46 問題な――いや、大問題か……
「はぁ――!?」
と、その言葉に、パク・ソユンは目を見開いた。
恐らく、それほど勘が良くない人間でも、これからこの茶会の主人らがパク・ソユンに何をしようとしているのかをーー、想像するのは難しくないだろう。
そうだからこそ、当事者のパク・ソユンは一瞬で、これから自分の身に起こることを悟っていた。
すなわちーー
彼らは、自分の手首を“チェーンソーで切り落とす”つもりなのだ!
ただ、こんな狂気じみた状況にもかかわらず、
「……」
と、パク・ソユンは無言のままだったが、その表情は恐怖に錯乱したり怯える者の“それ”とは違った。
むしろ、普段の、若干イライラモードに近いときの“それ”のようにも見える。
――とは言え、
「(った、く……、さっき、の……、“クソみたいなウェルカムドリンク”で、 少々……気持ち、悪いし……、脂汗も、垂れてる、し……)」
と、パク・ソユンは虚脱して朦朧しそうになりながらも、自身の状況・状態を確認する。
先ほどのダメージ。
さらには人質がいるため、“茶会”の主催者たちを容易に攻撃できないという状況。
それに追い打ちをかけるように、
「――本当はと言いますと、……少し、バスタブのような空間を、御用意した方がよかったのですが……」
と、再び主人の者が、意味深な様子で何かを話した。
その言葉に、
「ハ、ァ……、ハァ……」
と、パク・ソユンは呼吸が乱れ、虚ろな目になりながらも、“あること”を思い起こしていた。
少し昔に、日本であった“できこと”――
まあ、ともにアウトローどうしでの出来事。
何かのトラブルから暴力組織の人間が拉致され、バスタブに吊るされ、手首、足首を……、そして、最後に首をチェーンソーもしくは電鋸で切り落として殺害されるという――
凄惨かつ、猟奇的な事件があったのだ。
その際、その被害者の男が屈強だったかどうか分からぬが、アウトローの人間でさえも泣き喚き、助けを懇願したとのことだが……
そんなことを、回想しているうちに、
――ブォォーン……!!
と、チェーンソーの唸る音が間近で響いた!
その刹那――!
「あ”っー……!!」
パク・ソユンは思わず叫びかけた。
肉体に入れられる、チェーンソーの刃!!
神経に、今まで経験したことのない激しくも鋭い信号の波が走る!!
同時に、チェーンソーの方にも抵抗がかかっているのか、
――ブォ、ォ、……ン……!!
と、回転音が少し鈍くなりながらも、しかし確実にパク・ソユンの手首を破壊していく!!
血しぶきに、肉の飛沫――!!
それに混じって、噴煙のように散る骨と――!!
「あ”がっ……!!」
パク・ソユンは再び叫びそうになりながらも、食いしばるように、痛みを押し殺す。
「ハァ……、ハァ……!」
息を荒げつつ、全身から血の気が引いていくのを感じながらも、チェーンソーが手首を落としていった、自分の腕先の方を、チラッ――と見た。
「(やはり……、手首を、切り落とされたーー、か……)」
パク・ソユンは、“その事実”を確認する。
確認しながらも、
「(イカレてると思うが、まだ……、“これくらい”なら、問題な――いや、大問題か……)」
などと、激痛鈍痛に朦朧し、虚脱していく意識の中……
だが同時に、パク・ソユンは確認しようとした――、いや、少なくとも、確認しておかねばならない。
この、顔を隠した“茶会の主催者”が何者なのかーー? を。
そのように、
「ハ、ァ……、ハァ……」
と、パク・ソユンは呼吸か苦しそうに、全身が虚脱し、さらに悪寒に脂汗が垂れながらも、何とか観察しようとしていたところ、
――ドッ、ドッ、ドッ……
と、チェーンソーのエンジン音が止んだ。
同時に、再び、主人の者がパク・ソユンへと寄った。
「さすが……、貴女は、素敵ですね……」
ふと、主人の者がゆるりと上品そうに、ワケの分からぬことを言う。
「……」
と、パク・ソユンは虚ろになりかけながらも、「は、ぁ……?」と言わんばかりの目で、主人の者の――、仮面に覆われた顔をジッ……と睨んだ。
「恐らく……、多くの方が泣き喚めき、粗相をするなどの見苦しい様を晒してしまうでしょう中……、貴女は美しく、こんなにも凛として佇まれています」
そう話す主人の者を、
「ハ、ァ……、ハァ……」
と、パク・ソユンは相変わらず苦しそうな擁しながらも、ジッ……と見つづける。
そして、
「――いかがでしょうか? “痛覚の饗宴”――。そんな貴女だからこそ、きっと、これから始まる茶会を愉しんで頂けるかと――」
と、続けて話す主人の者に、
「は、ぁ……? ただの、頭のイカレた、変態じゃない」
と、パク・ソユンは顔をしかめるなり、
――ペッ……!
と、その仮面に、唾を吐いた。
「……」
一瞬、主人の者が沈黙した。
その、次の瞬間、
――ピ……、ク……!
と、まるでキレる音がするかのように、主人の者の、仮面の下が熱くなると同時、
「礼儀がッ……、なってませんねッ――!!」
と、主人の者は激高するとともにパク・ソユンの首を掴んだ。
「うぐッ――!?」
パク・ソユンは、思わず息を漏らす。
いちおうは能力者であることから耐えれているものの、首に感じるその力は、牛の首でさえ簡単に圧し折るほどの力か――!?
しかし、そんな暴力に蹂躙されながらも、
「(ん、ん……?)」
と、パク・ソユンは、何か違和感を感じていた。
何というべきか――?
その、主人者が自分の首を絞める力は、怪力・剛力の類の“それ”なのだが……少々、どこか“柔らかさ”のような感触を感じていた。
そう、何とか観察しようとしていると、
「――失礼、……しました」
と、主人の者の、首を絞めてくる力が弱まった。
「ハァ……! ハァ、ゲッホ! ゲッホ……!」
解放され、咳きこんでいるパク・ソユンに、
「――では、……客人として、上品に振舞うべき立場だということを弁えていただきまして――」
と、主人の者は改めながら、続けた。
「――“茶会”を始めましょう♪」
そう、主人の者は春らしく朗らかに宣言しつつ、添える、
「貴女のために、素敵な“御茶”を用意しておりますので――」
年が明けまして、23年最初の投稿になります。
文章、文体の若干のアップデート(?)を行います。過去に書いたものも、順次直していく予定ではあります。
◆◆ 妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズの過去作の紹介(むしろ、こちらを読んでほしい)
・00巻 重慶の幽鬼
・01巻 スタンボロバンの棍棒
・02巻 白色の考察
◆◆ 近いうち、書く予定タイトル
・冷たい結晶華
・あるパノラマ島、トランス奇譚
・散財神経系は不老不死の夢を観るか
・新屋根裏の散歩者考
・メキシコからの変な依頼
・東京水脈
・黄色い壁
*仕事人・鬼灯燈子の無境界依頼シリーズ
・西行阻止
・残留エーテル




