21 アドレナリンだったり、ノルアドレナリンだったりを
「微妙、とは――?」
ドン・ヨンファが、『微妙』との言葉に、引っかかる。
「いちおう、君も、知っている知識で思い出してごらん? だって、ギンピギンピにしろ、ジャイアントホグウィードにしろ……、触るのはもちろん、ある程度の距離、近づくだけでもアウトな植物だ」
「うん、そうだね」
「そんな、フッ酸クラスの劇薬に匹敵しながら、なおかつ、毒ガス兵器のように拡散したり……、あるいは、飛沫を浴びる可能性のあるものを、おいそれと、扱うだろうか? 特別な防護服や施設が無いと、自分たちも曝露して、自爆してしまうな可能性のある――」
「それも、そうだね……」
ドン・ヨンファが、うなづく。
「まあ、“君たち”のような、特殊能力であったり、異能力で、特殊な体質を獲得しているとかなら別だけど」
「おっと……! それこそ、そうだね」
ドン・ヨンファが、おどけてみせる。
また、ノア・ネルソンが、
「まあ、話を、すこし戻すと……、そのような、裏の人間たちが裏の人間同士と“やり合って”いる――、つまり、潰し合っているくらいならいいんだけど……、問題は、“そう”ではなくて、有名であれ無名であれ、一般市民を標的にしたところなんだよ、ね?」
「ああ、そのとおりだよ」
ドン・ヨンファが、答える。
また、ノア・ネルソンが、
「すると? 犯罪組織どうしの報復だったり、もしくは、個人の怨恨といった、極めて“純粋”な動機、理由ではなくなるかもしれない――、ってことだよね? 今回の、事件は」
「“純粋”、ねぇ……」
と、ドン・ヨンファが、ノア・ネルソンが口にした言葉を、反復してみた。
まあ、言わんとしていること、ニュアンスは、わかる――
自分たちが過去に扱ってきた範囲の、奇妙な案件や事件においても、おおよそ理由不明というか理解不能な動機のものも、少なくない。
何と、言うべきか――?
今回の、一連の“茶会”の件は、猟奇モノに出てくるような、快楽殺人者というか、愉快犯といった類のような人間によるものなのだろうか――?
“そうしたもの”に比べれば、ノア・ネルソンが言うような、“利害関係や怨恨による犯罪”というのは、同じ“悪”は“悪”だとしても……、確かに、動機としては“純粋”とは言えるかもしれない。
そう、ドン・ヨンファが思考していたところ、
「――ちな、みに……、この件で、共通点とかは? 何か、無いのかい? ヨンファ」
と、ノア・ネルソンの、尋ねる声がして、
「あっ……?」
と、こちらの世界に戻された。
「そう、だねぇ……?」
ドン・ヨンファは天井を仰ぎながら、思い出そうとし、
「いま、判明している――、もしくは、疑わしい被害者も含めて、10人近くの人間が、この“茶会”ってのに招待されて、戻ってきてないわけなんだけど――」
とここで、被害者の可能性のある者、および犠牲者と確定できた者たちの情報を出して、話してみた。
マー・ドンゴンたち、警察から手に入れた情報もあり、あまり関係者外に話すことのよろしくない情報もふくめながら。
そうして、ひととおりの情報を話すと、
「ふ~ん……。例の、先日、『招待状が届いた』と、SNSに載せてた半グレ実業家……、それから、昨年引退した女子スポーツ選手と……、それから、元特殊部隊経験者のトレーニングジム経営者に、女流作家……、はたまた、中には猟奇的犯罪の被疑者もいるかもしれない、と……。まあ、なかなか、色々といえば、色々な“招待客”たちだね」
と、話の聞き手の、ノア・ネルソンがそう言った。
「あっ……? 喋っちゃったけど、さ……? 本来、内緒めの内緒の話だから、ね。まあ、今回は、君に情報を貰っているわけだけど……」
「大丈夫だって。君の、その辺のことは、ちゃんと承知しているよ」
と、いまさら「うっかりしちゃった」との顔するドン・ヨンファに、ノア・ネルソンがそう答えた。
また、話を続けて、
「まあ、しかし……、皆、中々、何か共通点が無さそうといえば、無さそうな招待客――、いや、被害者たちだよね」
「そう、なんだよね……」
と、ドン・ヨンファが相づちし、
「まあ、だけど……、元特殊部隊に元女子スポーツ選手に、昨日さらわれたドラコンだったかな? 彼も、確か、以前……、格闘技をやってたとか、だったよね?」
「うん、そうだよ。何だい? その、スポーツが、共通点か、何かだと思うのかい? ネルソンは」
「いや、何となく、言ってみただけかな? まあ、明らかに、“そうじゃなさそう”な被害者もいるし……、ただ、その……、何だったかな? アドレナリンだったり、ノルアドレナリンだったりを……、“そういった人たち”ってのは、一般の人より、多く出せそうでないかい?」
「アドレナリン、ノルアドレナリン、か――」
と、ドン・ヨンファが反芻するように、出てきた単語を口にしてみた。




