4 さすが、紳士という名のカスな国の発想だけはある
――“ギンピギンピ”
オーストラリアに自生する植物。
その形状は、大葉やシソの葉を大きくし、なおかつハート型にしたような、あるいは、もう少し丸くしたような葉っぱ。
その表面に白く生える、産毛というか、グラスファイバーのような微細な棘――
そして、“ここ”にこそ、おぞましくして凶悪な毒が宿る。
モロイジンという化学物質が主成分らしいのだが、この白い産毛のような棘に触れた者は、その程度にもよるが、数日から数週間――、酸をスプレーでかけられたような、まさに耐え難い激痛に苦しむ羽目になるとのことである。
なお、長いものでは、月から年単位で後遺症的に痛みに苦しむこともあるとの記録もあるほどだ。
そのような“凶悪性”に、かつての宗主国は、ある種の生物兵器として検討したこともあるという。
さすが、紳士という名のカスな国の発想だけはある。
また、その昔、野外でトイレットペーパー代わりにこの植物の葉っぱを使用してしまった男が、激痛のあまり拳銃自殺したとの逸話もあるとのことだが、こちらは真偽不明という。
「いや、確かに……、“これ”、ヤバすぎだよ……」
ドン・ヨンファが、まさに『検索してはいけない言葉』を検索してしまったかのように、後悔した顔をした。
「――その、“御茶”か何かを作ればさ……、結構な激痛のする飲み物になるんじゃない? そして、招待された人の、激痛に苦しむ姿を堪能する……」
…………
少し溜めながらも、淡々と話す“ジグソウ・プリンセス”こと、パク・ソユンの言葉に沈黙が漂う。
その、自ら作った沈黙に、
「――まあ、ギンピギンピに限らず、“充分で、多様な趣向を持つ”有毒植物なんて、他にもありそうだけどね……」
と、パク・ソユンは締める。
「ちなみにだけど、さ? まさか、……君が犯人とかじゃないよね?」
恐る恐る聞くドン・ヨンファに、
「……」
と、ちょうどチジミを箸で持ち上げたパク・ソユンの手が、ピタリと止まる。
「……」
「……」
と、時が止まるかのように、沈黙しつつ、
「――そんなわけないでしょ。もう、変なこと言ってっと、アンタ、……チェーンソーでバラバラにするわよ」
と、パク・ソユンはマンガのごとく――
どこから取り出したのか、チェーンソーを手にして構えてみせた。
「ひっ……!? じ、冗談だって! お、落ち着いてよ、ソユン!」
ドン・ヨンファが、怯えつつ宥める。
「大丈夫よ。怒ってないから」
と、パク・ソユンは相変わらず淡々とした様子で答えた。
「おい、こんなとこで“そんなもん”出すなよ。銃刀法なんとかで、通報されっだろが」
「まあ、それもそうね……」
やれやれとつっこんだキム・テヤンに、めんごとパク・ソユンはチェーンソーをしまう。
なお、これが、このパク・ソユンの“異能力”――
スプラッタ系のガジェットや暗記を召還できる能力の一端であるのだが……
また、そんなパク・ソユンは続ける。
「――それに、……たぶん、私、犯人になりようがないと思うよ」
「うん? どういうこと、か?」
カン・ロウンが聞き、
「――だって、あの招待状……、私に届いたもん」
と、パク・ソユンはゆるりと、“例の招待状”を見せてみた。
「「「は? はいぃ……!?」」」