66 理科室にある細っちいスタンド棒
「……まあ、いいでしょう。もう一度、貴女には、ギンピギンピ茶か濃硫酸でも飲ませて差し上げる」
令嬢Ⅹが、怒気交じりの、張りついた笑顔で言い、
「あっ、それ、たぶん私にはもう効かない。はい、残念でしたー」
と、パク・ソユンが答えて煽る。
「さっきから、おちょくってくれますねッ――! いいですわ……! この鞭で、存分に仕置きしてあげましょう!!」
令嬢Ⅹがキレつつ、大型の鞭を取り出して構える。
「そ、ソユン!!」
キム・テヤンが慌て加勢しようとするも、その瞬間、
――キィンッ!!
と、空間を電光石火のごとく!!
切り裂く刃の横やりが入る!
「ちッ――!?」
「フッ――! 貴方の御相手はこの私ですよ!」
と、キム・テヤンを強襲したのは、細目の大男の従者だった。
その巨躯に似合わず、元スパイかつ暗殺集団の末裔ゆえか、確実に相手を仕留める攻撃の凄まじいスピードと精密さ!!
さらに、
「ハッ――!」
と、テコンドーの要領か!! 両手足、そして予測不能に繰り出される後ろ蹴り!!
それら、手足にナイフを仕込んで行われる連撃が、キム・テヤンを正確に殺傷せんと襲い掛かる!!
「くっ!!」
ただ、キム・テヤンも軍の情報部時代の経歴ゆえか、高い戦闘能力を以って応戦する。
だが、その防戦の中、回避しようと後ろに跳躍しようとした瞬間、
「ッ――!?」
と、キム・テヤンは“何か”に気がつくや、瞬時に身体を捻る!
その同時、
――スパッ!
と、軽く、“何か切り裂くもの”がキム・テヤンを掠めた。
「ちっ……」
キム・テヤンは舌打ちし、傷口からの血を拭いながら、ピアノ線のように張られた“何か”の存在を確認した。
「(くそっ……! こいつぁ、うっかり動けんな――)」
それは、細目男の従者と連携するように、女従者が先回りで瞬時に仕込んだものであり、さらに、
――ヒュッ!!
と、その女従者も、直前まで一切の気配を出さぬ動作で暗器を放って襲いかかる!!
そんな、強力な従者ら二人の攻撃を受けながらも、
「クソったれが!! てめぇら何かにやられるかぁッ!!」
と、キム・テヤンがさらに覚醒するがごとく応戦する!!
ただ、そのままの二対一で防戦するだけでは厳しく、
「おい、スタイル! フラワーマン! 少しは何か手伝えってんだよ! お前たち!!」
と、今さらそんな設定あったねとつっこみたくなるコードネームで、カン・ロウンとドン・ヨンファの二人に呼びかける。
「ああ、スマンな! チジミ屋のオヤジ!」
そう答え、そのスタイルことカン・ロウンはパチン――! と指を鳴らし、いつもの異能力を――、“局所的世界操作術『カンナム』”を発動する。
――タッ、タッ、タッタカ――♪ タッ、タッ、タッタカ――♪
と、細目と女以外の他の従者たちが踊りながら、雪崩れるように、彼ら二人を邪魔しにかかる。
「おい! お前たち! 何を邪魔してるんだ!!」
「そうよ! 同じ術に何度かかるのよ!」
と、二人は怒鳴り、叱りつけるも、
「す、すみません! し、しかし! そうは言っても!」
「か、身体が勝手に!?」
と、部下の従者らではどうすることもなく、慌てふためく。
また、
「それに、何!? この植物!?」
「ええいッ! 邪魔くさい植物めッ!!」
と、ドン・ヨンファの操る“植物”も彼ら二人を妨害する。
そうしてできた隙に、
「もらったぜ! 細目野郎!!」
と、キム・テヤンは細目従者に蹴りを見舞う!!
「ぐぬっ――!?」
細目男は手で払い、直撃は避けつつも喰らってしまい、後方へと飛ばされる!!
いっぽう、その間にも、パク・ソユンも令嬢Xと、激しく戦闘していた。
――ブン! ブン――!!
と、令嬢Ⅹが振るう鞭――!!
その速さは二刀流メジャー選手の打球速はもちろん、新幹線よりも遥かに高速の、音速を超えるほどとも思える超高速!!
当然、その速さと同様、破壊力も凄まじいものである!!
「ほらほらァッ!! 避けて避けてッ!! ソユンッ――!!!」
令嬢Ⅹが今までとは明らかに異質の、狂気を全開にさせて笑いながら、パク・ソユンを責める!!
そのパク・ソユンだが、
「……」
と、ジトッとした目は変わらぬまま、何とか攻撃を見切り、かわしつづける!
ただ、それでは後手の一方であり、
「喰らうと、とぉーっても痛いわよォォッ!!!」
と、令嬢Ⅹが一撃を放つや、
――ビシィッ……!!!
と、僅かにだが、パク・ソユンを掠めてしまう。
「くっ――!!」
パク・ソユンは何とか回避しつつも、確認する。
もし少しズレていれば、触れただけで、良くて骨折か。
それよりも、まともに喰らってしまえば、その部位周辺!! 肉・骨・血が!! まるで高速鉄道事故のように粉砕四散されかねないであろう!!
