50 “痛覚”こそが、至高の感覚――
「がっ……!! 痛ッ……!!」
と、しかしながら、そんな尋常でない苦痛にも、パク・ソユンは歯を食いしばりながらも、耐えてみせる。
その様子を見て、主人は言う。
「フフッ……♪ さすが、やはり、貴女は素晴らしいですね……。パク・ソユン様、先ほどは、貴女を礼儀知らずと罵ってしまいましたが、申し訳ありませんでした――」
朗らかそうに話す主人の声と、対照的に、
「ハァ……、ハァ……! う”ぅ”っ……!!」
と、パク・ソユンは苦しそうに喘ぎつつ、苦痛を耐えて呻く。
ギンピギンピの神経毒と、フッ酸の浸透が、パク・ソユンの身体を内側から犯し続ける。
さらに、
「――さあ、続いてですね、パク・ソユン様……、茶会というからには、素敵な茶菓子も、御用意しております」
と、主人が言い、従者が持って来る。
「……」
脂汗を滲ませながら、パク・ソユンは“それ”を見る。
一見すると、春をイメージしたスィーツのようでだが……、何か、キラキラした細かいものが混ぜられているようにも見えた。
それは、デコレーション用の砂糖などではなく、もっと、冷たく無機質に光るようなもの――
すなわち、鋭利なガラス片だった。
「どうぞ――、お召し上がりくださいませ♪」
主人の者が言い、それに合わせて、再び従者の者が口元へと持って行く。
「ぐっ……! あ、頭、……イカれてんじゃ、ない、の!」
苦痛を堪えながらも、パク・ソユンは主人の者に、強い敵意の視線を向ける。
そんなパク・ソユンに、主人の者が嗤うかのように言う。
「フフッ……♪ 抵抗したら――、口に入れなければ、貴女の御友人がどうなるか――? お分かりですよね?」
その言葉に合わせて、従者の者がパク・ソユンの口を開かせ、悍ましいスィーツを無理やりに喰わせる。
「あ、あ”ぁ”っ――!!」
パク・ソユンが、再び苦痛に声をあげる。
多数のガラスが、口内、喉、そして胃に突き刺さる機械的な痛みが――
すでにギンピギンピやフッ酸の激痛を耐えるパク・ソユンに追い打ちをかける。
そんなパク・ソユンを、
「……」
と、主人が観察する。
苦痛に耐えきれず、ショック死など、絶命してしまわないか――
そうなる恐れのある場合には、未然に、薬物を投入す必要があるからだが、
(まあ、このパク・ソユンであれば――、しばらくは、“薬”など必要、なさそうか……)
と、主人が観察したところ、その薬物の出番はしばらく無さそうであった。
「ああ”っ……!! ハァ……、ハァ……!!」
パク・ソユンは呻き、苦しそうにしながらも痛みに耐え続ける。
発狂することも、精神が衰弱して助けを懇願することもなく、ただ、何とか己を保つ。
だがしかし、
(痛みに耐久できたとしても……、ああ、ちょっと、さすがにマズいか……? 内臓が、不可逆的にダメージ受けすぎだわ……)
と、パク・ソユンは、恐らくは自分が絶望的な状態になっているだろうことを確認する。
いくら、異能力と身体損傷への耐久性があるからといっても、イモガイの神経毒やら、ギンピギンピ……、さらにはフッ酸やガラスの破片で直接内臓に損傷を与えられるなど、と――
さすがに、ダメージを受けすぎなのは間違いない。
そんなパク・ソユンに、主人が、再び近づいた。
主人は、支配するかのようにパク・ソユンの顎に手を添える。
「――さて、パク・ソユン様……、当会メインの御茶、ギンピギンピとフッ酸のブレンド茶はいかがでしょうか? 疼痛、激痛をもたらすものとしては、最高級のものを、御用意できたことと存じ上げます♪」
「ぐっ……!!」
と、話す主人に、パク・ソユンは抵抗しようとしつつ、再度「頭イカレてんじゃないの!?」と、罵声を飛ばしたくなる。
そんな中、
「“痛覚”こそが、至高の感覚――」
「は、ぁ……?」
と、顔をしかめてポカンとするパク・ソユンに、主人は説く。
