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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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501/504

501話 星落秋風犬山城

湯の山温泉にて温泉に一泊二日で三度入浴した信長は、犬山城に向かった。


湯の山温泉から犬山城までは約十九里。現代のメートル法でいえば七十四キロ程。本圀寺の変で岐阜から京までを二日で駆け抜けた信長であれば一日で駆け抜ける事は、出来る。


だが、今回は既に佐久間盛次は既に逝去しているし、犬山城側の準備のことも慮ったのだろう。きちんと先触れのうえ、津島の堀田道空邸での一泊を経て信長一行は未の刻が終わろうかとする頃(午後三時頃)に犬山城に到着した。


先触れを受けて、犬山城城下本丸御殿の前には、鷲見盛保と柴田勝家の母と姉が並ぶ。その後ろには元服前ではあるが久六と伊助が盛次の子として並ぶ。昨年産まれたばかりの末っ子の源六は乳母に手を引かれている。


「お待ちしておりました。佐久間盛次が臣、鷲見盛保にございまする。盛次様が亡き後、盛政様が出陣しておりますので、城を預かっておりました。こちらは奥方様と盛次様の義理の母上様…、いえ、柴田勝家様が同道しているご様子。ならば、柴田勝家様ご母堂と申しあげたほうがわかりやすいでしょうか。そして、元服前のお子様達にございまする」


「で、あるか。今後の犬山について差配を伝えねばならんが…。まずは、盛次の菩提を弔いたい。案内せい」


「ハッ」


犬山城本丸御殿の小広間に作られた祭壇には、荼毘に付された盛次の骨壺と位牌が飾られている。

嫡男も戦陣にあり、織田家の諸将も多く大河内城攻めに加わっているという戦時であることからだろう、犬山や尾張に残る佐久間家だけで葬儀は既に済んでいた。


「信長様、こちらでご焼香を」


盛次の妻、義母と鷲見盛保ら家臣数名が側に控える中、信長、勝家、恒興の三名が祭壇の前に通される。


立焼香机の前に進んだ信長は、抹香をむんずと掴む。

その様子を見て、息をのむ勝家と恒興。勝家の母も同様に息をのむ。


彼らの頭の中に蘇ったのは、天文二十一年の萬松寺でのあの光景である。茶筅髷に片肌脱ぎで半袴の信長が葬儀に遅れてきた上に父信秀の位牌に抹香を投げつけた、うつけの名を内外に知らしめ不動のものとしたあの事件である。


「盛次!逝くのが、早いぞ!お主の様に黙って儂を支える者こそ、儂の栄達する姿をキチンと見届けてから逝かんでどうする!」


そう言うと、抹香を握りしめた拳を額にぶつける様に三度当て、そして香炉の上でゆっくりと拳を開いた。その指の間からパラパラと落ちる抹香。


父信秀との複雑な父子関係を反映したあの事件の時の投げつけたれた抹香の勢いとは違い、その緩やかに落ちる抹香こそが自らを支えた臣を思う心と信長の成長を表しているかのようであった。


そして、全ての抹香が香炉に落ちる頃には、信長の言葉とその雰囲気に当てられる様に、佐久間家一同と柴田勝家は自然と泣いていた。

ただ一人、池田恒興は信長の焼香で今回は問題が起こらなかった事を安堵していたのだが。

そして、温泉宿と同様に泣き出し、そのまま焼香する柴田勝家の姿を全員が目にすることになる。


四半刻後。


大河内城攻めに参加していない佐久間家の家臣一同が犬山城の大広間に集った。最前列には久六、伊助と鷲見盛保ら。先程とは逆に盛次の妻、義母である柴田勝家の姉と母は一列下がっている。


上座には織田信長。その左右に柴田勝家と池田恒興。

評定、(まつりごと)の場であるからか、焼香の場で泪を見せた柴田勝家も威厳のある雰囲気を身にまとう。


「佐久間家一同、盛次亡き後、犬山城を常のように保つこと、ご苦労。

で、だ。佐久間家の家督については、大河内城攻めに参陣している嫡男盛政が継ぐこと、これを認める。

が、盛政は元服したばかり。先の六角攻めでは個人としての武は示したと聞き及んでおるが、将としての才はまだ分からぬ。また、取り次ぎ、他家との交渉事、政の経験はほぼ、ない。故に、盛政を今すぐに織田家の家老として扱うわけには、いかぬ。

