帝の考え
部屋に戻って綾は美夜に饅頭ののった盆を渡す。
「数が減っちゃったけどみんなで分けて食べて」
綾が言い終わる前に外から声がした。
香奈が御簾をあげて対応する。
「女御様、帝からお菓子が届きました」
綾が振り返るとお重いっぱいの饅頭が入っていた。
「美夜、これもみんなに出して、お茶も一緒にね」
美夜は笑顔で盆とお重を受け取る。
(帝、よくわかっているじゃない)
右馬頭に奪われた饅頭が倍以上になって返ってきた。
綾は美夜が用意してくれた饅頭をご機嫌で頬張りお茶を飲んだ。
弘徽殿には父の左大臣、兄の近衛大将、式部卿が
顔を合わせる。香奈は少し後ろで控えている。
「女御様、帝とお話をされたのですよね」
左大臣が聞いてきた。
「はい。それと帝に言われて右馬頭の宮中での様子も見てきました」
綾が答えると皆が一斉に綾を見た。
「まず、右馬頭の出生に関しては、先帝が密かに当時、宮中にいた人たちから情報を集めています。今までわかったことは、先々帝の周囲には元皇太后の息がかかった者ばかりで、右馬頭を産んだとされる女房、三津も皇太后の遠縁にあたるそうです」
綾の話に皆が納得する。
当時、帝は元皇太后の言いなりだった。
そのため、元皇太后は帝の言動を全て把握する必要があった。
それゆえの人員だったはずだ。
「元皇太后の縁者はすべて処罰されたのではないのですか?」
中務卿が聞いてきた。
「あの当時、あまりにも関係者が多く、重要な者を優先に処罰を課していたんです。そのため、女房たちは後宮を出されるだけの者もいたのです」
近衛大将が説明する。
「では、三津もすぐに後宮を出されるだけで何のお咎めもなかったのですね」
中務卿が呟いた。
「いえ、帝の近くにいた女房たちは一月ほど、監禁されていたはずです。上の者たちの処分が下されるまで証拠隠滅などさせないためと関係性を確かめるためだと先帝が決めていました」
近衛大将が言うと中務卿が頷く。
「確かに当時、そんな噂を聞きました」
中務卿が言うと皆が頷いていた。
「そこで、ここに書かれている者たちに当時のことを聞き出してほしいそうです」
そう言って綾は数枚の紙を出した。
「これは?」
先帝が調べた当時の女房たちのリストです。ここに書かれている者たちは一度は後宮を出されましたが再度、宮中に戻っている者たちです」
綾が言うと皆が驚きと共に紙を覗き込む。
「この者たちから当時の話を聞いてきてほしいとのことです。但し、注意が必要です。元皇太后を推していた者たちが何か企んでいる可能性を考慮するようにと言われました」
先帝が宮中のことを探っていると噂がたてば、あらぬ噂がでてくる。
そのため、帝に頼んできた。
宮中のことは宮中にいる者が調べたほうが早い。
綾が言うと中務卿がどんな話を聞いてくればいいか?と言ってきた。
「先先帝の周囲のことです。特にお住まいの清涼殿のことを詳しく」
綾が言うと香奈が白紙の紙と硯、筆を持ってきた。
近衛大将と中務卿が綾が出したリストを見て誰がどの部署にいるかを話し始める。
香奈がそれを次々に書き出していく。
一通り書き出すと皆がそれを眺める。
「中務省にもいる」
「近衛府にもいます」
「太政官にもいるぞ」
中務卿と近衛大将、左大臣も呟いた。
「とりあえず、できるところから始めよう」
近衛大将が言うとそれぞれ、自分ができそうなところの紙を取った。
香奈が残った紙を取る。
「香奈はやらなくてもいいよ」
近衛大将が言うと香奈は女房たちを総動員しますと言って笑った。
近衛大将と左大臣は納得するが中務卿は驚いていた。
翌日、左大臣がやってきた。
「女御様、マズイことになっています」
左大臣が部屋に入ってきてすぐに人払いをして言った。
「何がです?」
「昨日の紙に書かれていた人物について調べたところ太政官にいる女房ですが喜代と言って宮内省の女房として入っているようで帝の近くで事務方の仕事の補佐をしているとのことです」
左大臣の話を聞くと喜代は帝のかなり近くにいることがわかった。
「それで言うと帝との会話は全て喜代に筒抜けということですか?」
