↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐうたら姫の後宮生活 2  作者: こでまり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

先々先帝の子

「女御様、中務卿が来られました」

御簾の外から声がした。

「どうぞ」

香奈が声をかける。

周囲の女房が御簾をあげて中務卿を招き入れる。

上座の前に用意された場所に中務卿が座ると周囲からはため息が漏れる。

元柾良親王で2年前に元服して中務省を纏めている。

その中務卿を支えるのは右大臣と右大臣のニノ姫、芽衣だ。

中務卿は香奈を見て驚いている。

「香奈殿?」

入口付近に座る香奈は人差し指を口元に当てた。

中務卿はそれを見てそれ以上は口にしなかった。

その後、中務省の報告を始めた。

「芽衣殿の資料が大変わかりやすく省内でも評判です。さすが弘徽殿女御様と香奈殿の教育の賜物だと」

「それは良かったです」

美夜が女御の代わりに答える。

上座の几帳の奥からは扇子の音がした。

「帝の様子はどうですか?」

美夜が聞く。

「今日も多くの陳情に目を通され、いくつかの命をだされました」

中務卿の報告に安堵の空気が漂う。

最近怪しい噂が飛び交っている。そのため宮中では何かあるのではないかとザワザワしていた。

その理由は先々帝の子だと名乗る康成、右馬頭だ。

二か月前に元服をして宮中に出仕するようになり、いろんなところで先々帝の子だと言いふらしている。

もちろん、帝はその話を認めていない。

ましてや、先々帝の最後まで右馬頭を産んだ女はその話をしていなかった。

その女は女御ではなく、先々帝の身の回りの世話をしていた女房で右大弁の娘だ。

帝のお手つきになったのならすぐに言えば良かったもの、あの当時は先々帝の周囲の者はことごとく厳罰になっていたため恐くて言い出せなかったと右大弁は言い訳をしていた。

それに柾良親王と直貞親王がそれぞれ母方の親戚に引き取られ、地位は親王のままだとわかると実はと言ってきたのだ。

しかし、それを証明する者はもう、この世にはいない。

帝が先帝の元帥の宮に相談すると暫く待つように言われた。

その為、しっかりと調べてはっきりするまで保留としていた。

しかし、それをいいことに右大弁と右馬頭は帝に認められたといいふらしている。

「女御様、右馬頭が来られました」

御簾の外から声がすると部屋の中に緊張が走る。

最近、毎日のようにやってきていたが会わずに追い返していた。

ところが今日は帝の命で部屋に入れることになった。

「どうぞお入りください」

香奈が声をかけると同時に女房が中務卿の後ろに席を設けるも右馬頭は自ら中務卿の隣に座った。

左右の襖からは数人の女房がそれぞれ、左右の壁際に並んで座る。

中務卿が異様な光景に疑問感じて横目で右馬頭を見て扇で口元を隠した。

中務卿は急に会話を止める。

美夜も右馬頭に声をかけない。

ましてや几帳の奥にいる女御もひとことも言葉を発しない。

香奈に至っては扇を顔の前で広げて視線すら合わせない。

右馬頭はただ、女御の部屋にいるだけの状態になった。

その様子を見て中務卿の口元が緩む。

急に静まり返る部屋に手持ちぶたさなのか几帳の奥から扇子を叩く音が響く。女御の言葉を待っていた右馬頭だが待ちきれずに席を立って、こともあろうか几帳に手をかけると同時に左右に座る女房たちが一斉に立ち上がり右馬頭に用意していた薙刀を向けた。

