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完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第二章 伊達と不自由な空
13/40

第五話 ここでタイマーストップです

 翌日の放課後。廊下で三人集合する。

 草壁が鞄から、紙の束を取り出した。


「家でコピーしてきました」

 ポスターだ。表面がカラーで、デザインは昨日の案がそのまま現実になっている。


「すごいじゃないか! 草壁君、素晴らしいよ! ボク、何かを作ったの初めてだ!」

 手に取った伊達先輩のテンションが上がっている。ほっこりする反応だ。

 昨日は文句行っていたが、気持ちはわかる。確かに実際に紙に印刷されると、達成感が湧く。


「後はこれを貼るだけです」

 ざっと三十枚あるようだ。校内の掲示板を貼るには十分な数だ。


「じゃあ一人十枚で分担するか」

「え、みんなで一緒に貼るんじゃないのかい?」

 先輩から思わぬ異論が出る。


「効率もあるしバレると面倒なので」

「ああ、ま、そうだね」

「階ごとに分けますか」

「じゃあボクは一階を担当するよ」

 一階、一年がいるところだ。


「いや先輩は三年のところをやってくださいよ」

「ほら、同級生に見られると逆に面倒だろう?」

 一理あるといえばあるが……


「先輩、ビビってます?」

「え? い、いやそんなことはないよ。それじゃあさっさと貼ろうじゃないか」

 それぞれに分かれる。俺は二階の担当になった。

 

 ポスター貼り、初めてのことだ。どこに貼るか、掲示板の場所、位置を見極めて、画鋲を押し込む。そういう作業。

 やってみる。片手でポスターを抑えて画鋲を構える。刺そうとするが、力の分散がうまくいかず、ポスターが角を支点にクルッと回る。かといって中心を抑えると角がピラってなる。苦戦した後、先にポスターに画鋲を刺してから貼ればいいと気づく。しかしそれだと画鋲付きポスター自体を摘むのに指の力が必要で……


 めんどくせえ!!!


 もうここに十枚貼ろう。立体的で目立つしな。うん。カレンダーみたいで良いな。ポスター貼りRTA完了。any%。

 

 他の様子でも見に行くか。草壁は無難にこなすだろう。気になるのはもう一人。

 俺は一階に降りる。伊達先輩がいた。掲示板の前でキョロキョロと周囲の様子を伺っている。


「ふーんなるほどねえ」

 一人でポスターを見て呟いている。


「これは興味深いねえ……よし、誰もいないか」

 ポスターに興味あるフリして掲示板の前に自然にいる風を装っていた。なんでも鑑定団のおっさんみたいにじろじろ見て、人が通る度に、あー先生に頼まれたんだよなとか言い訳めいた独り言を言っている。情けないとはこのこと。

 そして一個一個画鋲を押してはは逃げるヒットアンドアウェイを繰り返していた。

 見てられないので集合場所に移動する。校門の前。

 すぐに草壁が来て、その後しばらくして伊達先輩が来た。


「遅れてすまない。最善の位置を見極めるのに時間がかかってしまってね」

 聞いてないのに言い訳していた。まあいい。


「明日の反応が楽しみです」

 草壁が言った。確かに。なんかやった高揚感はあった。


 ★

 

