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Negotiation to Ms. 中編

「…………処罰……?」


ゾワッ!!と。

息をすることも忘れ。

恐怖に呑まれることも忘れ。

武藤銀次は、その一言を告げた。正確にいえば、それを理解する為にあえて言葉にしなければならないと無意識下で理解した上での行動。自らの声が脳髄に響き、武藤銀次は完璧に状況を把握した。


リリアネス・フォン・アルベストールはクロだ


硬直が解ける。

銀次はリリィを背に隠したまま、自分の胸元に右手を突っ込む。そのまま力任せに、銀色の十字架を鎖ごと引き千切る。戦闘準備、完了。

手加減などしない、する余裕も無い。

針川聖学習院は完全に信用できない。クロと断じられた以上、リリィをどう逃がすかーーーーーー


(限定解除(ハインド・リッヒ)、40%!!)


武藤銀次は、何故か。

リリアネス・フォン・アルベストールのなんなのか。

知らない。知らない、知らない。けれど、彼女が殺されるかもしれないという事実を、武藤銀次は看過出来ない。

歪な、ゆがんだ、情愛。


(初っ端から、飛ばすッ………!)


銀色の十字が唸る。

武藤銀次の殺意が膨らむ。

今や完全に彼は、守威礼威以外目に入らない。

ーーーーーそこに、力関係の構図が抜けていることを除けば、武藤銀次は正しい。

たが、




「遅いですよ」




逡巡。

その一言で、武藤銀次は、違和感に気付いた。

自分は誰を見ていた?

決まっている、理事長本人だ。

ならば、その理事長はどこにいる(・・・・・)

煙をまいたような不思議な感触のあと、



「ーーーー切り札を早々に晒すなとは、倣わなかったのですか」




「!! がっ?!」



ふと、右手に灼熱が走った。

痛みの麻痺した武藤銀次にもわかるほどの、強い痛み。

確認すると、同時。

彼は、遅い、というその言葉の意味を理解した。


右手、肩口から、指先まで、銀次の右腕そのものが。


そこには(・・・・)無かった・・・・



「ぐ、なぁッ………?!」


「ふふ、本調子でも無いのに私に挑もうなんて。向こう見ずな若者は嫌いではないけど、度が過ぎると間抜けなだけよ」


…………くそったれぇ!

守威礼威の声を聞きながら、武藤銀次は思った。

右腕を持っていかれた。それも、祝福(ハニーブラッド)ごと。

銀次の戦闘において、要であるその異能モドキ。即ち、敗北である。

いつ?いつだ?

十字架を取り出した瞬間ーーーあった。

発動の瞬間ーーーあった。

その直後にはーーー無かった。

馬鹿な、コンマ何秒の間の隙だったと言うんだ。


「ギ、ギンジッ!」


「来るなッ!」


リリィが不安気な声をあげる。銀次はそれを全力で制止する。

追撃がこない。つまり、そういうことか。

向こうには、敵対の意思がない。

俺が、ひとり先走っただけか。


憎々し気に顔を歪めると、守威礼威は強引に千切りとった銀次の腕をお手玉のように弄びながら、言った。



「やれやれ、話の途中で飛び掛ってくるなんて、せっかちにもほどがありますねえ。落ち着いてくれましたか?」


「………片腕とられて、落ち着いてられる奴がいたら見てみたいね………」


激痛に顔を歪めながら、不覚にも銀次は納得していた。

敵意が見えなかったのは、文字通り敵意が無かったからだ。ひとり銀次が先走った結果ということ。

そういえば昨日も、櫂渚梁に片腕を切断されたな、と思い出す。

武藤銀次の有効な対処法とは、それなのか。なるほど、実にわかりやすい。

異能での防御が成立する前に攻撃してしまえば、通常の耐久度しか持たない生身の身体が持つはずがない。


「……………腕を、返せ」


「返して下さい、ですよ武藤君。私は貴方の先生ですから」


「ッ…………! 返して、下さい……」


「よく言えました、はい」


ぽい、と無造作に放られる。

銀次は左手でそれをキャッチし、ロザリオといっしょに切断面を貼り合わせる。

ロザリオがなくても再生はするが、使用した方が効率は段違いに良い。

ズブブ、と気色の悪い音をたてて癒着と再生が始まる。


「ぐっ…………!」


「ギンジ……………」


「…………大丈夫、リリィ」


虚勢を張ろうとも、状況は変わらない。

守威礼威は、どんな思いで銀次を見ているのか、わからない。

そもそもとして、何故銀次が処罰されなければならないのか。

彼女は、悠然と口を開いた。


「いま、貴方が何故この場所に呼ばれたのか、わかりますか? 武藤君」


わかっていたら、こんな事態にはなっていない、と銀次は思う。

処罰、というのは針川聖学習院の隠語で「処刑」そのものを表す。

だからこそ、リリィがこの場から逃げ出す為の時間を稼ぐ必要があった。失敗に終わりはしたが、銀次が臨戦体制に入ったのはそれが理由である。

俺たちを、殺すためにここに読んだのだろう。

銀次はそう思っていた。

その考えは、ある意味では正しかった。


「……まあ、武藤君に聞くよりは、貴方に聞いた方が早いかもしれませんねえ。リリアネス・フォン・アルベストールさん」


いいえ、こういった方が良いでしょうか、と守威礼威は言った。

嫌な言い方なのに、優しさに溢れた不思議な表情のままに。




「一晩で十万人を殺した、腐敗の姫君様?」



それとも、と彼女は、言った。



「あるいは、こう言った方がいいですかねぇ。第一真祖の、後継者……………武藤君、貴方の愛した少女の、忘れ形見ですよ」




ーーーかつて俺の殺した、その少女か。

今年はありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。


お年玉に感想下さい。

シリアスばっかでごめん。


なんにも考えずに書くと絶対誰かの腕が飛んでるんだよね。

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