せるって発想も……ちょっと奇抜なファッションみたいなもんなんじゃないか?」


 その言葉は、銃弾に似ていた。


「え?」

 草壁の口から、今までと違う色の声が出る。


「い、いや、だって……ファッションって要は人との違いだし、目立つための逆張りは基本みたいなもんで、腋毛も別に新しくないって言うか……その、みんなと同じって言うか、自分を特別だと思ってる傲慢さを感じるっていうか……世間に逆らってる感だしてるけど、踊らされてるんじゃないか?」


「なっ、そ、それは……」

 ついさっきまでと逆転の構図。今うめいてるのは、草壁だった。

 そのまま何も言えず、黙り込んだ。わかりやすく、フリーズしていた。


 しばらく時間が流れる。俺も等々力も、突然の展開に何も言えずに見守る。


 ガラッ


 椅子をひいた音がした。草壁は立ち上がったのだ。


 ささっと、弁当を片付ける。


 そのまま何も言わずに、自分の席に戻る。


 弁当を机の上に置く。


 ふらふら~っと、教室を出て行った。


 キーンコーンカーンコーン。


 昼休みが終わった。


 草壁は帰ってこなかった。


「論破されて早退してる!!??」

 ダメージ受けすぎだろ!


「おい、お前、なんで急に核心みたいなこと言うんだ。よりによってお前が」

 とりあえず三田に文句を言っておく。


「い、いや、その、テンパってつい」

 本人も困惑してる。テンパって論破すんなよ。

「俺、なんかやっちゃいました?」

 それ他人に言われるの腹立つな。


「授業を始めるぞ……あれ、草壁はどうしたんだ?」

 教室に入ってきた先生が、鞄だけあって空白の席を見て不思議そうにしている。俺は状況を報告する。


「草壁さんは腋を痛めて帰りました」

「そんなやついるのか」

 そんなやつはいない。わかってる。

 

 本当に傷んでるのは、心だ。

 

 三田の言葉は、草壁を一発KOしてしまった。

 

 草壁の不毛な世界を、変えてしまったんだ。


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