33 あくまで【茶会】という【文化的なプロセス】
「ああ……、いいだろう」
と、カン・ロウンが間をおき、本題へと入る。
そのまま、
「テヤンも、情報部時代に、少なからず、【拷問】というものについて、様々な知見を得てきただろ?」
「まあ、な……」
キム・テヤンが答えながら、ラテに口をつける。
カン・ロウンが続けて、
「もし、苦痛を――、【激痛を味わわせるような茶】をふるまい、“それ”を【嗜好してもらう】――、ということを、あくまで【茶会】という【文化的なプロセス】で行うとすれば、だ……」
「……」
と、キム・テヤンが、渋い顔のままラテを口につけながら、続きの言葉を待ち、
「――その苦痛は、ある程度は、【加減する必要がある】――、とは言えないか?」
「……」
「……」
と、微妙な沈黙が、ふたりの間に漂った。
「加減、ねぇ……」
キム・テヤンが、その言葉を反復してみた。
自分が、情報部時代に見聞きした範囲の、【拷問】についての伝聞・知識を思い出してみる。
その、自分の知識の範囲内でも、拷問というのは概ね目的があるものだ。
ただただ、苦痛を与えるばかりでは、あまり意味がない。
ゆえに、カン・ロウンが言うように、【ある程度の加減が必要】だというのは、だいたいそのとおりである。
そうすると、その、加減をする【技術】だったり、【ツール】なりが、主催者がわにはあるのだろう。
そこまで考えたところで、
「――すると? もしかすると、茶会の主催者ってヤツは、【ギンピギンピ】やらを用いるのと同時に、何か、【鎮痛作用】のある物質、薬品も、使用している可能性がある――。そう、考えてんのか? ロウン?」
と、キム・テヤンが、桜ラテを片手に聞いた。
「まあ、おおむね……、そんなところだ」
カン・ロウンが答える。
「……」
「……」
と、また軽く、沈黙を挟みつつ、
「――まあ、あくまで妄想、と【ことわり】を入れたからな、そこまで、自信のある仮説ではない。ただ、危険植物の裏取引というものを調べるのもよいが……、併せて、【こちらの面】でも、調査を行ってもよいのでは、と思ってな」
「まあ、調べてみる価値は、ないこともないかもな……」
と、キム・テヤンも、おおむね同意するところだった。
「しかし、もし、そうだとすると……」
ふたたび、キム・テヤンが、先ほどまで顔をしかめていたラテに口をつけつつ、
「“そこまで”して、何か、【痛み】を――、【激痛】なんつーもんを、【客人】に【ふるまいたい】、とは……? いったい? どんな【趣向】の人間なのやらな……?」
「さあ、ね……。しかし、我々が扱う案件だ。何か、【普通でない趣味・目的】を持っているかもしれないのは、確かだろうな」
「まあ、な……」
と、ふたりは言葉を交わした。
そのように話しつつ、何だかんだで、桜ラテの抹茶は減っていき、
「とりあえず、もう少ししたら行くぞ、ロウン」
「ああ」
と、ふたりは少し残ったラテとともに、もう少々打ち合わせをし、先を急ぐことにした。
******
「……」
と、パソコンの、大きなスクリーンを見ていた。
【そこ】に映るもの――
白の、エレガントかつ清楚で、なおかつセクシーさのある、肩出しかつヘソ出し衣装に身を包む黒髪の女。
それから、同じく清楚な【白のカチューシャ】に重なる形で、【黒のヘッドホン】というギャップ、と――
すなわち、動画に映るのは、【SAW】の芸名でDJプレイをする、パク・ソユンの姿だった。
「やっぱ……、なかなかに、イカした子だねぇ」
と、リクライニングにもたれながら、そう言った声の主――
その後ろには、【ギンピギンピ】の剝製のフラワーアレンジメントが、どこかグロテスクな存在感を放って置かれていた。
そんな、書斎のような空間に、
――ギ、ィッ……
と、重厚な木製ドアの開く音とともに、
――カ、ツッ……
と、軽くヒールの音を響かせつつ、秘書と思しき“いでたち”の女が――、インテリメガネに、まとめた髪、白シャツが様になっている女が入ってきた。
「――会長? 例の件、どうしますか?」
秘書の女が、入ってくるなり聞いた。
「……」
と、会長と呼ばれた男は、
――ピタッ……
と、すこし止まったかのように沈黙し、ゆっくりと……、リクライニング・チェアを回転させながら、振り向く。
「……やれやれ、……仕方ないね」
と、そう微笑したのは、先日ドン・ヨンファと会った友人、ノア・ネルソンだった。




