3 熱帯ってさ? けっこうヤバい植物あるじゃん?
(3)
ーー“連続人さらい事件”。
端的にいうと、そういうべき事件が、ここ最近のソウル市内で続いていた。
しかし、ただの人さらい事件であるならば (どの程度までが“ただの”というべきか、程度問題があるが……)、このSPY探偵団などという変わった四人組が興味を以って調べることもなかったのだろう。
こうして調べているからには、少々奇妙な案件には違いない。
まず、この“人さらい”というか、“拉致という行為”が行われる前に、被害者には“茶会の招待状”が届けられるというのが、奇妙な点だった。
そして、その招待状というのも、花をモチーフにつつ、なぜか、神経系や伝達物質などのイラストが描かれるという、悪趣味かつ不気味なもの。
なお、案の定というべきか、“出席しない”という選択肢などなかった。
招待の日時になれば、客人には礼を尽くして、強引にも拉致して誘うというものだという。
そして、気まぐれにも招かれた客人というのは、どうも、茶会に行ったきりで、“戻ってきていない”ようなのだが……
「――ほんと……、何? この趣味の悪い招待状?」
ジグソウ・プリンセスことパク・ソユンが、資料の画像を眺めて言った。
「おっと、ソユンが言うのかい?」
「ん? 何で?」
ジンロを飲みつつ、つっこむように言った花男ことドン・ヨンファに、パク・ソユンがキョトンとする。
「――だって、君さ、猟奇系の映画とか、グロ画像とか……、そういうのが趣味だからさ――」
「あくまで趣味じゃない。実際、やらないわよ」
パク・ソユンが、トッポギを咥えながら答える。
また、
「――で、さて? この招待状ってのは、何を表わしているんだろうね?」
と、ドン・ヨンファが、一番重要なことを皆に聞いてみた。
「この……、化学式ってヤツか? 誰か分かるか?」
と、キム・テヤン。
「う~ん……、僕は、化学は、そんな好きじゃなかったからねぇ……。付き合いのある化学メーカーを経営する友人か、医者の知り合いなら知ってそうだけどさ……」
「私も、こんなの分かんないわよ」
「やれやれ! こんなのも分かんねぇのかよ? お前さんたち!」
答えられないドン・ヨンファとパク・ソユンにキム・テヤンが茶化す。
「いや、テヤンも分かんないでしょ」
「はっ! それもそうだ!」
キム・テヤンがおどけていると、
「――この、イラストの伝達物質や神経系は……、痛覚、……か」
と、リーダーの“スタイル”ことカン・ロウンが、何か意味深な様子で、そう言った。
「「痛覚……、……だって?」」
怪訝な顔して反応するキム・テヤンとドン・ヨンファ。
そのいっぽう、
「……」
と、ジグソウ・プリンセスことパク・ソユンは、何か考えるような、少し意味深な顔をしていた。
「――そうすると、……この、強引に拉致して行われる御茶会には、何か、“痛み”に関したテーマや、“趣向”があるのかな? 少々、おぞましい感じがするけど――」
パク・ソユンが、そう続けた。
「趣向、ねぇ……」
ドン・ヨンファが、口にしながら顔を少し歪めてみる。
またその横から、屋台のほうは暇なのか、キム・テヤンが、
「何か、ピンと来ねえか? ジグソウ・プリンセス」
「ん? 私?」
「ああ、お前さんなら分かるかな、と思ってな――」
「いや、だからさ……、私の何をアテにしてるのよ……」
と、パク・ソユンはやれやれとしながらも、
「――まあ、そうね……、単純に考えると、“痛み”っていうのを――“痛覚”を趣向にした御茶会だとすると……、たぶんだけど、さしづめ、痛みを――、“多種多様な激痛を愉しむべくブレンドされた御茶”を、参加者にふるまっているんじゃないかしら? おそらく、無理やりにだろうけどね――」
「……」
「……」
と、やや具体的になった答えに、ドン・ヨンファとキム・テヤンが引いた顔をしていた。
「――それは、劇物か、何かか?」
また、今度はカン・ロウンがパク・ソユンに聞いてみた。
「そうね……? 酸だと、硫酸、フッ化水素酸……、それから、アルカリだと、水酸化ナトリウムとかが妥当かな? あとは、界面活性剤や農薬とか……、それから、たぶん手に入るか分かんないけど、ギンピギンピって植物、……聞いたことない?」
「あん? ギンピ……ギンピ、だと?」
と、変わった名前の植物に、キム・テヤンが顔をしかめる。
「うん。オーストラリアに生えてる植物ね。あそこや、熱帯ってさ? けっこうヤバい植物あるじゃん?」
「まあ、ありそうっちゃ、ありそうなイメージがあるがな」
と、そこは同意で頷くキム・テヤンの横、
「――ソウ、ギンピギンピとは、……あの、ヤバい植物だな?」
「ええ……。そうよ」
と、カン・ロウンはこの植物のことを知っているのか、そうパク・ソユンと言葉を交わした。
「ヤバいって、どんな風にヤバいんだい?」
ドン・ヨンファが聞いた。
「検索してみてよ、ヨンファ」
「どれどれ……」
と、“フラワーマン”ことドン・ヨンファはチジミに手をつけた箸を止め、検索してネット辞典を読んでみる。
読み進めていくうちに、
「……」
と、その内容は、ドン・ヨンファの顔を次第に硬直させるようなものだった。