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激痛茶館  作者: 石田ヨネ
第一章 奇妙な案件の発端
5/71

5 呑気にチジミを食い、ジンロで喉に流しつつ



          (4)



「――お、おい! 何でそんなこと黙ってたんだ! ソユン!」


 と、夜の屋台街に、チヂミ屋のオヤジことキム・テヤンの声が響いた。

 また、

「そうだよ。何で、そんな重要なこと、先に言わなかったんだい? もしかして、僕たちを気遣ってくれてたのかい? ソユン」

 と、キノコ頭にピンクと黄色スーツのドン・ヨンファも続いた。

「いや……、私、アンタたちに、1ミリグラムも気遣う心無いんだけど……」

 スプラッタもの好きの女、“ジグソウ・プリンセス”ことパク・ソユンが、呑気にチジミを食い、ジンロで喉に流しつつ答える。

「けっ……、悪かったな、1ミリグラムの価値もない男どもでよ」

 キム・テヤンが、面白くない顔で舌打ちした。

「――まあ、そういうわけで……、特別な意味なんてないわよ。ほんとに、ただ忘れてただけよ」

「忘れてたってよぅ……」

 改めて言ったパク・ソユンに、キム・テヤンが呆れ気味になったところ、

「まあ、ソユンがそう言うからには、本当に忘れてたんだろうな」

 と、カン・ロウンも加わってきた。

「――そうよ。ああ……! ここ来る前に、ちょっとポーカーしに行っててさ……。それで、忘れちゃったんだ」

 パク・ソユンは思い出したように言った。

 このパク・ソユンだが、すっかり競技人口が増えて久しい“ポーカー”――テキサスホールデム・ポーカーを趣味の一つとしており、ソウルの競技ポーカールームに出入りしていた。

「けっ……、何が忘れちゃっただ」

 と、再び舌打するキム・テヤン。

 そこへ、

「ところで、その招待状を見せてくれないか? ソユン」

 と、カン・ロウンが頼んできた。

「ああ、そうだ。肝心の、“そいつ”を見せてくれよ、おぅ」

「はい、どーぞ」

 と、キム・テヤンも頼むと同時、パク・ソユンは酒のつまみの並んで多少汚れた卓の上に、スッ――と、カードをショウするように置いてみせた。

「こ、これは……!」

「……」

 顔をしかめるキム・テヤンと、丸サングラス越しに沈黙するカン・ロウンの観る先――

 置かれた招待状には、やはり――、何か、神経系と、化学物質と思しき、趣味の悪いイラストが添えられていたが……

 その内容は、おおよそ次の通りだった――


〈麗らかな春のころ、貴殿、パク・ソユン様を当茶館の茶会に御招待します。  

 数日内に御迎えに上がりますので、準備を整え、楽しみにして御待ちくださいませ。

 なお、当招待を断るという選択肢は、貴殿には一切ございませんこと、どうぞ御了承くださいませ。

 心躍る春の陽気と、痛覚の饗宴を~~〉 


 ――と、以上。

「――“断る”という選択肢は、一切ございません……、か……。確かに、およそ、普通の招待状の文言ではないな」

 と、カン・ロウンが招待状に目を通しつつ、少々忌々しそうな顔をする。

「ほんと……。何なのね? これ?」

 パク・ソユンも、ケロッとしながらも、心底訳の分からないとの顔で首を傾げる。

 また、そのパク・ソユンは思い出す。

「おかげで、さっきのポーカーでさ、散々な目にあったんだけど……。これって、不吉なの?」

「不吉って、今日はどうだったんだい? トナメ」

 ドン・ヨンファが具体的に聞く。

 パク・ソユンが思い出して話すに、

「――こっちがJJのセットでフルハウス完成の時にはさ、相手88のクワッズが出てきたり……、そこからフリップも、私がKKの時にAAがいたり。――最後はAKsでオールインしたら、相手56oで、5がヒットして飛んだし……、――てか、思い出させないでよ。殴るよ?」

「ちょっ! ご、ごめんって! そんな、掴まなくても……」

 と、胸倉をグイと掴まれつつグーにした拳を構えられ、ドン・ヨンファは慌てるも、

「――嘘よ。殴るわけないじゃん。……まあ、クワッズいた以外は、“あるある”っちゃ、“あるある”だし」

「ふ、ふぅ~……! もう、驚いたよ」

 と、再びケロッと冷静な顔に戻ったパク・ソユンに解放され、思わず深く息を吐いた。

 そうしながらも、

「――はぁ~、あ……」

 と、パク・ソユンは溜め息し、空になったグラスに酒を注ぎ、鮑のつまみに箸をつけた。

 数時間前のポーカーのことをーー

 シャカシャカとチップをシャッフルしながら、澄ました佇まいをみせていたのだが、不運続きに「はっ……?」と、悪態気味に顔をしかめてしまったことを少々引きずりながら、酒を飲む手を進める。

 まあとりあえず、そんなこんなで例の招待状のことなど忘れ、ここに至るわけである。

 また、

「――で、この痛覚の饗宴て……。“もろ”に書いてるあるな」

 カン・ロウンが言った。

「う……、ん――」

 と、パク・ソユンは口の中で鮑と格闘しつつ、酒でかき込みつつ答える。

「――だから、……たぶん、普通にお茶じゃなくてさ、……何か、“激痛をもたらす的な飲み物”を、客人に振舞っているんじゃない? ――って、私は、思うわけ」

「そうすると……、その、招待された客人ってのは……」

 ドン・ヨンファが顔をしかめながら、意味深に、途中まで言いかけた。

 朧気にも、少し思い浮かんでしまった光景――

 どの様式の茶館かは分からぬが、少し薄暗いイメージの中――

 椅子に、“御茶”に、激痛にのたうち回ろうとする客人――

 しかし、“それ”を、作法的にも許すはずもない、主人の――、主催者の影と……

 またそこへ、

「――で、よう? お前? どうする? その、招待状――」

 と、他の接客から戻ってきたのか、キム・テヤンが聞いてきた。

「そ、そうだよ……! ソユン」

 と、ドン・ヨンファも心配そうな顔をする。

「そう、ね――」

 パク・ソユンは答えかけつつ、何か、席から立った。

 そのまま、屋台の調理台のほうへ手を伸ばし、「ちょっと、ちょうだい」と言わんばかりにコチジャンなど辛味の元を取る。

「お、お前……? 何してんだ?」

 怪訝な顔をするキム・テヤンを傍に、パク・ソユンはコップに“それら”を注いでジンロと混ぜ合わせ、手際よくカクテルを作り、

 ――グィッ……、グィッ……

 と、2、3口にして飲み干した。

「「「……?」」」

 皆が、明らかに不審そうな顔で『?』マークを浮かべる中、

「はぁ~……、あ……!」

 と、喉と五臓六腑で“それ”を耐えたのか――、パク・ソユンが大げさな溜め息するとともに、


 ――スッ、コーン……!!


 と、空のグラスが豪快な音を立て、テーブルに置かれた。

 そんな、皆が注目する中、


「――上等よ。受けて、……立つわ」


 と、“ジグソウ・プリンセス”こと、パク・ソユンは顔を上げ、宣言するように言った。

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