 翌朝。俺は教室でぼーっとするふりをして、クラスメイトの会話に耳を澄ませる。


「なあ、ポスター見たか?」「ああ、なんだろうなあれ」

 少しだけ話題になっているようだ。よしよし。


「屋上? なに言いたいんだろ。ちょっと不思議だよね」「てだってなんだろう」

 うーん自分の作品が噂されるのめっちゃ気持ちいいな。よし、直接聞いてみよう。


「おい三田、あのポスターどう思った?」


「ポスター? なんだそれ。掲示板とかそんなんいちいち見ないだろ……いてっ!」

 三田を蹴っ飛ばして、俺は再び聞き耳を立ててその日は過ごした。


 ★


 そして放課後、いつものメンバーで廊下で待ち合わせる。


「ちょっと快感だね」

 伊達先輩も喜んでいる。おそらく俺と同じようなことをしていたのだろう。


「とりあえずこれで印象付けはできたな」

「有名人になった気分だね」

「まだ足りません」

 喜びの最中、草壁が冷静な声で言う。


「気付いてない人もいるし屋上解放にはほど遠い。ここでたたみかけるのが重要。第二の案を考えましょう」


「このポスターを見ろってポスターでも作るか」

「二度手間でしかない」

「別の案か……そうだね、現代の選挙は、情報戦だよ」

 伊達先輩はそれっぽいことを言い出した。


「だからラインで五人以上に回さないと不幸になる文面を流すとかはどうだい?」

 情報戦なのに発想が古いな……。


「ちなみに先輩、ラインの友達は何人いるんですか?」

「え、それは……」

 口籠もってるので、俺は優しい声で言う。


「ちなみに俺は両親の二人だけです」

「……ボクもそうだ」

「不幸のメールで製作者が初手で不幸になることあるんですか?」

 傷ついただけの案だった。


「とりあえず扉を爆破するとかでいいんじゃないか?」

「無難そうに非常識なこと言い出さないで」

 相変わらず決まる気配がない。伊達先輩も俺も、決めたくないというオーラをむんむんに出している。


「仕方ない。私がやる」

 っぱ草壁よ。

「案はある。クラスでの私の力を活かし、思想を世に広める王道の方法」

 決意に満ちた雰囲気で、草壁は言った。


「演説」


 ★


 昼休み、授業から解放された束の間の平和。みんなが各々のグループに分かれて昼食を食べようとする。

 その時だった。


「みんな聞いて」


 草壁が教壇に立っていた。クラス中の視線が集まるのを確認して、全体に聞こえる声量で話し始める。まさに演説だ。


「最近、屋上は自由と主張する妙なポスターが貼られている」

 あああれか、みたいな声が上がる。やはりある程度は認識されてるようで嬉しい。


「誰が作ったのかはわからないが、良いことを言ってると私は思う」

 他人が書いた感じにして褒めてる。姑息な戦法だ。


「く、草壁さんは賛成なんですか?」

 おどおどした敬語が飛ぶ。副委員長の等々力だ。こんな人いたな。なんか懐かしい。


「ええ。屋上という場所の危険性もあるだろう。しかし私たちが正しい使い方をすれば問題ない。社会とは安全と危険のバランス。それを学ぶ機会でもある。楽しそうと思う」

 草壁の声が、生徒たちに届く。


「いいじゃん」「なんか憧れるよね」

 ぽつぽつと同意の声があがる。


 俺の隣にいる三田も、ぼそっと呟いた。

「俺も屋上で草壁さんとイチャイチャしてえなあ」

 ポスター見てないのにポスター通りの願望を抱いてる。すげえ。


「いや、別になあ」「屋上とか急に言われても」「めんどいし」

 しかし同時に困惑の声もあった。この反応も自然だろう。それに向かって俺は言う。


「自由とか、なんか口当たりのいい言葉が使われてる気がするよな」


「あなたがそっち側なのはおかしい」

 壇上からつっこんでくんな。


「みんな、考えてみてほしい。以上」

 最後はみんなに委ねて、草壁は壇上を降りて行った。そしてそのまま教室を出る。俺も追って廊下に行くと、伊達先輩がいた。聞いていたようだ。


「すごいじゃないか、草壁君、演説の才能あるよ」

「ありがとうございます」

 草壁は礼をして、俺を睨む。


「なんかアンチがいたけど」

「演説の常套手段だ。あえて反対意見を言って潰させるみたいな」

「本当なら一理あるけど、連携が取れないから普通に邪魔だった」

 ごめんなさい。


「しかし俺たち、ついに正体を明かしたな」

 この演説、ぶっちゃけ、ポスターは草壁が作ったと言ってるようなものだ。


「バレても問題ない。信念でやってるから」

 草壁は堂々としている。かっけえ。


「まあそんなすぐにはバレることはないと思うけどね」

 伊達先輩は気楽そうに笑った。


 ピンポンパンポーン

 放送音が鳴った。

 つい気を引かれるが大概どうでもいい内容だ。無視して……


「三年の伊達、一年の草壁、無藤。放課後、職員室に来なさい」

 はいバレました。


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