32 男ふたりで優雅なティータイムの写真でも撮って、SNSに
カン・ロウンが、続きを話す。
「つまり、だ――、この際、ソユンが狙われているのを逆手にとって、彼女を【囮】にして調査できないか――? と思ってな」
「な、何だって――?」
「【囮】、だと……?」
「ああ……。現状、主催者に関する手掛かりというのは、かなり少ない。ならば、こちらから調べに行くのもよいが、あちらから来るのを待つというのも、手かもしれないだろう」
と、動揺交じりのドン・ヨンファとキム・テヤンが、まだ怪訝な顔をする中、カン・ロウンが答えた。
「は、ぁ……」
ドン・ヨンファが、まだ、しっくりきていない感じでポカンとし、
「う~ん……」
と、キム・テヤンは、ふたたびグラスを手にし、考えるように唸る。
「まあ、確かに……、どうせ、アイツが狙われているのなら――、って考えると、ありなのかもな……。嫌でも、【茶会】の主催者ってヤツが、拉致しに来るのは、避けようがないんだろ」
「ああ……」
思案して話すキム・テヤンに、カン・ロウンが頷く。
「で、でも……、ソユンに、万が一のことがあったら……」
ここで、ドン・ヨンファが、すこしオロオロした様子で懸念した。
「ああ”? アイツにか?」
と、ドン・ヨンファにつっかかろうとするキム・テヤンを、
「まあ、ヨンファが心配する気持ちも分からなくない。その、万が一のことも、想定した方がいいだろう」
と、カン・ロウンが制止する。
「けっ……、そいつは、分かってるよ」
キム・テヤンが、重い表情に戻りながら答えた。
確かに、万が一の想定は、必要だろう。
パク・ソユンが、実際に拉致されてしまった場合――、先ほどから話すように、彼女を囮として、犯人追跡のためのチャンスとすることも、できなくもない。
だが同時に、パク・ソユンが、そのまま殺害されてしまうというリスクと、まさに紙一重だ。
ゆえに、“そうする場合”、迅速に危機を察知し、追跡できるようにしておく必要がある……
――と、そこまで、キム・テヤンが考えたところで、
「というか? 【囮作戦】をするならするでよぅ? ロウン? ソユン本人と、連携が取れた方がよくねぇか? ――てか、囮作戦ってのは、【本人が、囮の役を演じている自覚を持ってる】ってのが、一般的じゃねぇか?」
と、そもそものことに、気づいたように言った。
「あっ……」
と、ハッ――、とするドン・ヨンファと、
「まあ……、それもそうだな……」
と遅れて、カン・ロウンが頷いた。
…………、…………
微妙な空気が、屋台に漂う。
そして、
「おい!! そしたら、結局アイツがいなきゃダメじゃねぇか!! 結局、てめぇが、怒らすからじゃねぇか!! このポンコツ野郎!!」
「ご、ごめんって!! て、てか!! だ、だから、何で僕なの!?」
と、詰め寄るキム・テヤンに、勘弁してくれと叫ぶドン・ヨンファの声が、屋台街に響いた。
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――と、ここまでで、昨夜の回想から戻る。
キム・テヤンが、
「……」
と、桜抹茶ラテに口をつけたまま、渋い顔で考え込んでいた。
「どうしたんだ、テヤン? 浮かない顔して?」
カン・ロウンが、声かける。
「けっ……、てめぇが、こんな変なもん頼むからじゃねぇか」
キム・テヤンが、舌打ちしつつ、
「まあ、それはおいといてよ……、いちおう、ソユンのヤツのことが気になるだろ」
「ああ、それは私も同じだ」
と、ふたりは話に入っていく。
キム・テヤンが、続けて、
「昨日の話の繰り返しになるが、アイツがそんな簡単にはやられるとは思ってないし……、そのうえで、ソユンが囮として調査をするってのも、ありっちゃ、ありかもしれねぇとは、思うけどよ……」
「うむ……」
と、カン・ロウンが、ラテを飲みながら聞きつつ、
「何にせよ……、いかんせん、早く、アイツとコンタクトをとれるようにする必要がある。少なくとも、アイツを追跡できるようにしておかねぇと」
「そのとおりだな……。まあ、どちらにしろ、いま、私たちが連絡を取っても、たぶんソユンは出ないからね」
「まあ、そうだろうな。……アイツのことだ、もうしばらく、間を開けた方がいいな」
と、男ふたり、ラテを一旦テーブルに置く。
置きつつ、
「――さて、と。お前と、女子会みたいに、長々話したくねぇからな。さっさと、こんな打ち合わせなんか終わらせて……、調べにいくべきもんを調べるぞ」
と、キム・テヤンが言った。
「酷いこというな。一緒に、男ふたりで優雅なティータイムの写真でも撮って、SNSに上げたいと思っていたのだが……」
「ああ”……? けっ! ぜってぇ撮るかよ、そんなもん」
と、カン・ロウンの言葉に、SNS映えする自分たちの姿を想像してしまいながら、キム・テヤンが舌打ちした。
そうしながらも、
「――で? 調べるにあたって、だ……、すこし、考えてみた【推察】を……、いや、【妄想】をしてみよう」
と、仕切り直すように、カン・ロウンの丸サングラスが、ジッ……と、キム・テヤンのほうを見た。
「何が【妄想】だよ……。まあ、いい……、いいから、話せよ」
キム・テヤンは、続きを促した。