まずは、叔父であり長らく当家家老を務める柴田勝家の寄騎として経験を詰んでもらう。

また、同じ理由で、尾張美濃の要地である犬山を任せるには早い。犬山城は池田恒興を城代とし、領地は一度この信長が預かる。異議は認めぬ」


少しざわつくが、信長の最後の言葉、異議を認めないという発言の際にやや語気を強めた事で、ざわつきは抑え込まれるように落ち着く。


「信長様のご指示、承りました」


盛次の妻にして勝家の姉であるお千代が一番にそう声をあげ、頭を下げる。

先代当主の妻が受け入れたのであれば、家中の者もこれに従うしかなく、同様に頭を下げてこれを受け入れる。


が、ただ一人、頭を下げぬものが居た。

佐久間盛次の義母にして坊丸からは婆上様と呼ばれる柴田勝家の母、お梅である。


「佐久間盛次の義母として、信長様に確認させていただきたいことがございまする。まずは、御器所や犬山の領地はどうなされるか。ついで、家臣達のことにございまする。盛次殿は犬山の旧主信清殿の家臣たちや美濃の者達を多く家中に迎えました。それも犬山の領地があってのこと。犬山の領地が無くなればそのもの達を養うこと能わず。そうなれば、信長様のご采配を恨む輩もおりましょう。これを踏まえて、ご下知をいただきたく」


佐久間家が得た犬山の土地を守るためであろうか、老先短い自分であれば、信長の怒りを買ってもその首で償えば良いと腹を括ったのが見て取れる顔をした一人の老女がそこには、居た。

それを見て、少し驚いた後に、オドオドしたような顔に変わる柴田勝家もまた、そこにいたのだが。


「ふむ。ご母堂の問いに答えよう。先程の言葉通り、犬山の土地は一度信長のもとに戻す。御器所の土地は佐久間家累代のものであり、これを安堵する。

家臣については、御器所以来の臣についてはそのまま家人とするが良い。犬山を得た後に家臣となったものについては、そのまま犬山で働きたいものは、城代の池田恒興の寄騎、家臣となるが良い。犬山で家臣となったもので、そのまま佐久間家に仕えたいものは、そうだな。勝家。そなたが預かれ。近江長光寺を与えたのだから、それくらいできるであろう?」


「はっ。殿のご指示とあらば、それに従いまする」


柴田勝家が母を信長の勘気から守る事も考えてだろう。素早く、そしてはっきりと従命の意思を示す。

それを見て、深く頷く信長。


「で、あるか。と、言う事だ、ご母堂。盛政がそれなりの功を挙げれば城持ちに返り咲かせる。今は、まだ、盛次の後をそのまま継ぐには足りぬと言うことだ。良いな」

信秀の葬儀、萬松寺での有名な抹香投げつけ事件を受けての本歌取りのイメージのお話。


佐久間源六は永禄十一年に産まれた佐久間盛次の末子。

正史では天正十年には佐久間勝之と名乗って信濃攻めで初陣。柴田勝家の養子になったり、佐々成政の婿養子になったり、北条家に仕えてみたりと紆余曲折の後、蒲生氏郷の家臣。蒲生氏郷死後は色々あって関ヶ原の戦いで東軍に属して、最後は信濃長沼藩藩主。

本作ではどうなるのか…。まだ分かりませんよ。


ちなみに、本作の信長は家督争い中に積極的に自分を支持した佐久間盛重、森可成をものすごく重用しております、おりましたという設定。


で、一度敵に回った林秀貞と柴田勝家は史実通り、一時露骨に干しています。本作の勝家さんは頑張って評価を盛り返しましたが(坊丸分の加点あり)。


で、佐久間盛次は特に文句も言わず家督争いで信長をしっかりと支持したので、それなりに評価が底上げあり、という感じです。

さらに、どんな仕事も真面目にこなしたので、やや高評価をもらっている感じの設定です。信長は史実通り、内政、外交、武功と全部できるタイプが好きなので。木下秀吉、丹羽長秀を重用するのはこの影響ですね。


佐久間信盛は信行との家督争いの時は日和見モードて終盤に信長支持を明らかにした感じなのと信長に対してすこし馴れ馴れしい感じで接するうえに一言多いので…、評価は家格相応で、個人に対しては、微妙…、という設定。


鷲見盛保さんは、留守居役の鷲見さんと同じ人。で架空の人物。

鷲見氏は美濃郡上郡の豪族。遠藤氏、東氏の抗争の中で滅亡、その後、飛騨に逃げた方や織田を頼った方がいるわけですが、そのなかで織田を頼ってきてなんだかんだで佐久間家の家臣になった人がいるという設定。盛保さんは、そのなかの一人が、佐久間家で偉くなったうえに盛の一字を偏諱としてもらったというイメージです。


本文中には出ておりませんが、名古屋に龍興寺というお寺があります。佐久間盛重の菩提寺で佐久間盛次が創建とも伝わるお寺です。佐久間家と縁が深いのですが、盛政は賤ヶ岳でバリバリ秀吉方を攻撃したので、そこには入れず。娘さんが嫁ぎ先の土地で建立した大分の英雄寺が菩提寺となる有様。南無〜。


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