第16話 番外編 そしてそれから。
「ところでオレリア、あの籠は何に使うのさ?」
次の春に帰ったときにはロープにつるされた篭はまた増えていた。倍以上だ。
冬の間、仕事のない領民から麦のストローで編んだ籠を買い取っているとは聞いていたが。
「うふふっ、さすがのハインツも思いつかないのね?ヒントは…あなたの勤め先よ」
「は?王城で?売るの、これ?」
「うーん、ちょっと違う。二つ目のヒント。私の親友」
「エルザさん?が買うの?」
「ちがーう。良く乾かしたこの籠に、紺色のリボンを結んだら完成です」
「?」
去年の小麦は豊作だったし、薪も充分用意できて、心配なく冬が越せた。
森で放飼いしている豚は、冬にさばいて燻製にされて【レオニー森の豚】という名前まで付けて、王都にいる俺のところにも届いた。脂身部分も美味しい豚だ。
エルザさんの家にも届いていたらしく、殿下も気に入ったようだ。
サンプルをあちこちに配ったらしいが、アベル子爵の商会が取引先として手をあげたらしい。
「あのタヌキオヤジには気をつけろ?いいな?」
俺がそう言ったら、からからとオレリアが笑った。
「大丈夫。儲かるところとしか取引しないから」
僕はオレリアの部屋で(まあ、もともと続き部屋なんだけど)久しぶりに会った奥さんを膝に乗せて、しつこいと嫌がられながらキスをする。(ひどくない?)
借金は父親の愛人の新居や宝石ををたたき売ったり、裁判で少しは取り戻せた。もう少しだ。
今、王都は第一王子殿下の結婚式を翌年に控えて、景気がいい。新しく屋敷を整えるところも多いので、うちの領からの高級木材も飛ぶように売れている。ただ、木を切り過ぎるわけにはいかないので出荷数量をセーブしているのが逆に高値を呼んでいるようだ。
「結婚式よ!アベル子爵家の会頭は一発で分かったわよ?」
「……結婚式?」
「そう。殿下とエルザの結婚式の祝賀パレードの花籠にするのよ。まとめてさばいてくれるってもう契約もしたのよー!紺色はうちの国の王室のロイヤルカラーでしょ?」
(…結婚式…)
「それでね……」
俺とオレリアは婚姻届けだけで結婚してしまった。指輪は贈ったけど。
忙しかったから失念していた。俺は…なんて甲斐性無しなんだろう…。
「聞いてる?ハインツ?」
「うん。…ねえ、オレリア。1年、いや2年待って」
「ん?」
首をかしげて俺を見る膝の上の奥さんを抱きしめる。
「そんなに盛大にはできないけど、俺たちも結婚式挙げような」
「…ハインツ?」
オレリアに似合うウェディングドレスを作ろう。
俺の奥さんがどんなに素敵な女性なのかを、みんなに見せてやろうじゃないか。
その視線が興味本位とかじゃなく、羨望に変わるぐらいの最高のドレスを!
「待って、ハインツ。二年後でもそんなに余裕ないんじゃない?」
「え?俺、頑張って働くし。オレリアと一緒にいたいけど単身赴任で頑張るよ」
今だって帰って来れるのは3か月に一度ぐらいだ。新婚なのに。
いきなりシビアなことを言いだした奥さん。結婚式は女の子の憧れなんでしょう??
「あ…あのね?ハインツ…子供が出来たのよ」
「えええええ!やった!じゃあ、今、ここにいるんだね?」
思わずオレリアのお腹をさする。俺たちの…子供かあ。
「じゃあ、無理しちゃだめだね。ばあやによく言っておくから。なるべく俺も帰って来れるようにするからね?」
「……」
「名前も考えなくちゃね?どっちが産まれてもいいように、女の子用の名前と男の子用の名前と……あと、産着か。あとは何がいるかな?」
「…ハインツ?」
オレリアの顔がほんの少し暗い気がして…腰に手を回して抱き寄せる。
「心配?俺…戻って来ようか?殿下に言って。それともお義母様に来てもらうか?」
「そうじゃないの…ねえ、ハインツ」
「ん?」
「…もし、女の子で、私に似ていたら…どうしよう」
「君に似ていたらかわいいと思うよ?何が心配?」
「…だって…胸が大きくて苦労するかも…私みたいに」
素敵なことじゃないか!と言いそうになって、言葉を飲み込む。俺はそのまま、まるごとオレリアが好きだけど、本人はいらない苦労をしてきたんだった。
「いいか?オレリア、よく考えてみな?もし俺が背が低くて禿だったらどうする?」
「え?」
「そしたらお前は俺と結婚しようなんて思わなかったのかな?」
(それはそれで、ショックだけど)
「ハインツ…」
「豚みたいに太ってたら?…お前は俺が見目がいい男だから結婚したのか?」
くすくすっ、とオレリアが笑う。
「俺はまるごとお前が好きだぞ?もちろん、この大きな胸も好きだ。小さかったとしても好きだ。でもそうしたら…俺たちは知り合ってもいなかったかもな?」
俺の首に手を回した奥さんと顔を見合わせて、笑いあった。
「まあ、なんとかなるんじゃないか?な?」
*****
長男は俺に似ていたが、ぐれずに素直に育ってくれた。
奥さん似でグラマラス美人に育った長女が、エルザさん、王妃に似て背が伸び悩んだ幼馴染の第一王子に執着されるのは……また後日のお話。
梅雨明けしたら猛暑ですね!!!
皆様 熱中症にお気をつけて!
塩分補給はやはり…キュウリに味噌、ですね。(笑)
いつも誤字脱字修正、感想、ありがとうございます。




