頑張れコントラン
イーサン王太子殿下婚約。お相手はハイダミオ公爵令嬢クラリッサ様。
王宮から王太子の婚約が発表された。
あっという間に王都中に広まり、貴族は領地に連絡し、行商人は旅先で話をする。
一月もすれば王国中の人々に知れ渡るだろう。
ハイダミオ公爵家には来客が訪れ祝いの品物が引っ切り無しに届いていた。
貴族も平民も王太子殿下婚約の話が挨拶代わりになっている。
王都中が祝福と喜びで大騒ぎだ。
王宮ではイーサンが会う人会う人に祝辞を受けていた。
「ふぅ」
執務室のソファに座るなりため息を吐く。
「殿下、おめでとうございます。心境は如何ですか」
「おめでとうございます。殿下、まずお茶にしましょうか」
「おめでとうございます」
タイロンとユリウスとコントランは今日の事を知っていた(というよりも今日の計画はイーサンとその側近が言い出した)のでイーサンが今日は挨拶と疲労で仕事にならない事も予想出来ていた。
「今は少し時間がありますから休憩してください。大会議にはまだ時間があります」
大会議には王都の貴族が集まる。領主が王都にいない場合家族が、貴族家の者が誰も王都にいない場合は親族や知り合いの貴族家の者が伝達する旨を申請する。
必ず全ての貴族家に連絡が行く方法だ。
「覚悟はしていたがこれほどだとはな」
「皆が待ちに待っていたから仕方ない」
「クラリッサをスロイサーナ領へ行かせて良かった」
「ハイダミオ公爵家も大変だそうですよ。入れ替わり立ち替わり色々な人が訪れているそうです」
「コントランは、その、大丈夫か?」
イーサンの言葉にコントランは困惑顔をする。
「はは、シャーリンの事は考えないようにしています」
コントランの妹シャーリンは王太子妃になる事を熱望していた。
トントントン、護衛が大会議が始まると告げたため4人は会場の大広間へ向かった。
大広間では国王がイーサン王太子とクラリッサ・ハイダミオ公爵令嬢の婚約を発表した。
大広間に集まった貴族達は皆口々に祝辞を言い今後の話に花を咲かせていた。
大会議が終わり皆が帰路に着く。今日はイーサンも王(父)と側妃(母)と夕食を取る約束があるので仕事も早めに切り上げ側近達も家に帰る。皆、今日の話を家族とするのだろう。
そんな中、王宮のとある部屋には部屋の主人とその息子が向かい合っていた。主人を慮ったのか主人の前では喜色を出せないと思ったのか、それとも主人が息子と二人になりたかったのか、侍女も部下も部屋にはいなかった。
「父上。とうとうこの日になってしまいましたね」
コントランが父財務大臣マキアリア侯爵に声を掛けた。
「あぁ」
マキアリア侯爵は力無く答えた。
財務大臣のマキアリア侯爵も、イーサンの側近のコントランも以前からイーサンの婚約の話を知っていた。
マキアリア侯爵家としては国の為にも喜ばしいと思っている。勿論反対などしない。但し侯爵家としてはである。
何故ならマキアリア侯爵次女シャーリンが王太子妃を望んでおり、彼女の性格上、この婚約の話を聞いて大人しくしているとは思えないのだ。
とはいえ、対外的に何かするわけでは無く家族や使用人に怒り、喚き、怒鳴るのだ。
シャーリンが知った時、屋敷の中がどうなるのか考えたくも無い。
「コントラン、先程屋敷から手紙が届いた。シャーリンが殿下の婚約の話を聞いてしまったそうだ」
「えっ」
屋敷の者には婚約発表の話は極秘だった為にしていなかったが皆、シャーリンの望みを知っており性格もわかっているのでシャーリンの耳にこの話を入れるとは思えない。
「どうして?」
「サラ(マキアリア侯爵夫人)の所に来ていた宝石商が『王太子殿下の結婚式の時の宝石は自分の所で』とサラとシャーリンの前で言ったそうだ」
なんて事をするんだ。
「今、屋敷はどうなっていますか」
「シャーリンは怒鳴り散らして、物も投げて、とにかく酷かったらしい。今は部屋に一人で篭っている。恐ろしくて誰も近づけないらしい」
「母上もですか」
「サラはシャーリンのあまりにも酷い行動を見て気絶してしまった。今は目を覚ましているが横になっているようだ」
「その時の様が目に見えるようです」
「それで、私達に早く帰ってきて欲しいと書いてある」
「「はあぁ」」
二人でため息を吐く。
「帰らないという選択は」
「ないな」
「こんな事を言うのもなんだが、おそらく私よりもコントラン、お前の方がシャーリンからの詰問があると思う」
「そうでしょうね。殿下の側近ですから」
「すまないな。頑張ってくれコントラン」
侯爵家に戻った二人は家について早々シャーリンに捕まり、泣きながらの罵詈雑言を浴びて夕食どころか着替えも出来なかった。
侯爵は途中で来客があった為解放されたがコントラン一人となった時、シャーリンはコントランに『側近なのに』『側近だったら』『側近として』と、側近なのだから今回の婚約を止めるべきだった。と言い続けた。
シャーリンが泣き疲れて寝てしまうまで続き、コントランが夕食を食べられたのは日が変わる頃だった。




