外伝 閑みこ 後編
あれから毎日、上川さんとお昼休みを共にしている。
virtualライバーや絵の話をしているが、全く尽きそうにない。
「上川さんは、高校決まった?」
「……」
ふと思い聞いてみたのだが……
どうしたのだろう……?
上川さんは俯いてなにも話さない。もしかして聞いてはいけなかった...?
「ご、ごめん!言いたくなかったら……」
「……紫苑でいいです」
一瞬、なんのことか分からなかった。
「いいの!?それじゃわたしのこともみこって呼んでね」
つまり、仲良くなれたって事なのかな?ちょっと嬉しい。
「わたしは、水縹学園に行こうと思ってます」
「水縹学園?」
そこは確か、最近できたばかりの技術系を主に育てる学園じゃなかったっけ?美術や芸術を代表として、学園生一人一人のあらゆる個性を伸ばし、育てる学園。
「はい。そこで、絵を描きたいと思いまして……」
紫苑には、とてもいい環境に思える。
「いいと思う!紫苑にはピッタリの場所だよ♪」
そうか。紫苑もこの先が決まっているんだ。嬉しさと同時に寂しさも感じた。わたしだけ取り残されているようなそんな感覚……
「みこ……は決まってるのですか?」
少したどたどしい紫苑が、少し可愛らしいなと思う。
「わたし実は決まってないんだよね。どうしたらいいか分からなくて……」
わたしは俯いた。やりたいことはある。
その為に普通の高校を出て、大学に行けばいいとは思っていた。ただ、どこがいいのかまで決められないでいた。
「では、わたしと同じ水縹学園に行くのはどうですか?」
「え!?わたしが!?」
あまりのことに目を丸くした。わたしがあの学園に?どうして……?
「そこで、virtualライバーとして配信してはどうでしょう?」
「え!?」
わたしがvirtualライバー!?確かに興味が無いと言えば嘘になる。けど、このわたしがそんなこと本当にできるの……?
「私と違って、あなたは話すのが上手です。私には無いものです。そこは誇ってもいいんじゃないでしょうか。それにあなたのやりたいことも、そこで出来ると思います」
わたしのやりたいことは、紫苑に少しだけ話していた。自分の好きなことをやって、そしてその先も目指す紫苑なら、わたしの話も聞いてくれると思ったからだ。
案の定親身になって聞いてくれた。まぁ、ただ聞いてくれただけだったけれど。
「……わたしに出来るのかな……」
「あなただから提案したのです。もしやるのであればもちろん、わたしも陰ながら支えたいと思います。」
その紫苑が、珍しくこんなに喋ってくれたんだ。少し考えてみようかな。
「……わかった……考えてみるよ!」
予鈴が鳴ってしまい、二人は教室へと戻った。
その晩、virtualライバーのことをずっと考えた。ネットだけれど調べもした。何に気をつけなければならないのか、どうやってなれるのか。
今まで、視聴者として見てきたvirtualライバーを教材にした。どうやったら視聴者を惹き付けられるのか。
そして最後に、本当に自分に出来るのかを……
「紫苑!わたし水縹学園に行くよ!そしてvirtualライバーになる!」
紫苑は黙って頷いた。
試験も難なく合格し、無事に紫苑と共に水縹学園に入学することが出来た。
紫苑は絵の勉強を、わたしはvirtualライバーとして、virtual部も創設した。
まだ部員二人だけだけれど、これからどんどん増えていったらいいなと思う。みんなで盛り上げて行ければきっと良い配信もできるし、きっと楽しい。
わたしが目指すのは『会いに行けるVTuber』。その第一歩として今日、とある会場でイベントを開催することになっていた。
わたしは電車に乗って目的地まで目指していた。
そんな時、離れたところから声が聞こえた。
「ねぇ、聞いてよ!今日『閑みこ』がイベントするんだって!なんで今日学校なのー!」
突然名前を呼ばれてドキッとした。え?身バレしてないよね?大丈夫……だよね?
「もうつづりほんと好きだよねー」
「好き!可愛いもん!わたしもあんなvirtualライバーになりたいっ」
「はいはい、わかったから」
女学生二人が、スクールバッグを片手にそんな話をしていた。
よかった。バレてはなさそう。
でも、そっか…わたしにも配信を楽しみにしてくれているリスナーさんが出来たんだよね。
イベントに参加できなくてあんなに悲しそうにしてくれるなんて。
夢のようだなと思った。それと同時にこれからもそんなリスナーさんの為に頑張っていきたいと心に誓った。
「入部させてください!」
ここに入学してから一年が経ち、今日は新入生が入学する日。当然、virtual部も部としての宣伝をする。
その為に、わたし『閑みこ』は、この配信部屋で配信をし終えていた。だが、人が集まっている所へわざわざ出ていくのは、少し危ない気もする。
というわけで、紫苑にはとっても申し訳ないと思いつつ、ある程度人が居なくなるまで待っていた。
そろそろ出てもいいかなと思い、扉を開けようとすると一際大きい声が聞こえる。
わたしは、思い切って扉を開けた。
「すっごい大きな声が聞こえたよ?」
そこに居たのは、紫苑と一人の女学生だった。
「すいません……その……」
その女学生は、どうやら新入生のようだった。髪は短く、身長は自分より少し高いくらいだと思う。
どこかで見たことがあるような……?もしかして、あの時の子かな……?
わたしは心做しか嬉しく思った。わたしの配信を見て、自分もvirtualライバーになろうと、ここへ来てくれたのだから。
部員が三人に増えた。これからはこの三人で配信を盛り上げて行ける。コラボ配信だって夢じゃない。
この先がとても楽しみだ。
わたしのやりたいこと、地域の活性化に向けてこれからも歩み続ける。一歩一歩、少しつづ歩いていく。
『閑みこ』と『悠希つづり』、そして陰ながら支えてくれる上川紫苑と共に、これからも進み続ける……
読んでくださりありがとうございます!
閑みこ編はいかがでしたでしょうか?
紫苑との出会い、virtual部に入部するきっかけの物語。
そこに『悠希つづり』も加わり、これからどんなvirtual生活を送られるのでしょう♪
わたしも楽しみにしています"(ノ*>∀<)ノ
本編の方もまだ続きますので、そちらもお楽しみに♪