9 化学物質が五臓六腑へと浸透し、神経系を通じて脳に奏でる、素晴らしき協奏
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――ここで、時は少し前後しつつ、場面は変わる。
薄暗い、地下室とおぼしき空間。
煉瓦造りに、西洋とオールド朝鮮様式の折衷の空間は、上質にして気品の溢れる空間であり、上流階級が賓客を招いてパーティをするにも、申し分はないと思われるほどでもある。
ただ、そのような空間の中にいて、
――ゴゴゴ……
と、おぞましくも存在感を放つのは、アールヌーボー風の椅子、と――
“それ”に、まるで拘束されたように座る――、いや、実際に、拘束されている“客人”の姿。
そして、その客人とされた男こそ、美形のビジュアルにして屈強な元格闘家の実業家インフルエンサー、先ほど話題にあがった、ドラコンであった。
「……う”、う”ぅ”――! ぐぅ”ぅ”ぅ”ー!!」
猿轡のようなものを口にはめられたドラコンだが、恐怖に萎縮したようになりながらも、何か痛みに――耐え難い激痛に呻いていた。
強張ったように震え、涙が駄々漏れる彼の表情には、先日の――『ボコボコに返り討ちにしてやる』との威勢は、もはやどこにもなかった。
そう、である――
心底の恐怖と、耐え難い苦痛を――、いや、激痛を、いま現在味わっている最中だった。
それは胃の、潰瘍であったり、魚介からのアニサキス症などは比ではない!!
のたうち回っても足りないほどの、“内”から来る激痛――!!
恐らく、口内も、喉も、食道も胃も、不可逆的にズタボロになるほどの損傷――!!
医療行為を尽くしたとしても、回復するのは絶望で、この苦痛から逃れるには、いわゆる、命を絶つより他にない。
ただ、“それ”も残念なことに、この椅子の拘束によって叶うことがない。
また、ショック死することもないよう、気を失うこともないように、薬剤を投与されているという入念ぶりでもある。
そんな、精神も修復可能に折れ、絶望するドラコンのもとへ、
――カツーン……カツーン……
と、足音を響かせながら、数人の人影が現れる。
朝鮮帽子を被った、執事のような雰囲気の者たち。
その真ん中には、主人――、主催者と思しき影の者が。
主人なる者は、そのまま、ドラコンの前に来る。
そうして、まずは、執事の者たちから、
「――どうぞ、こちら、ベリーティーとヤマカガシの毒液のブレンド茶でございます」
と、告げられ、茶器と茶碗を受け取る。
そのまま、主人なる者は、飾らぬも優雅な佇まいにて、茶を淹れる。
次に、
――フ、ァァ……
と、漂う香りの中、呻いて藻掻く客人を前に、試飲を行う。
――ズズッ……
と、“茶”が、喉をとおる。
春のさわやかさを感じるストロベリーの香りが、五感と――、そして、化学物質が五臓六腑へと浸透し、神経系を通じて脳に奏でる、素晴らしき協奏――
まこと、結構な御茶である。
その傍らから、
「う”っ!? う”、う”、う”う”ぅ”ぅ”ぅッー!!!」
と、もはや声帯が完全に破壊された男の悲鳴が聞こえながらも、
「……」
と、主人なる者は、ただ静かにして動じることのない。
その、これから客人に茶をふるまわんとする佇まい、所作は、穏やかにして美しいものであった。