そんな、他の多くの人間であれば恐怖を感じかねない中にも、
「……」
と、パク・ソユンは冷静にして、動じることなく佇んでいた。
――とは言え、そのパク・ソユンは思う。
何とか、“アイツ”の鞭の攻撃は見切れているけど……、回避に失敗すれば、腕など、簡単に吹き飛んでしまう、か――
そうなると、今度は吹き飛んだ腕を治してくれという話になり、“タヌキのヤツ”が「激おこプンプン」などとブチ切れるだろう。
いくら、あんなタヌキだとはいえ、さすがに、そこは怒るのは無理ない話だ。
そうする、と――
「何としても、あの鞭をかわすしかない、か――」
と、パク・ソユンは開眼するように、目をキリッと見開き、令嬢Xに立ちはだかるように立つ。
「これだけの鞭の威力を見ても、貴女は、なかなか動じることないですね……」
令嬢Xが、静かな目で言った。
そして、令嬢Xは再びゆるりと動き出しつつ、
「――まあ!! そこだけは褒めてあげるわ、ソユンッ!! でも、次は避けれるかしら!!」
と、流れるように優雅に!!
しかし激しく、鞭を乱れ撃たんとす!!
その、音速をも超える連撃を、
「――!」
と、パク・ソユンは見切る!!
それは、この世と歴史上に存在したどの武道家・格闘家をも凌駕するレベルのものであり!! 攻撃を見切った同時の刹那――!!
「フンヌッ――!!」
と、あろうことか!!
何と、理科室にある細っちいスタンド棒などを異能力で具現化し!! 以って特殊流派の剣豪のごとく身のこなしで低く屈み、令嬢Ⅹに足駄木を喰らわしたではないか!!
「がっ!? ああ”あ”ぁぁ!!!!」
令嬢Ⅹの叫び声が響く。
その強打を受けた両足は変形し、骨折していたのだ!!
常人であれば、もうそこで動けなくなり、地面に転がって蠢くしかないのだろう!!
だが、しかし、
「ぐっ……、やって、くれますね……。――でも! 私にとっては、“痛み”が快楽だってこと忘れちゃったのぉッ!」
再び、痛みに増強された令嬢Ⅹが鞭を振るう!!
その一撃を、パク・ソユンはかわして壁面に当たると、
――ヒュッ……! ドォーン!!!!!
と、轟音を立てたその凄まじい威力・破壊力は、今度は戦艦の中型砲にも匹敵せんとする!!
同時に、その爆音と衝撃破が場にいる全員を襲う。
「ぐぅぅッ!?」
「ご、御主人様、手加減を!!」
と、従者の者ですら、たまらず、
「おい! うるせぇぞ!!」
「ああ! まった、うるさいわね!! 鼓膜が破裂するじゃない!!」
と、キム・テヤンとパク・ソユンが、キレ気味に怒鳴る。
そんな、底の知れない令嬢Ⅹに、状況はまた膠着しようとした、その時、
「――でも、かえってチャンスかもしれません、御主人様」
と、再び、細目の男を筆頭に従者らは迅速にして動いた。
意を決した細目に、以心伝心するかのごとく、
「御主人様、今です! どうぞ、私たちごと!!」
「ええ! 御役に立てさえすれば、本望でございます!」
と、従者らは捨て身で、キム・テヤンやカン・ロウンたちへと襲いかかる。
「うわっ!? や、やめろ!!」
「おい!! 仲間ごと吹き飛ばす気か!?」
ドン・ヨンファとキム・テヤンが動揺して叫ぶように、あろうことか!! 従者らはまさに言葉どおりの捨て身となり、自分たちごと巻き添えで攻撃させるための瞬の隙を作らんとする!!
そんな、従者らの死を覚悟した奉仕によってできる機会を、令嬢Ⅹも逃すことはなく、
「さあ、もう一度いくわよッ!! ソユン!! 貴女の仲間ごと吹き飛ばしてあげるわぁッ!!!」
と、振りかぶる鞭が!! さらに激しくパク・ソユンやカン・ロウンたちを襲いにかかる!!
「くっ――!!」
パク・ソユンは再び回避を!! 否!! 回避するだけではカン・ロウンたちは無事では済まず、その鞭の破壊に、相打ちすることも覚悟する!!
その刹那!!
――パ、シィッ……
と、気の抜ける音ともに、“何か”が鞭を受け止めていた。
「……へ?」
まさに、鞭に最前列で立ち向かおうとしていたパク・ソユンと、
「ああ”……?」
と、その後ろの、キム・テヤンもキョトンとしていた。
「――な、に……?」
と、令嬢Ⅹが鞭を振るった手を下ろしながら、ゆるり……と、鞭を止めた主の姿を確認した、その先――
――フニャリ……
と、何ということか……?
そこにあったのは、チジミを盾にしたエロ女医姿のタヌキもとい、妖狐の神楽坂文の姿だった。
春眠暁を覚えずのごとく、すっごい眠い、今日このごろ。
◆◆ 妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズの過去作の紹介(むしろ、こちらを読んでほしい)
・00巻 重慶の幽鬼
・01巻 スタンボロバンの棍棒
・02巻 白色の考察
・03巻 白の衒奇的介入
◆◆ 年間予定タイトル
・1月 ※今やってる03巻目の『白の〜』を終わらす
・2月 ※途中の04巻目『激痛茶館』を終わらす
・3月 ※途中の05巻目『砂丘の〜』を終わらす
・4月 鬼灯橙子シリーズ『西行阻止』
・5月 『黄色い壁』
・6月 『あるパノラマ島のトランス奇譚』
・7月 『散在神経系は不老不死の夢を観るか』
・8月 鬼灯シリーズ『残留エーテル』
・9月 『メキシコからの変な依頼』
・10月 未定タイトル
・11月 未定タイトル
・12月 冷たい結晶華




