第七話 開かない扉は、開ければいい
「しかし先生には注意されて、これからどうすれば……」
草壁が服を着ながら言った。
腋毛を見せたはいいが、悲しいことに進展はないようだ。
「リアルでの活動は封じられたから、あとはネットでリツイート稼いで署名とか……」
苦しそうだ。委員長的なアイデアが限界を迎えている。
なら、俺がやるしかないな。
「俺に考えがある」
「一応聞くけど、なに?」
またしょーもないネタやると思われてんな。
だが構わん。跳ね返してやる。
「草壁、腋毛は自由のための戦いだと言ったな?」
「言ったけど」
俺は戦うために、立ち上がる。
「なにしてるの?」
扉の前に立つ。ノブに手を当てる。ガコガコ、開かない。鍵が閉まってるからだ。
なら、開ければいい。
ポケットから金属を取り出して、突き刺す。
カチ…カチカチ……。
「ピッキングかい ……同じネタは面白くないよ」
辛辣な意見が降りかかる。
それでも俺は握った拳を緩めず、手首を回す。
「……ふぅ」
息を吐く。
ドアノブを掴む。そしてゆっくりと回す。
扉がーー
カチャッ
気持ちいい音。ノブが勢いよく回る。
ギィっと軋む音共に、開いた。
空が見える。光が差し込む。風が流れてくる。
屋上が、そこにあった。
「「えっ!?」」
驚く二人。その声がシンクロしている。
「ど、どうして?」
身を乗り出す草壁に、俺は金属を見せる。
それは安全ピンなどではない。
屋上への、鍵だ。
「な、なぜそれを持ってるんだい!?」
「職員室から取ってきた」
「ええっ!? いつ!?」
「呼び出されて怒られ終わった時だ。教師の数は少なかったし先輩に視線が集中してたから、簡単だった」
「だ、だからって取ってくる!? バレたらどうなるか……」
「まあなんとかなるだろ、たぶん」
「いや、そうでもないと思うけど」
「普通に窃盗なんじゃ」
あれ、引かれてる?
「あんまり言われると不安になるからやめてくれ」
「えーっと近くの刑務所の電話番号は」
「直接収監しようとすんな。まずは俺を讃えろ!」
俺は扉の先、外、夕日が彩る屋上を指差す。
「開かない扉は、開ければいいんだ!」
俺の決め台詞に対して、沈黙が流れる。草壁と伊達先輩が急な展開を咀嚼し、飲み込んでいる時間だ。
「……たしかに、自由を手に入れるための戦いって、そういうものかもしれないね。ボクたちは無意識に諦めていたんだ。最もシンプルな戦う方法を」
先輩がぽつりと、悟ったようなことを言った。俺も便乗させてもらおう。
「生徒の感情に訴えるとか教師の説得とか、完璧で正しいやり方ではあると思う。でも草壁、お前はそういうのから逃れようとしてたんじゃないか?」
「それは……」
言葉に詰まっている。俺の行動は無茶苦茶だが、だからこそ草壁には刺さるものがあったのだろう。
「戦うといいつつ許可を求めてる。それでは結果は得られない。自由にはなれない。自由を得るためなんだから、自由な行動でいいんだ」
俺の言葉に、草壁はため息を飲み込んで、言った。
「……わかった。行こう」
三人で、開け放たれた扉の前に立つ。
伊達先輩が一歩を踏み出した。
草壁と俺も続く。
夕日に染まる赤い空、それが俺たちを迎える。空気の流れがある。壁に囲まれていない。近くの街から遠くの山まで、どこまでも見える。
そこは紛れもなく、屋上だった。
「屋上、いざ来ると、なにをやればいいかわからないね」
先輩が言う。その声は少し震えている。興奮を隠しきれない、その様子がありありと伝わってくる。
端に行ってみる。金網でできた小さいフェンスがあった。さすがにいきなり落ちるということはなくてよかった。
見下ろすと、帰宅する生徒たちがいた。上から見ると新鮮だ。個人はバラバラでも、校門に向かって集団になっている。俺の隣に伊達先輩が来て、同じように生徒たちを眺めて口を開いた。
「まるで学園から流れ出す排泄物みたいだね」
「校門と肛門がかかってるわけですか」
「憧れの屋上に来て最初にする会話としてひどすぎる」
後ろで草壁がつっこみをいれてる。その声も風に流れていく。
「草壁はやりたいことあるのか?」
「ある」
草壁は自信満々に言った。
「無藤、腋毛契約をしよう」
こいつが一番まともじゃなかった。
「腋毛……契約? なんだいそれは?」
訝しげに言う先輩、ちょうどいいスパイスだ。
「よし、先輩にも見せるか。今日は観客ありの公開収録だ」
草壁は頷いて服を脱ぎ出す。上半身が下着だけになる。本気モードだ。学校の上で、草壁は、腋を露出する。屋上の風で揺れる腋毛。それを触って、指でつまむ。
「ちょ、ちょっと……う、うわぁ……」
隣で先輩が、声を上げている。見てはいけないものを見ている、まさにそんな気分なのだろう。同時に、草壁の興奮が増しているのがわかる。
「あなたの言う通りだった……はぁ……私はまだ、殻を破れていなかった。真面目さが染み付いていた……ふぅ……だからこれは、その戒めとしての、一本……んっ……はい」
指で毛を摘んで、抜いた腋毛を渡してくる。屋上制服記念だ。俺はそれを受け取る。
腋毛契約が、完了した。




