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『Rocket Rock』──収容人数100人。近畿で5本の指に入る老舗ライブハウス。
「ぶっつけ本番だけど、俺達なら余裕だろ?」
ステージの脇で、メンバーと右手を重ねた。満員御礼の中、初めてのワンマンライブが幕を開けようとしていた。
「何やねん。緊張してんか? 駿」
「するわけない。余裕だよ。ていうかすでに暑い」
「駿、もうずっと馬マスクの可能性あるよね」
「心? タイミングがわからない。素顔をさらけ出すタイミング」
「私以外、全員被ったら?」
「心ちゃん、ボーカルは?」
「勇気はいい。駿、健ちゃん、幸太パパはこれからマスク!」
「いやいや、健ちゃんに呼び方変わってるやん」
「とりあえず幸太に届くように! ファンに届くように! みんなっ! 頼みますっ!」
右手を突き上げて、メンバー全員で叫んだ。幸太の親父さんは胸元のネックレスを握りしめていた。
「この中に幸太を入れてきた……」
銀色の小さな小瓶を見せてくれた。アンティークな感じのお洒落な小瓶だ。
「いいすね! 俺も今度欲しいす!」
「是非! 幸太に下手な演奏を見せられないから、肌身離さず持つことにしました……」
「私も欲しい! 6人で5コイチや!」
「おやっさん! 俺にも頼んますわ」
「僕にも後でよろしくお願いします!」
「はい! 今日は何十年ぶりか忘れたぐらい久々のライブですが、1曲目から飛ばしていくんでどうぞよろしくお願いします!」
「行きますかっ!」
客席から声援と手拍子が大きく鳴り響いた。
心が言った──『6人で5コイチ』だと。幸太はいつでもそばにいる。いつものように、ベースボールキャップを斜めに被って。
「駿さん! 頼みますねん!」
メンバーがステージに向かい、一瞬一人になったステージ脇で、後ろから声が聞こえた気がした。
「いつもどおりやるだけさ。ていうか、相変わらず関西弁下手だな」
後ろは振り返らず、ファンの待つステージへ向かった。




