45 貴女の、お好きなチェーンソーです
***
時間は、多少前後する。
場面は変わりて、“茶会”は、すでに始まらんとしていた。
ソウル市内ながら、おおかたの場所は不明。
謎の地下室にて――
チェーンソーで“作成”された、悍ましきオブジェたちの歓迎を受けつつ、
「……」
「……」
と、パク・ソユンと、赤装束に身を包んだ茶会の“主催者”は対峙していた。
なお、チラッと程度だが――、その後ろには、仕事仲間のふたりの姿があり、
「――そ、ソユン!」
「こ、これはどういうことなの!? わ、私たちも、どうなるの!? ねぇ!? ねぇ!?」
と、ふたりはパク・ソユンの姿に気がついて、パニック気味な様子でこちらに向かって叫ぶも、
「とりあえず、アンタたちは黙っときなって――」
と、パク・ソユンは制止しつつ、
「……少なくとも、アンタたちだけは、帰れるようにしたげるから」
「……!」
「……」
と、ジッ――と、念を押すような目で言うとともに、ふたりは気押される形で、言われたとおりに言葉を噤んだ。
“それ”に合わせるように、
「そのとおりです、パク・ソユン様……。貴女が言うとおりにしてくだされば、御二方には一切、危害が加わらぬように致します」
と、主人の者が、恐らく朗らかそうな様子で言った。
また、それとタイミングを合わせるようにして、従者の者たちがふたりの傍へと寄り、何かを施し始めた。
「う、ん――?」
眉を軽く顰めるパク・ソユンに、
「……ええ、あくまで、彼らは茶会に招待された客人ではありませんから、少し、静かになっていただきましてね――」
と、主人が言うとともに、仲間たちふたりは従者たちによって無理やり、奥の方の、ガラス張りらしき部屋へと連れていかされていた。
その最中、「な、何をす――!?」や、「ちょっと!? やめ――」などとの声が聞こえるも、すぐに聞こえなくなりながらだが……
それとともに、
…………
と、茶館の、地下空間が再び静まった。
「――さて、一旦、気を散らすものを片付けましたので……、改めまして、“茶会”を始めましょう。パク・ソユン様」
と、主人の者が言った。
仮面に赤装束姿と、異様な空気が漂いつつも、その声色は、本当に茶会で客人をもてなす者の“それ”として自然なものだった。
礼儀正しく、かつ社交的な雰囲気すら感じさせるという。
ただ……、そうでありながらも、
「それでは、先ほどの余興に続きまして、パク・ソユン様……、まずは、貴女に“イモガイ”のリキュール入りの、ウェルカムドリンクでも振舞わせていただきます」
と、主人の者から、上品にして淡々と告げられたものーー
それはイモガイという、毒や、その手のウンチクに詳しい者だけでなく、近年では知る者も多きトップクラスの殺人貝の毒!
それを飲ませるという、異質にして、少々気違いじみた内容だった!
「は? ウェルカムドリンクって、どんな茶会なワケ?」
パク・ソユンが苛立ち気味の際の、怪訝な顔でつっこむように続けて、
「……しかも、そんなもの飲んだら、死んじゃうんじゃない?」
「いえ……」
と、至極当然のことを抗議するパク・ソユンに、主人の者は、
「……たぶん、貴女は死なないと思いまして――」
と、間を置きながら、柔和な声で、冗談のような答えを言ってみせた。
「は? 何言っ――!? うぐっ――!?」
パク・ソユンは、イラっとして抗議しようとするも、スッ――と寄せられたティーカップによって口をふさがれる。
そのまま、
「どうぞ、パク・ソユン様――♪」
と、主人の者は、流麗にして強引な様で、パク・ソユンにウェルカムティーというべきか――? “ウェルカムドリンクなるもの”を飲ませてみせた。
「う”っ……、う”ぅぅ……」
軽く声が漏れそうになりつつも、パク・ソユンはされるがままに、イモガイの毒入りの“ウェルカムドリンク”を飲み干す。
抗おうと思えば抗えるかもしれぬが、仲間らの命をチラつかされた現状――
されるがまま、言われるがままにするしかない。
恐らく、この“主催者ら”であれば、あのふたりにもフッ化水素やらギンピギンピの茶なりを、容赦なく飲ませることだろう……
そんな、味わい続けるくらいなら進んで自殺したくなる地獄のような激痛・苦痛に、彼らが耐えれるわけもない。
また、自分自身も、そんな目に合う彼らを見て何とも思わないほどのサイコパスや“人でなし”ではないし……、それに、彼らから恨まれても困るものだ。
そのように、パク・ソユンが思考していたところ、
「あ”っ――……!?」
と、何か、息が止まった感覚に、反射的に声が出そうになると同時、
――ガッ……、クンッ……――
と、全身が虚脱しかけ、膝から崩れた。
そんなパク・ソユンに、
「……早速、お気に召してくれまして、嬉しいですね……♪」
と、主人の者は寄りつつ、微笑んで言う。
そのまま、息の乱れているパク・ソユンを――、服従させるように顎を掴みつつ、告げる。
「――さて、茶会に入る前にですね、パク・ソユン様……、貴女に、特別に愉しんで貰いたい“こと”がありまして――」
そう、主人の者が告げるのを、
「あ”っ……、ハァ……、ハァ…………」
と、呼吸の止まりかける苦しさ、および全身の苦しさに耐えつつ、パク・ソユンが虚ろな目で見た先――
――カッツ……、カッツ……
と、足音とともに、細目の大柄男の従者の者がチェーンソーを持ってくる姿があった。
「――!」
その姿に、パク・ソユンはハッ――とすると同時、
――ガシッ……!
と、パク・ソユンの両側からいきなり、別の従者らが、何か手枷のようなもので固定した。
なお、そのチェーンつきの手枷は不自然なことに、手首ではなく、その10センチほど下をロックしていたのだが……、“そこ”まで気づくか気づかないかというとき、
――ブォォーン……!!
と、細目の従者が、持っていたチェーンソーをひとつ起動させてみせるや否や、主人の者がニコリと嗤って告げる。
「――パク・ソユン様、……貴女の、お好きなチェーンソーです」
年末年始は地元に帰らず金沢に。
仕事終わり後、年越しにどん兵衛でも。
◆◆ 妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズの過去作の紹介(むしろ、こちらを読んでほしい)
・00巻 重慶の幽鬼
・01巻 スタンボロバンの棍棒
・02巻 白色の考察
◆◆ 近いうち、書く予定タイトル
・冷たい結晶華
・あるパノラマ島、トランス奇譚
・散財神経系は不老不死の夢を観るか
・新屋根裏の散歩者考
・メキシコからの変な依頼
・東京水脈
・黄色い壁
*仕事人・鬼灯燈子の無境界依頼シリーズ
・西行阻止
・残留エーテル