「――痛みがあるからこそ……、いえ、“痛み”にこそ、私たちは生きている感覚を、生の喜びを感じるのです……! それを! 私は、茶会という高尚な文化的行為として高めたいという願望がありましてね! こうして、茶会を催させていただいている次第でございますのッ――!!」
「うぐっ――!?」
と、主人は語気を強めつつ、思わずパク・ソユンの首をグッ――! と絞める。
「――ですが、他の客人の、何と文化や風流への理解のないこと!! あの下郎らはいつもいつも! 早々に助けを請うか、狂うか、情けないことに粗相し、垂れ流して屍になるか――、会を主催する私に、失礼だと思いませんことッ!!」
「ぐぅッ――!!」
パク・ソユンは、抵抗しつつも、
「(ほんと、頭イカレてるし――!)」
と、内心を声にしたくなる。
そうしていると、
「その、痛覚の饗宴を……、パク・ソユン様――、貴女ほどの人なら愉しんでいただけると思いましてね……」
主人の言葉が、情動的に静まるとともに、
「がはっ――!? ハァ、ハァ……!!」
と、首を締める手から解放され、パク・ソユンは咳きこみ、苦しそうに喘ぐ。
そんなパク・ソユンに、主人の者は続ける。
「さあ、続きを、愉しみましょう♪ パク・ソユン様――」
「ハァ……、ハァ……!」
虚ろな目で、パク・ソユンが見る先、
「まだ、貴女に愉しんで頂きたい茶に、菓子も御用意しておりま――」
と、主人がそこまで言いかけた、その時、
――タッ、タタッ……
と、靴が――
何か、ステップを踏もうとするような音が、忽然に響いた。
「――?」
主人の者が、ピクリ――と、反応しているように見え、
「……?」
と、同じように、パク・ソユンも反応した。
すると、
――タッ、タッ、タッタカ――♪ タッ、タッ、タッタカ――♪
と、従者の者は、先ほどまで従順だった姿はどこへやら?
勝手気ままに、しかしながら、“誰か別の者”に指示されるかのごとくーー、コミカルなステップで踊り出したではないか!
「ご、ご主人様!? こ、これは――、か、身体が勝手にッ!!」
弁解しようとする従者の一人と、
「ちっ――!!」
と、細目の従者の大男が舌打ちするとともに、
――パチンッ……!!
と、指を鳴らして、謎の術を“解術”した。
しかし、その同時、
――ゴッ! シャァァン……!!!
と、けたたましい音とともに、突如として分厚いドアが蹴破られる!!
「……」
と、主人の者が、穏やかでない様子で振り向いた、その先――
「――カ~チコミで~、すよ~♪」
との、ふざけた声とともに、何故か女医姿の――
やや開けた白衣に、黒のガーターベルトという“エロ女医”スタイルのドラえもんみたいなナニカこと、妖狐の神楽坂文の姿があっま。
続けて、
「おい、大丈夫か!?」
「そ、ソユン!!」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファが叫びながらドタバタと入ってくるとともに、SPY探偵団リーダーのカン・ロウンと、マー・ドンゴンとチャク・シウの刑事コンビも姿を見せた。
ザワクラ(ザワークラウト)を作ってますが、やっぱ寒いので発酵が遅い。
◆◆ 妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズの過去作の紹介(むしろ、こちらを読んでほしい)
・00巻 重慶の幽鬼
・01巻 スタンボロバンの棍棒
・02巻 白色の考察
・03巻 白の衒奇的介入
◆◆ 年間予定タイトル
・1月 ※今やってる03巻目の『白の〜』を終わらす
・2月 ※途中の04巻目『激痛茶館』を終わらす
・3月 ※途中の05巻目『砂丘の〜』を終わらす
・4月 鬼灯橙子シリーズ『西行阻止』
・5月 『黄色い壁』
・6月 『あるパノラマ島のトランス奇譚』
・7月 『散在神経系は不老不死の夢を観るか』
・8月 鬼灯シリーズ『残留エーテル』
・9月 『メキシコからの変な依頼』
・10月 未定タイトル
・11月 未定タイトル
・12月 冷たい結晶華




