25 タヌ、キツネ
「そのぉ……? やっぱり、こわ――、いや、不安なのかい? ソユン?」
ドン・ヨンファが、恐る恐る聞くと、
「は? いま、怖い――って、言おうとした? ねぇ?」
「い、いや、その……」
と、酒に酔ったパク・ソユンが、不機嫌顔で迫ってきた。
「は? 私が怖がると思ってるの!? ねぇ!? バッラバラにするわよ!! アンタ!!」
「ひっ!? ご、ゴメンって!! ソユン!!」
と、先ほどの光景の再現のように、パク・ソユンは暴れ!! ドン・ヨンファにヘッドロックをしかける!!
「おい!! やめろっての!! あ”あ!! もう!! めんどくせぇ酔っ払いみたいになりやがって!!」
と、さっきと同じく、キム・テヤンが仲裁に入る。
そうして、キム・テヤンがドン・ヨンファから、荒ぶるパク・ソユンを引きはがしていると、
「とりあえず、だ。ソユンは、狙われているから……、どうやって、守るか?」
と、カン・ロウンが、場を締め直すように言った。
キム・テヤンが、
「……」
と、ゆるりと、カン・ロウンの方を振り向く。
カン・ロウンは続けて、
「相手は、得体の知れない存在であること……、そして、ほぼ確実に、宣言したとおり、“客人”を茶会に“出席”させているからな――」
「ああ……」
と、キム・テヤンが、やや重い表情で相槌する。
なお、パク・ソユンは、
「……」
と、酔いが回りながらも、ジトッ……と、若干不機嫌そうな目で、ふたりの話すのを注視していた。
「すると……? 何だい? ロウン? 僕たちだけで、ソユンを守――、いや、その……、今回の、茶会の主催者たちを相手にする――、ってのは、なかなか大変ってことかな?」
ドン・ヨンファが、途中、言い換えながら聞く。
パク・ソユンだが、「守られる」と言われるのが気に障るようで、またしても、機嫌を損ねてしまうと面倒だからである。
「ああ……、そう、言わざるを得ないな」
カン・ロウンが、すこし重たい様子で、間を置きつつ、
「そこで、だ。今回は、タヌ――、いや、“妖狐”に協力を頼んでみようかと考えていてな」
と、【タヌキ】と言いかけながら、【妖狐】などという、一般的に認知はあるものの、おおよそ一般的な会話には出てこないワードを出して答えた。
「えっ……? タヌ、キツネ――?」
ポカンとするドン・ヨンファと、
「ああ”? あの、タヌキだとぉ……?」
などと、どこか、その妖狐とやらと面識がある様子で、キム・テヤンがしかめっ面をした。
そこへ、
「は――? 別に、そんなことしなくていいんだけど、ロウン」
と、パク・ソユンが、露骨に嫌そうな顔をして言った。
このパク・ソユンも――、いや、SPY探偵団のメンツは全員、妖狐と面識があるようだった。
「そ、ソユン……」
と、気にかけてきたドン・ヨンファに、
「は? 何?」
と、パク・ソユンは不機嫌そうに反応し、
「い、いや、その……」
「何? 私、ひとりで自分の身を守るのが無茶って、言いたいわけ? ねぇ? ねぇ!?」
「ひっ!? ひぎぃぃ!!」
と、先ほど以上の勢いでドン・ヨンファに迫り、胸倉を掴みながら、ヘッドロックなどの締め技を繰り広げる。
「だから、やめれってんだよ!! いちいち面倒なヤツだな!!」
ふたたび、キム・テヤンが仲裁し、ドン・ヨンファからパク・ソユンを引き剝がそうとする。
また、
「とりあえず、ソユンも落ち着いてくれ。まず、君の力を過小評価しているわけじゃないし……、君が、そう簡単に茶会の主催者とやらに捕まるとは、私も、皆も思ってはいないよ」
と、カン・ロウンが言うも、
「じゃあ? 何で? あんな、タヌキなんか呼ぶわけ? 私、アイツ、嫌いなんだけど」
と、パク・ソユンは「冗談じゃない」と、反発する。
「まあ、ソユン、君がそう言うのは想定している。だけど、我々の調査を進めるため、と思ってくれないか?」
「ロウンの言うとおりだぜ、ソユン。俺も、あのタヌキのことなんざ、イケ好かねぇが……、調査を進めたいと思えば、仕方ないだろ?」
「だからって、私、アイツなんかにボディーガードされたくないんだけど!! てか、私、誰にも守られたくないんだけど!!」
カン・ロウンとキム・テヤンのふたりが説得するも、パク・ソユンは、ますます機嫌悪くなる。
「いや、守るというよりは、その……、おっ、囮というヤツだ!! ソユン……、君も、自分を囮として調査を進める分には、申し分ないだろう?」
と、カン・ロウンも、これ以上機嫌を損ねてはマズいと冷や冷やしつつ、パク・ソユンを宥める。
だが、
「は――? 何、気を利かせようとして、囮って言い換えてんの? どうせ、これ以上機嫌悪くしたらめんどくさいとか思ってんでしょ! ロウン!」
と、逆効果にも、パク・ソユンは余計に機嫌を損ね、さらに、
「ひっ!? ひぎぃぃっ!? 何で僕に!? てか、やめてっ!! 首跳ねないで!!」
と、ドン・ヨンファに八つ当たりのように胸倉を締め付けつつ、
――ググッ……!!
と、首元に、具現化した【処刑用鋸】を突きつけて見せる。
そうしながらも、
「もういいわ!! 帰る!! アンタたち、ムカつくわ!!」
と、キレ気味に告げるとともに、
――スッ、コーンッ――!!
と、テーブルに叩きつけるようにグラスを置き、嵐のように去って行ってしまった。