「なっ、何をする!」

いきなり周囲から薙刀を向けられた右馬頭が叫ぶ。

「あなたこそ何をしようとしていたのですか?」

中務卿が右馬頭の腕を掴み言う。

「女御が私を無視するから注意しようとしていただけだ!」

右馬頭が怒鳴るが誰一人、びくりともしない。

「従5位の者が女御様に注意とは笑止。己の立場を理解していないようだ」

中務卿が冷たくいい放つ。

「己の立場を理解していないのはそちらではないか?宮中での刃物は帝の命がなければ許されるものではないか。それに私に向けるとは」

右馬頭は女房たちを見て言うが女房たちは薙刀を右馬頭に向けたまま下ろさない。

「私にこのようなこをしていいと思っているのか。私が帝にればそなたたち全員、斬首にしてやる!」

右馬頭が叫ぶ。

「帝の命です。不届者が現れたら有無を言わさず切って構わないと」

それまで静かに状況を見ていた香奈が右馬頭の前に来て一枚の紙を見せた。

そこには帝の直筆で刃物の使用を認める内容が書かれていた。しっかりと玉璽も押されている。

それを見た右馬頭が顔を真っ赤にしてドタドタと部屋を出て行った。

「ふぅーう」

中務卿はため息をついた。

「中務卿、どうぞこちらに」

香奈に促され座る。

「母上から聞いていたが実際に見ると迫力あるな」

中務卿は周囲の女房たちを見て言う。

その女房たちは無言でそれぞれ奥の部屋に戻っていく。

「ところで女御様はどちらに?」

中務卿はこれだけの騒ぎになっても綾が出てこないことに疑問を感じていた。

母上から聞いていた話ではこんな時は一番に出て事の収拾をする人だと聞いていたからだ。

「女御様は帝に呼ばれて清涼殿に行かれています」

「あぁ、あの男を見せるためですね。だから帝はこの時間に私をここに来させたのですね」

「そんなカンジです」

香奈が言うと中務卿はそんなカンジ?と呟いた。

「右馬頭の出生の秘密を探る為です」

香奈が伝える。

「何処までわかっているのですか?」

中務卿が聞く。

「はっきりとは申し上げられませんが、あの男は先々帝の子ではないと言うことです」

中務卿は真貞親王と共に以前からあの男から卑怯者呼ばわりをされていた。

帝と女御に取り入って親王の地位を貰ったと。

自分こそ先々帝の子だから親王の地位を賜ってもいいはずだと。

しかし、中務卿は直貞親王と話し合って女御が産んだ皇子がもう少し大きくなったら二人は完全に臣下に降るつもりでいる。

それまでに問題ごとはできるだけ排除すると決めていた。

それが女御様に命を助けて貰った恩に報いることだと二人はそれぞれの母から言われていた。

その頃、清涼殿から女御が二人、弘徽殿に向かって渡殿を歩いていた。

女房の一人の手にしている盆には饅頭が乗っている。

あと少しで弘徽殿に着く所で声をかけてきた人物がいた。

「これはなんだ」

その男は盆に乗っていた饅頭を一つ手にした。

「あっ!それは帝から弘徽殿女御様にと送られたものです」

盆を持つ女房が言うとその男はふーんと言って手にした饅頭を口にした。

「何をしている!」

女房の後ろから声がした。

男が見ると弘徽殿女御の兄で良智が立っていた。

良智は男に近づいて右手を振り上げた。

バチーンと音と共に男は渡殿から落ちて近くの池に転げ落ちた。

警備をしていた護衛たちが良智を見る。

「捨ておけ」

「お待ちください!」

後ろから声がした。

右大弁が早足で駆け寄ってきた。

「皇子に何をするのですか!」

右大弁はそこまで言って目の前に立つ人物を見た。

「皇子だと?」

良智こと近衛大将は右大弁を睨みつける。

「康成は先々帝の子です。そのような扱いをされる謂れはないです」

右大弁は必死に訴える。

「良智、どうした?」

背後からの声に右大弁は顔を引き攣らせながら振り返る。

声をかけてきたのは弘徽殿女御の実父、関白左大臣だ。

「この者の孫だっか、その者が帝から綾が賜った菓子を勝手に手に取って食べたので注意していたのです」

左大臣は辺りを見渡すが息子の良智と女房と右大弁しか見当たらない。

「その者は何処に行ったのか?」

左大臣が聞くと良智がそばの池を指差した。

池では今にも沈みそうな右馬頭がいた。

「どけ!」

右大弁が渡殿から降りて右馬頭を助けようとしているが先程の近衛大将の言葉に護衛たちは池で溺れている男を無視して通常の任務に戻った。

「父上、これから弘徽殿女御様に会いにいかれるのですか?」

良智が聞くと左大臣が側にいた女房を見て帝に頼まれたからねと言った。

「それでは、いきましょうか、弘徽殿女御様」

左大臣は近くで盆を持つ女房に声かけて歩き出した。

左大臣と綾の後ろからは兄の近衛大将もついてきた。

綾は歩きながら盆に残っている饅頭を数えた。

一つ足りない。

皆んなで食べようと思っていた饅頭がたりない。

おのれ!右馬頭め。許すまじ。

綾は、キッ!と池を見ると右馬頭はブクブクと沈んでいくのが見えた。そばで右大弁がオロオロしている。

ふん!饅頭を食べた罰だ。

綾は庭の様子を気にすることもなく、部屋に戻った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。