13 バナナのように有用なものか、単に珍しいものか、あるいはギンピ・ギンピのように危険なものか
「ふ~ん……」
と、ノア・ネルソンは、しばし眺めてみる。
そして、
「――これは、神経伝達物質の、化学式かな?」
と、ピンときた。
「ああ……。君のほうが詳しいだろうけど、ギンピギンピって、オーストラリアにヤバい植物があるよね?」
「ああ……、あの、熱した酸でもかけられて、グラスファイバーで突き刺さされるような、地獄のような激痛が、数か月続くっていう――、触っただけでも“ヤバい子”でしょ?」
と、陽気に話すノア・ネルソンに、
「……」
と、ドン・ヨンファはすこし戦慄し、沈黙する。
また、ノア・ネルソンは続けて、
「ウチや、ウチの商売敵もね……、モノ好きの客のために、たまに、扱うこともある――」
「モノ好きな客、ねぇ……」
「俺の母国イギリスにも、そんな、モノ好きの侯爵がさ? 毒草を集めたガーデンを、造っただろ?」
「ああ、聞いたことあるよ。その話題は――」
と、ドン・ヨンファは相づちした。
その英国の伯爵のガーデンに、ギンピギンピなどのヤバい植物があること――
まあ、これが関係するかは定かでないが、数千キロ離れた南半球の原産地から、植物を移動させる業者やビジネスというのは、存在する。
まあ、その植物というのが、バナナのように有用なものか、単に珍しいものか……、あるいはギンピ・ギンピのように危険なものかは、置いておき。
ノア・ネルソンのように正当な、表の商売として行っている事業者がいるということは、当然として、
「まあ、それで……、いちおう法律に基づいた取引はさておいて……、違法の、闇の取引というものについては? 実際、どうなんだい?」
と、ドン・ヨンファは、その辺の事情が気になった。
「ああ……。ヨンファの想像するとおり、“ある”よ……」
ティーカップを手にしながら、ノア・ネルソンが、意味深そうに答える。
「……」
「……」
ふたりはともに、沈黙する。
後ろでは、沈黙の間、水槽の流水の音とともに、イシモチが気ままに泳いでいながら。
沈黙を破って、ノア・ネルソンが、
「話を、先に進めようか? ヨンファ、君は――、君たちは、その、ギンピギンピやジャイアントホグウィードといった、触っただけでもアウトな植物の“裏でのやり取り”っていうのが……、例の“茶会”に関して、何か、ヒントになると考えているんだね?」
「ああ。そのとおりだ……。まあ、その他の毒や劇物も、恐らく“茶会”でふるまわれているんだろうけど……、とりあえず、植物に絞ってね」
「分かった。この件に関して、知っている限りの情報は、君に教えるようにするよ」
「ありがとう。助かるよ」
ドン・ヨンファは、礼を言う。
「まあ、こんど釜山に遊びに来たときは、夜飲み行くのに付き合ってくれよ」
「OK」
と、ふたりは言葉を交わしつつ、
「ところで? また? 何で、君たちは、こんな事件に興味を持って……、力を入れて調べようと思ったんだい?」
と、ノア・ネルソンは、改めて興味を持ったように聞いた。
「ま、あ……、変わったことを調べるのが、好きなんだろうね……。ウチの、集まりは」
ドン・ヨンファは、パク・ソユンに招待状のことは、まだ隠す。
「へぇ……」
と、相づちしながら、ノア・ネルソンは空になったティーカップを置いた。
また、ドン・ヨンファはスマホを取り出して、画面見せる。
「ん? 何を、視てんだい?」
「ああ、いま、ソユンが動画配信しててね」
と、そこには、エレガントな春のファッションで、可愛くもイカしたDJプレイをする、DJ・SAWこと、パク・ソユンの姿があった。
「ああ、ソユンか。相変わらず、イカした子だね」
ノア・ネルソンが、言った。
彼も、パク・ソユンとは面識があった。
「彼女も、メンバーだったよね? その、君たちの探偵団の」
「うん。そうだよ」
「彼女、ポーカーとか、好きなんでしょ? こんど、三人で、いっしょにカジノに行こうよ」
「ああ、いいね」
と、軽い会話を挟みつつ、
「それで? 彼女が、ソユンが……、どうしたんだい?」
とここで、何か察したように、ノア・ネルソンがドン・ヨンファに聞いた。
「ああ……。ノア、たぶん、君は、察しっちゃたよね」
「……」
と、ひと呼吸おいて、
「そう……、ソユンに、例の、招待状が届いてね」
と、ドン・ヨンファは、おそるおそる打ち明け、
「……ん、ふ」
と、ノア・ネルソンが、それを受けとるように、相づちした。




