44 このタヌキ野郎
(3)
――引き続き、キム・テヤンとドン・ヨンファのふたりだが、ドラえもんみたいなナニカこと妖狐・神楽坂文から、遠隔で妖力のサポートを受け、調査を進めていた。
「さすが、妖力というヤツか……、結構なスピードで情報を解析してるようだな」
キム・テヤンが、妖術の“葛葉”が情報を高速で蒐集・解析する様を見て、率直に感心した。
その妖力なるものの存在を、事前にある程度分かってはいたものの、実際に目の当たりにすれば、無理もない反応だろう。
「確かに、こりゃ凄いよなぁ……。チートって、言うだけはあるよ」
同じくドン・ヨンファも、パソコンのモニタに展開される“葛葉”の仕事ぶりに、軽く驚いていた。
「……しっかし、こんなもん易々と使われちゃあ、俺たち、人間の出る幕はあんのか?」
思わず、キム・テヤンがそう言ったとき、
『――まあ、そう“易々”ではないぞ、変人ども』
と、それに呼応するように、件の妖狐・神楽坂文の声が答えた。
「ああ”? どういうことだ? ――てか、コイツならまだしも、俺まで変人扱いしやがって、このタヌキ野郎」
キム・テヤンが顔をしかめつつ、ドン・ヨンファを指さしてみせ、
「ちょっ! ぼ、僕も、変人じゃないって!」
と、ドン・ヨンファも、不服そうな顔をした。
そんなふたりをスルーしながら、
『ふむ。貴様も知ってると思うが、我が妖力、リボ払い式でな――』
「リボだと……? ああ、アレか……」
と、キム・テヤンが、合点が行った相槌を入れつつ、
『そうだ。――その、ただでさえエグい妖力の“借り”に加えて、ここ最近は、莫大に妖力を消費しててな……。本来なら、もう少し――、“葛葉”の出力というか、能力の数割は利用できるのだが、今は最低限の――、10パーセントほどの力しか出せないのだ』
と、妖狐が、自身の妖力事情を話した。
また、キム・テヤンは聞く。
「ちなみに、今すぐ、こっちに来れないってのも……、アレか?」
『ああ……。妖力の消耗で、制限がかかってな。……なので、こうして旅客機に、ちゃっかり乗せてもらっておる。見よ――』
と、そう答えながら、飛行中の飛行機の背というか、上の方から、妖狐はわざわざ巡航中の眺めを映してみせる。
「は、はぁ……」
「ったく、何てとこにいんだよ……」
ドン・ヨンファとキム・テヤンにふたりが、非現実的なことに呆気に取られつつ、
「てかよぅ、無賃搭乗じゃねぇのか? そいつは」
と、キム・テヤンがにつっこんだ。
まあ、それはさておき――
ふたりが妖狐と話している間にも、闇の流通ルートの資料から、おおよそ10個ほどまで、怪しき経路が絞り込まれていた。
「ほう……。いつの間にか、解析が進んでいたのか」
「あれ? ホントだね」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファのふたりは見てみる。
調査・解析過程のデータや説明とともに表示される、“疑わしき”人物や組織などなど――
それらは単純に犯罪組織であったり、あるいは財力のある個人、もしくは“何らかの癖”のある個人まで、とーー、多少、幅の広いものであった。
「おうおう、それなりに、いるわけだな? 不審なことをしているヤツらってのは……」
「みたいだね……」
キム・テヤンとドン・ヨンファはそう交わしつつ、さてこれから、どう絞り込もうかと思ったとき、
――カッツ……、カッツ……
と、靴の足音が響くとともに、SPY探偵団のリーダーである、カン・ロウンが現れた。
「おう、どうだ? そっちは?」
キム・テヤンが、振り向くなり、カン・ロウンに聞く。
「ああ、マーさんたちの協力と……、こっちも、妖狐の“葛葉”のサポートで何とか、ソユンと、彼女の仕事仲間を追跡している」
「そうか……」
答えるカン・ロウンに、キム・テヤンが重い様子で頷く。
刻一刻と、迫るタイムリミットの重圧が強まる中、
「その、追跡の様子を見てみるか……」
と、キム・テヤンが、“葛葉”を通じたパク・ソユンたちの追跡情報を確認しようとした。
そのとき、
――スッ…………
――タッ…………
と、斜め頭上から、“何者か”がカン・ロウンたちの前に降り立った。
降り立つなり、
「――ふむ。来てやったぞ、この変人軍団ども」
と言ったその者こそ、今回の依頼した相手――
妖狐の、神楽坂文だった。
「ど、どっから登場したの……?」
驚き、呆気にとられるドン・ヨンファと、
「神楽坂さん、ですか……」
と、顔を合わせたカン・ロウンに、妖狐は答える。
「ふむ。とりあえず、急ぐぞ貴様たち……。このままでは、ソユンのヤツの命が危なかろう――」
金沢は、さっそく結構な量の雪が降りました。
◆◆ 妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズの過去作の紹介(むしろ、こちらを読んでほしい)
・00巻 重慶の幽鬼
・01巻 スタンボロバンの棍棒
・02巻 白色の考察
◆◆ 近いうち、書く予定タイトル
・冷たい結晶華
・あるパノラマ島、トランス奇譚
・散財神経系は不老不死の夢を観るか
・新屋根裏の散歩者考
・メキシコからの変な依頼
・東京水脈




