36 てめぇと一緒にするなっての、タコ
「まあ、そう考えると……、ただの、裏の、【犯罪界隈】の人間“ではない”……、【異能力使いの異常者みたいなヤツ】、ですか――? 【そんな可能性】を、考えても、いいかもしれませんね」
情報屋も、コーヒーを手に取り、そう言った。
「ふん……」
と、キム・テヤンが相づちを入れてやりつつ、続きを聞く。
「なおかつ、ちょっとした、【好き者】で……、かつ、これだけ犯行を重ねても、その手掛かりが掴めないとなりますと……、もしかしますと、何か、【資金的にも、人的にも余力のあるリソースを持った者】が、関与している可能性もあるのかな、と……」
「何だ? つまり、金と暇を持て余した、ボンボンみたいなヤツってことか?」
「あっ、そっす! ああ、あと、コネ的なリソースのある」
「まあ、いくら人的なリソースがあっても、ちょっろいヤツばっかだと、余計犯行の手がかりを残して、足がつくだろうがな」
「その辺は、さすがに、プロみたいなのを使ってるんじゃないっすかね? 【隠密】的な」
「けっ、何が隠密だってんだ、」
と、面白くなさそうに舌打ちするキム・テヤンに、情報屋はさらに続けて、
「あとは……、薬の、ほうですか……? ちょっと、調べてみないと分からないですが……、裏社会の人間はもちろん、表の人間でも、【横流ししていそうな輩】も、いるでしょうね。大方、金目当てか、何か弱みでも握られて脅されているかでしょうけど」
「まあ、な……」
と、キム・テヤンが、相づちしてやりながら、
「とりあえず、そんな感じでな――、少し、フワッとした相談かもしれねぇが、調べるのを、協力してくんねぇか? お前の情報と、マーたち、警察連中の情報とを合わせれば、犯人に――、【茶会の主催者】とやらに、近づけるかもしれねぇからな」
「うぇっ……!? マーさん、っすか……」
と、情報屋は刑事の名を聞いて、少し苦手そうな顔をした。
「何だ? 嫌なのか? 別に、お前が、マーのヤツに会うわけじゃねぇだろ」
「ま、まぁ、そっすね……。とりあえず、もちろん、キム兄さんには協力しますよ」
「ああ、頼むぜ。礼はするからよ」
と、キム・テヤンはコーヒー片手に、少し硬いながらも、微笑して見せたりしていた――
――――
――
――と、回想はここまで。
ふたたび、場面は、江北の事務所へと戻る。
「それで……、これが、さっき調べてきたヤツだ。まだ、不十分な情報だろうが、また追加があればと思う」
と、キム・テヤンが、ノートパソコンを開いて見せた。
「わぁ……、仕事早いよね、テヤン」
「てめぇと一緒にするなっての、タコ」
と、感心するドン・ヨンファに、キム・テヤンは鬱陶しそうな顔をする。
「で? てめぇは、何をしてたんだよ?」
と、今度はキム・テヤンが聞こうとしたとき、
――タッ、タッ、タッタカ――♪ タッ、タッ、タッタカ――♪
と、階段をステップする音を反響させながら、小刻みかつコミカルに踊るカン・ロウンがやって来た。
「ったく……、てめぇも、いちいち踊るなっての! 鬱陶しいヤツだな」
「まあ、そうカリカリするな、テヤン。茶を用意してきたから、飲んでくれ」
と、カン・ロウンは、余計に顔をしかめるキム・テヤンの傍に来るなり、ティータイムセットを広げる。
「けっ……、ラテだのコーヒーだの、茶ばっか飲ませられる日だぜ、まったく」
キム・テヤンが、やれやれと舌打ちした。
まあ、コーヒーは茶でもないだろうが、いちおう、茶のカテゴリに加えておきつつ……
その間、カン・ロウンは茶を淹れ、香りが漂いながら、
「――で? どうだったか? ロウン」
「ああ、マーさんたちも、出来る範囲で協力してくれると。……いちおう、さっき共有してもらった資料もある」
と、カン・ロウンはキム・テヤンに茶を渡してやる。
「ふん……、何だかんだで、アイツらもよく協力してくれるな」
「そうだな」
ふたりは、そう言葉を交わす。
そのまま、互いに手にした情報を持ち寄って、これから分析しようと思った。
だが、そのとき、
「……?」
ふと――、キム・テヤンが表情を変えて、腕時計を見た。
時刻を、確認しながら、
「……そろそろ、ソユンに連絡しないか?」
と、切り出したキム・テヤンに、
「……」
「……」
と、カン・ロウンとドン・ヨンファのふたりの視線が集まった。
そうして、間を置きながら、
「――ヨンファ、“アイツ”に電話しろ」
と、キム・テヤンは、何か思い立ったようにドン・ヨンファに頼んだ。
「え――? ま、まだ、は、早くないかな? テヤン?」
ドン・ヨンファが、急に振られた役割に動揺する。
恐らく、まだ機嫌の悪いと思しきパク・ソユンに連絡するのを躊躇しているのだろう。
その間も、キム・テヤンが急かしてくる。
「何怖がってんだよ! チキン野郎が、早く電話しろってんだよ」
「そ、そんな……!」
と、ドン・ヨンファは嫌そうな顔をするも、
「てめぇならブロックされてもいいだろ! さっさとしろ!」
「もう……! テヤンがやればいいのに……」
と、これ以上抗っても、キム・テヤンが余計にやかましくなるだけで、渋々ながらパク・ソユンに電話してみることにした。
――ダッ、ダッ、ダッ、ダッ♪ ダッ、ダッ、ダッ、ダッ♪
と、少し喧しくも、着信中のEDMの音楽が聞こえるも、パク・ソユンは電話にでてこない。
「……」
ドン・ヨンファはしばらく待つが、つながらない。
――ピッ……
と、一度切る。
また念のため、少し間を置いて、かけなおしてみるも、
――ダッ、ダッ、ダッ、ダッ♪ ダッ、ダッ、ダッ、ダッ♪
と、同じく音楽が流れるばかりで、いっこうに電話はつながる気配はない。
「あ、れ……?」
キョトンとするドン・ヨンファに、
「ああ”? どうした?」
と、怪訝な顔で聞くキム・テヤンと、
「……」
と、カン・ロウンは無言で、何か嫌な予感を感じていた。
「連絡が、とれない? ぶ、ブロックされた?」
オロオロするドン・ヨンファと、
「ブロックはされてねぇだろが。――けっ、あの野郎……」
と、今ここにいないパク・ソユンに、キム・テヤンは舌打ちしつつ、
「ちょっと、待っとけ、お前ら」
と、急にノートパソコンを立てた膝の上に置き、キーボードをカタカタと動かし始めた。
さすが、元情報部と言うべきかーー、パク・ソユンのスマホの位置情報を調べてみる。
「スマホは、アイツんちにあるようだな……」
と、確認しながら、今度はパク・ソユンのマンションの、セキュリティ関係にハッキングし、調べる。
「……」
と、キム・テヤンは、茶菓子を片手に持ちつつ、
「ど、どうなの?」
「……どうだ? テヤン?」
と、ふたりが後ろから覗く中――
「――こりゃあ……、少し、ただ事じゃねぇかもしれねぇ……」
と、キム・テヤンが、重い表情でいった。
「玄関のセキュリティデータと監視カメラの記録を調べたがな……、アイツ、スマホを置いたまま、出ちまいやがった」
「……」
「な、何だって――!?」




