第5話
やぁやぁみんな!私は今、トーボの街から蟻速度で3ヶ月も掛けて来たエンペート王国にいます!
今回はギルドカードを偽装したので、首が転がることはありませんでした。
半年も歩いて疲れたので休憩がてら簡単な依頼でも受けに行こう。
私は意気揚々とギルドへと向かっていった。
「おお、やっぱり本部は違うなぁ」
あのトーボの街とかいう、門番の首が転がってたり、半透明の板が大爆発する所とは大違いだぜ。
早速中に入ってみると、すごいいい雰囲気。
ただちょっと汗臭い。
ギルドランクは適当にAにしておいたので、Aランクの依頼を受けよう。
Aランクの掲示板に移動するとFランクの依頼とは大違いの量にびっくり。
4つしか貼られていない。
それも【ケルベロス討伐】【ガンギラービー駆除】【キングゾンビ駆除】【サイデン平原の魔物調査】
……なんだこれは!ふざけてんのか!
口から芋虫が出てくるくらい簡単だわ。
やっぱり最高ランクSS級だよね!
SS級の掲示板に移ると一つの大きな紙が貼ってあった。
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【魔界蟻 ヘル・エンペラーアント討伐】
場所:サイデン平原
討伐数:1
報酬:5000万シール
特徴:大量のデビルアントを従え、本体は地獄の魔眼を持つ。
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あれ?これ、マイマザーじゃね?
……
見なかったことにしよう。
そんなことより今日は、人間どもにドッキリを仕掛けてやろう。
3ヶ月も掛けてここまで来たんだから、べつにいいよね!
よーし、それじゃあ……
【虚構魔法Lv150】
☆☆☆
つい3ヶ月前、ヘル・キングアントがサイデン平原に出現したと聞き、トーボの街の調査団が壊滅したと聞いた。
アント……それは最近になって魔物ということが分かった、最弱の魔物じゃ。
アントという魔物がそこまでの攻撃力を持つというのはとても考えにくい。
何者かが力を与えたか……しかし、調査団を壊滅させる程の力を持つとは。
しかも、そいつも進化を続けてヘル,エンペラーアントとなったそうじゃ。
いったい何が起こっておるのじゃ。
儂が悩んでいると出入り口の戸が開かれ、エンペート王国の兵が入ってきた。
「国王様、エンペート軍司令部にて神光騎士団を編成いたします。どうかお許可を」
神光騎士団……それは神の力を一時的に借り、ステータスを100倍にするすごい魔法である。
これはこの国のように信仰が深い事が前提で、神の力も100年に一度しか使えない。
……仕方ない、あのまま放置してしまえばまた進化されてしまう。
これ以上強くなって仕舞えばもうこの世界は終わってしまう。
早急に対処しなければ。
「すぐに大臣を集めろ、会議を始める」
「かしこまりました」
召使が礼をすると出入り口から出て行った。
「ありがとうございます国王様」
「ああ、これは早急に対処しなければならぬ事だ」
それから10日後。
神光騎士団が編成されサイデン平原へと向かっていった。
太陽がちょうど真上に登った頃、城の照明がユラユラと揺れ始め、次第に強くなっていくのを感じた。
「地震か?」
そう言っている間にも揺れは強くなり、召使が立っていられなくなる程強くなった。
「逃げよ!城が崩れるかもしれん!」
「はい!」
「うわぁあ!」
「にげろぉ!」
召使や使用人、この城に住む者が出口へと走り、外へ脱出する事ができた。
外に出ると地面が全く揺れていない事に気がついた。他の者も驚き戸惑っている。いったい何が起こっているんじゃ。
そう思っていると、空からこの世の者とは思えない恐ろしい音が引き渡った。城下の街からも悲鳴が聞こえ、この音が全体に響いていると気づいた。いったい何が起こるというじゃ。
すると、空の色は青色から紫色へと突然切り替わった。その紫色の空は、濃淡が無くただ紫一色で塗られたような恐ろしさを感じる。
叫び声が近くからも聞こえてくる。儂も手の震えと気持ち悪い汗が止まらずにいた。
そして少し経つと、脳に直接声が届いた。
《世界は終焉へと向かい、終焉は開闢へと》
《生命の果ては魂へ、魂の果ては無へ》
《求める者より醜い者よ》
《我、支配種族》
《この世は終わりを迎える》
その声は不気味な程美しく、この世の終わりを知らせてくれた。
来る、終焉が来る。
私は全身の力が抜けていくのを感じ、その場に膝をつき倒れこんだ。
私の周りは泣きわめく者、狂ったように奇声をあげる者、ナイフを首の脈へ突き刺し、生き絶える者にあふれていた。
そして空はガラスが割れたかのように音をたて、太陽のあった場所から砕け散り、大きな穴ができた。
そこからは……巨大な3本の足を持つ鴉が飛び立った。その大きさは、この王城の大きさすらも優に超える。
儂は力を振り絞り【鑑定を使用した】
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禁止されています。
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なんじゃこれは……。
やはり此奴は神の使いだった。この穢れた世界を終わらせる為に送られた神の使いじゃった。
そして鴉は地上に降り立ち、高い鳴き声をあげた。
「ん……あっあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
儂は全身を錆びたノコギリで切り落とされる様な痛みを感じた。
1秒が何日も経っているかのように引き伸ばされ、無限とも思える時間を痛みが襲い続けた。
気絶することも、死ぬこともできず、痛みだけが襲う。
「あああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
痛みが治まると間を入れることなく儂は倒れ、意識を失った。