39 はい、もすもすカメよ
沈黙を破って、マー・ドンゴンが、
「まあ、確かに、推測と言えば推測なんだろうが……、人質を取って脅迫したうえで、パク・ソユンを拉致したと仮定するなら、犯人側が“そうする”のは、自然なことかもな」
「ええ……、可能性として、あり得なくもないですしね」
と、チャク・シウも、うなづいて同意する。
そのようにして、
「分かったよ。協力してやるよ、ロウン」
「おおっ……! すまない、マーさん」
と、カン・ロウンは、マー・ドンゴンに感謝した。
しかし、
「ただ、協力するとは言ってもな……、俺たち、ソウルの警察のリソースを、すべて、お前たちに使ってやることはできない……。それに、いまから、パク・ソユンを助けてやるのに、間に合うのか……、保証はできない」
と、マー・ドンゴンが念のため、厳しいことを告げる。
「……」
チャク・シウと、
「……」
と、キム・テヤンが、無言で固唾をのむ中、
「それは……、確かに、マーさんの言うとおりだ」
と、カン・ロウンは、そこは覚悟した。
そもそも、この茶会の案件の調査を開始してから――、まあ、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツがダラダラしていたこともあるにせよ、満足な情報や手がかりなど、あまり掴めていない段階なのだ。
そんな状況で、はたして、いまから迅速にしてパク・ソユンを追跡し、救出することができるのか――?
そう問われると、確かに、厳しいと言わざるを得なかった。
…………、…………
場に、ふたたび、沈黙がただよう中、
――スッ……
と、カン・ロウンは、スマートフォンを、ゆっくりと手にとっていた。
「あ、ん……?」
マー・ドンゴンが反応し、
「おい? どうした? ロウン」
と、キム・テヤンが聞いた。
カン・ロウンは、答える。
「妖狐に、依頼を――、……いや、“助け”を求める」
「“妖狐”、だと……?」
と、妖狐なる言葉を聞いて、マー・ドンゴンが怪訝な顔をし、
「……」
と、チャク・シウも無言ながら、ゆるり……と、カン・ロウンの顔を見た。
その間も、
――カラン、コロン♪ カランコロン♪
と、カン・ロウンのスマホはすでに、妖狐へと発信していた。
ただ、
――カラン、コロン……♪ カランコロン♪
と、着信音がするばかりで、しばらくしてもつながる気配はない。
「つながらない、か……」
カン・ロウンが、あとでかけ直すしかないと、諦めようとした。
刑事のマー・ドンゴンたちと、妖狐の力に、一縷の望みを賭けようとした。
刻一刻と緊迫する状況の中、期待と焦りが入り混じながら、焦燥感と諦観に飲まれそうになる。
そのとき、
『――はい、もすもすカメよ♪』
などと、若干ふざけた様子で――、何と、妖狐の神楽坂文が電話に出た。
「……お久しぶり、ですな。タヌ、キツネさん。SPY探偵団の、カン・ロウンです」
『何だ? ロウンか。というか、いま、タヌキと言いかけただろ? 貴様?』
「い、いえ。そんなことは」
『ふむ? そうする、と……? 貴様だな? 先日の、時差で出たクシャミの原因は』
「クシャミ、ですか……? ああ、確かに、昨夜、貴方のことを――、神楽坂さんのことを、話題にしましたね」
と、カン・ロウンが思い出すと、
『――で? 何のようだ? 貴様たち、韓国の変人探偵団が』
と、妖狐が、要件を尋ねる。
「すまない。依頼が……、――いや、大至急、助けてほしいことがある」
『ほう……』
と、重い様子で話すカン・ロウンに、妖狐は続きを聞く。