綾がどこまで喜代に聞かれているのかと心配になる。
「女御様、喜代ですが中務省のいる大録の三の姫です。以前は先右大臣の北の方の実家の左中弁の娘だったそうです。左中弁が失脚して大録に引き取られたと聞いています。あと、宮中に戻る時、右大弁の推薦があったと証言がとれています」
香奈が言ってくる。
女房たちを総動員して調べた結果だ。
綾はもう、これだけで気が重くなってきた。
午後からは中務卿がやって来て調べたことを報告してきた。
それによると中務省にいる女房は陰陽担当者の補佐をしている女房だとわかった。
更に香奈たち女房が調べたところ、この女房も右大弁の推薦で宮中に入ったことが判明した。
その後、近衛大将がやってきて報告を聞くと近衛府の女房もやはり右大弁の推薦で宮中に入ったことが判明して、内裏の警備を担当官の補佐をしていることがわかった。
ひとまず、綾は帝の判断を仰ぐことにして翌日、清涼殿に向かう。
綾が清涼殿にいくと帝と綾の一人息子の陽翔がいた。
「母上、ごきげんよう」
陽翔が気付き挨拶をしてきた。
陽翔の後ろには陽翔付きの女房、常盤が控えていた。
綾がきたことに気づくと帝は陽翔を見て言う。
「女御、陽翔に近辺に注意するように伝えていたんだ」
「そうでしたか。陽翔、気をつけなさい。何かあれば、どうするかわかっていますよね」
綾が言うと陽翔は、はいと返事をすると後ろに控える常盤も頷いていた。
陽翔と常盤が退室したあと、帝は人払いをした。
綾は昨日報告のあった内容を報告すると帝は今は様子を見ることにして、その間にその者たちを排除できないかと言ってきた。
綾は喜代という女房に気をつけるようにと伝えて部屋に戻った。
数日後、再度集まった人たちに纏めた内容を見せた。
「これでいくと三津は帝のお手つきではないようだね」
近衛大将が言うと中務卿も「産み月があいませんね」と言った。
帝のお手つきがあったとされる時期、帝は先帝の供養のため菩提寺に籠っていたのだ。
それは、帝の日誌にも書かれていたので確かだ。
そして、その間、三津は宮中にいた。
三津が宮中に残っていた時期、三津はよく寝込んでいて実家から薬が届けられていたと証言が集まった。
「実家から薬か…。中身は確認したのか?」
近衛大将が呟く。
「そこまで調べていないそうです」
美夜が情報を聞いてきた女房から話を聞いたがそこまで調べていないと言っていたらしい。
「ところで右馬頭は今、どうしている?」
綾が聞くと皆が一斉に顔を逸らした。
「何かあったの?」
香奈に聞くが香奈もいいにくそうに顔を逸らす。
「綾が持っていた饅頭を勝手に食べただろ。あの時、良智が張り倒したんだがそのまま池に落ちて風邪をこじらせたそうだ。その一部始終を見ていた護衛たちから聞いた者がやっと天罰が下ったと言いふらして宮中の殆ど人が知ることになったんだ」
左大臣が教えてくれた。
「それはきっと不名誉な話よね」
綾もあの時池で沈んでいく右馬頭を思い出し笑えてきた。
その後、三津が帝のお手つきではなかったとしたら右馬頭は誰の子か?と話題が変わり引き続き調べることになった。
それと同時に右大弁の推薦で入った女房たちの関係や排除する方法を話し合った。
「推薦を受けた者たちの父親は下級官吏たちです。娘達を宮中に入れる見返りは何でしょうか?」
中務卿が聞いてきた。
「おそらく、高位の役職を提示されている可能性があります」
近衛大将が言うと左大臣がそれだけだろうか?と言っていた。
「もし、帝が右馬頭を先々帝の子だと認めても陽翔が
います。中務卿もいます。それに血筋で言えば真貞親王もいます。右馬頭が高位に着くとは考えられないですし、高位の役職を約束できるとは考えられない」
左大臣の説明に皆が納得する。
真貞親王の母は数代まえの宮様の娘だ。血筋で言えば中務卿よりも上になる。
「それでは、今回の状況は誰が何の為でしょうか?」
中務卿が聞いた。
「帝の仰って通り、あの者たちを排除する方法を考えましょう。そうすれば自ずと見えてくるはずです」
左大臣が言うと皆がそれぞれ方法を提案した。
その方法をもとに皆ができることを纏めた。




