37 【日本でも今ホットな動力工具】
(1)
ふたたび、場面は地下へ――
薄暗いながらも、気品あふれる、【茶館】でのこと。
今宵も開かれる【茶会】の、大事な【客人】のため、【主催者】は――、【主人の者】は従者たちとともに、準備、段取りに追われていた。
麗らかな春にふさわしいテーマで、美術品や、趣向を凝らしたオブジェだったり、フラワーアレンジメントなどで空間をコーディネートする。
まさに、上流階級が招かれるような、豪華で上質な空間――
しかしながら、【それだけ】では、この【茶会】の【芯】となるべきものは、まだ足りていなかった。
――ギギ、ッ……
と、何か、少し重みのあるものを動かす音とともに、“そこ”に用意されたもの。
あろうことか――?
それは、まるで華でも活けるかのように、木枠に縛られた、数体の人間の【躯体】だった――!
恐らくは、先の茶会に招かれ (拉致され)た客人たち――
例の、毒劇物をブレンドした【茶】によって、口内はおろか、胃や周辺組織がグチャグチャかつ不可逆的に損壊し……、時間が経ってもなお、耐え難い苦痛を与え続けられた【成れの果て】。
ただ、一点、すこし“不思議なこと”があった。
この【躯体】たちには、まだ少々、意志があった。
ここまで至る間に、激痛によるショック死や、そもそも内臓の損傷などで、とうに絶命していてもおかしくはないのだろうが……、そこは、この【主人なる者】の【御点前】の良さゆえか――?
客人が、絶命してしまわないように、【様々な施し】をしているようだった。
「――う”、ぅ”……」
とか、
「ギ、ギ、ギッ……」
などと、猿ぐつわされながら小さく唸る、もはや【人の形をした何か】のような、【客人だったモノたち】――
虚ろながらに思うことは、「もう殺してくれ……」と、いうところだろう。
ただ、そうは問屋が卸してくれるはずもなく、
「――では? 本当に、【こちら】でよろしいでしょうか? ご主人様?」
「ええ……。それで、結構です」
と、淡々と尋ねてきた従者の者に、主人の者は答えるなり、
――ドゥルン……!! グ、グォオ、オォーンンッ――!!!
と、場違いな駆動音とガソリンの香りがするとともに――!! けたたましいエンジン音が鳴り響きだした!!
そうである――!!
従者の者が用意したのは、【いま日本でもホットな動力工具】!!
すなわち――
【チェーンソー】であった!!
そして、
――スッ……
と、別の従者が、手際よく用意した角材に、
「――では、まず、切れ味を確認いたします」
と、チェーンソーを手にした従者が、これまた、お手並み良く角材に刃を入れていき、
――グ、ォォオンッ――!!!
と、子気味の良い音を響かせながらも、スパッ――!! と、角材は、綺麗に切れていった。
どうやら、刃も、機械本体も、調子良さそうである。
いったん、回転数を落として、
「良い音、ですね……♪」
「ええ」
と、まるで、茶室の普請道楽をする主人と職人親方のように――、上機嫌そうな主人の者に、従者が控えめながらも、ニコリとした笑顔で答える。
――ドッ、ドッ、ドッ……
と、チェーンソーが、“ウォーミングアップ”する。
従者の者は、“それ”を、
――ジャ、キッ――!!
と、泣いて怯えている、客人だったモノたちへと向ける――!!
続けて、
「では、行きますよ――」
と、従者のが再び、
――グォォーンッ――!!!
と、チェーンソーを唸らせ、作業へと取りかかる!!
【ガソリン】の匂いに、エンジン音、それから、
「う”っ!? うぅ”ぅ”――!!!!」
などとの、断末魔呻き声が響き渡る中、
「……」
と、主人の者は、ジッ……と、作業を見守るように眺めていた。
そんな、滴る地に血飛沫がすこし漂う中、思う……
――さて、パク・ソユン様……
【準備】は抜かりなく進めております。
貴女も、きっと、この【オブジェ】と【装花】を愉しんでいただけることでしょう。
【私】も、貴女に御会いできることを、貴女に御茶を振舞わせていただくことを、心から愉しみにして、御待ちしております――




