第2話
こんにちは、蟻です。
今回もいつも通り世界をぶらぶら歩こうと思います。
私は小さいので世界を回るのが楽しくて仕方がないです。
まあいつでも大きくなれるけどね。
それじゃあマイマザーにお別れ言ってこよう。
後ろを向くといつも通り生まれたばかりの兄弟をムッシャムッシャ食べていた。
あんまり美味しそうじゃないな、兄弟だし。
「ヤッホーマイマザー」
私がそう言うとマイマザーは分かったかのようにこちらを向いてきた。
「ちょっと冒険に行くんで、さよなら」
するとマイマザーは足を上げて私を捕食しようとしたが、私は避けることなくその足を受け止める。
「あっ、折角だからプレゼント」
私はマイマザーを見つめて加護を授けた。
するとマイマザーが驚いたような動きをしたと思うと、いきなりバリバリと音を立てて巨大化し始めた。
あとなんか光沢が強くなってめっちゃ眩しくなった。
巨大化が止まった頃には、何これ壁?と思うくらいでかくなっていた。
攻撃力も人間を殺すぐらい容易いくらいになったんじゃないかな?
親孝行はいいぞ。
するとマイマザーはやっぱり私を食べようとしたので逃げてきた。
かなしい。
まあいいや、出発しよう。
私は歩き始めた。
☆☆☆
私の名前はアルバート、34歳、Aランクの冒険者だ。この辺りでは誰にも負けない自信はある。
しかし私は人と話すことはとても苦手だ。子供の頃からおとなしい子で両親からは「大きくなれば治るわよ」と言われていたのだが、この歳になってもそれは治っていない。
話せる人といえばギルドの受付のサムスと、唯一の親友ランドルだ。
その為、私はパーティを作らず一人でいつも行動している。
しかし私は腕には自信があった。私は一人でも生きていけるように剣の腕を磨いてきた、お陰でAランクの冒険者になれたのだから。
そして私は慢心していた。
一人でも生きていけるという自信と、この剣の腕に。
私はギルドでギラービーという蜂の討伐の依頼を受けていた。この依頼はBランクの依頼なのだが私は何度もこの依頼を受けたことがあった。今回も直ぐ終わるであろうと思っていた。
そして依頼の場所であるサイデン平原に着いた時、私は恐ろしい物を目にした。
Bランクの魔物であるギラービーの亡骸が無数に転がっていたからだ。
普通はこんなことはあり得ない。ギラービーという魔物は1、2匹で現れる魔物なのだが、ここまで何百匹を一斉に現れるものではない。
それよりも驚いたことはこのギラービー、何者かによって殺されているのだ。
この数を殺せるとしたらAAAランク……否、Sランクでなければ倒すことはできないであろう。
驚きを隠せないまま私はギルドにこのことを報告しようとし、来た道を帰ろうとした。すると後ろから恐ろしいオーラと強い視線を感じる。
私は何かと思い後ろを振り向くと、先程までいなかった黒い光沢を放ち、不快な鳴き声を放つ生物……蟻だ。
蟻はよく街でも見かけるがここまでの特異種がいるとは聞いたことがない、というか特異種がいることすら知らなかった。
しかし、蟻は蟻だ。こんな奴、私の剣の錆にしてくれる。
私は剣を抜き放ち巨大蟻に向かって走り出した。
「うおおおおおおおお!!!」
私が剣を振り下ろし巨大蟻に当たった瞬間である、バギッという今までに聞いたことがないような音が耳に響いた。
剣が折れていた。木の枝のように。
私は絶望した、逃げなければ、早く逃げてこのことを知らせなければ。仲間がいれば相手の力も分かっていただろう、仲間がいればもっと冷静にいられただろう。
しかしそれも遅いことだった、私の目の前には巨大蟻がいた。ダメだ、こいつはヤバい奴だ。俺が見たS級冒険者なんかよりずっと強い、こいつは……魔王。
私が最後に見た景色は大きく口を広げた巨大な蟻であった。