スロイサーナ
何事も無く夕方、僕達はスロイサーナ領へ着いた。
屋敷の前には両親と使用人が並んで僕達を迎えてくれる。
僕が先を歩き両親の前まで来た。懐かしい。
「ただいま」
「お帰り」父上
「お帰りなさい」母上
「「「お帰りなさいませ。クロード様」」」使用人
両親にはクラリッサ先輩の婚約の事、その為スロイサーナ領で一時身を隠す話は義兄上から連絡済みだ。
「皆様、ようこそおいでくださいました」
「いらっしゃいませ」
「「「いらっしゃいませ」」」
「お世話になります」
クラリッサ先輩が一歩前に出る。
すると両親や使用人からお祝いの言葉がかかる。
「クラリッサ・ハイダミオ様、此度は御婚約おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「ありがとうございます」
クラリッサ先輩が少し照れて返事をした。
後で、
「あの時は不意打ちだったから照れてしまったわ。本当は毅然とした態度でないと駄目なのよね。貴族って面倒よね」
と話していた。王太子妃ともなるとはらの探り合いが凄いんだろうな。
気心の知れた生徒会の皆とここにいる間は気持ちを楽にして過ごして欲しい。
護衛や侍女、我が家の使用人が荷物を運び入れている間、僕達は応接室でお茶を飲み休憩をする。
「改めまして、ようこそスロイサーナへお越しくださいました。私がこの領地を預かっておりますタイカナイル・スロイサーナです」
「ルイズ・スロイサーナです。辺境故、道中大変だったでしょう」
父上、母上が挨拶をする。
クラリッサ先輩を筆頭に皆が自己紹介と挨拶をする。
「本日から7日間はこの屋敷には他の貴族の方はいらっしゃいません」
「7日?私達だけなのですか」
「はい。滞在が延びた時の予備日です」
サリカが驚いて父上に聞く。話を遮ったので罰が悪そうだ。小さな声で
「すみません」
と言ってソルティーに肩をたたかれていた。
「ゆっくり過ごして頂けるよう貸切になっております。気兼ねなく滞在して頂きたいと思っています」
補足。
湯治場は3カ所あり全て男女別。
一の湯・平民も気軽に入れる大浴場
領民や、領内の宿屋に泊まるお客様用。
二の湯・裕福な平民や気楽に楽しむ貴族用。
領内の宿屋に泊まり敷地には門番のいる湯治場
三の湯・貴族用
スロイサーナ家に客人として宿泊。
湯治場の入り口まで馬車で乗り入れ可能。
受け入れに対して選別有
スロイサーナ家は右側が客室、左側が家族が住み執務をしている。
客室は一階貴族家の護衛や御者などの使用人用の部屋や食堂、風呂など生活出来るようになっている。
二階は三階は客室が10室。
今回は二階に男性、三階に女性だ。
高位貴族が突然客として来ても部屋が無ければ領内の宿屋へ泊まって貰うし予約は半年以上先まで埋まっている。
例外は王族やジル義兄上やユリウス義兄上。左側には特別室がありそちらに泊まって頂く。
この辺りの事は臨機応変に対応する。
各自の部屋に荷物が運び込まれ夕食まで休む。今回は僕も生徒会の一員として客室に泊まる。
一部屋に一人宿泊中の専属として男性には侍従、女性には侍女がつく。僕に付いたのは幼馴染みのヤーンだ。
「侍従見習いのヤーンです。よろしくお願いいたします」
「ヤーン久しぶり。いつから屋敷で働いているの」
ヤーンは僕が王都へ行く前は宿屋を営んでいる両親を手伝っていた。
「春からです」
「もっと今までみたいに普通に喋ってよ」
「今は仕事中なので…」
「そうか。そうだね。僕がここにいる間で話をする時間があるかな」
「侍従長に許可をお願いしてみます」
ヤーンは侍従の態度を崩さなかった。主従なのだから仕方がないけれど小さい時から一緒に遊んでいたから寂しく思う。
夕食は両親と生徒会10名で食べた。話も弾み楽しく過ごせた。
明日は湯治場に行く話をして皆部屋に戻る。
僕とネルソン先輩は父上と話をする為に残った。
「ユリウス殿から手紙をもらっていてね。ユリウス殿が認めたなら私は問題無いと思っているよ。ただね、ネルソン君、君は相当優秀らしい。しかも実家は伯爵家だ。王宮からも誘いがあったんだろう。本当にうちで働きたいのかい。御家族は反対していないのかな」
「はい。父も了承しています。スロイサーナ領での仕事はやりがいがあると思っています。
「見た通りここは辺境だから王都のように華やかでは無いけれど大丈夫かな」
「大丈夫です。私は、ここで開拓や領の発展の進める手伝いをしたいと思っています」
「そうか。そう言ってくれるのなら学園を卒業したらこちらに来てもらい領地の仕事を学んで欲しい。ゆくゆくはクロードの側近になってクロードを助けて欲しい。期待しているよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「ネルソン先輩、よろしくお願いします」
ネルソン先輩が学園卒業後スロイサーナで働く事が決まった。




