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数年の月日が流れた。産声のあげ主はすくすくと成長し、今では凛とした表情をたたえた少女となっていた。名はシエ・スーミン。艶やかな黒髪にアクアマリン色をした角、寒色系のマーメイドタイプのドレスに身を包み、人間でいう足の部分は三つに分かれており、それはシエ・スーミンの頭付近まであり、それぞれ竜の頭がついている。もちろん、生きている。俗にいうドラゴロイドと呼ばれる種族にはこういった特徴がある。見た目は人なのだがあちこち竜の特徴がうかがえる……そういったところか。
「シエ・スーミン様。おはようございます」
「おはようございます」
廊下ですれ違う度に挨拶。挨拶をする者も、シエ・スーミンとは違えど、竜の力を宿す角が頭部から生えており、立派な尾を持つ者もいる。ただ、一つ挙げるならば彼らの足は人間のような二本の足だ。こちらはドラゴニュートと呼ばれる種族で、主に力仕事や機動力を重視した作戦などで活躍する。中には同じドラゴニュートではあるが戦略を練るのに長けた者もいる。
シエ・スーミンが向かっているのは作戦指令室。どうやら緊急を要する伝令があった為、自ら戦場に赴く準備にとりかかろうとしている。特に緊張をしているわけではないのだが、自然と気持ちがしゃんとなる。戦うからにはやはり勝たなくては……。
「お待たせました。戦況はどのようになっていますか」
「はっ! こちらをご覧ください」
現場指揮官が地図を広げて状況を説明した。
「現在、眼前の山脈を正面にみて左右に道があります。右ルートは道が平坦です
が、敵数が多く、苦戦を強いられそうです。一方、左ルートは険しい道です
が、敵数はそう多くありません」
「なんだ。大したことないではないか」
急いできたからどうしたかと思えば……想定よりも早く片付きそうだと内心思っていた。
「いえ……そう簡単ではないのです」
「どういうことだ」
指揮官が指さしたルート。それは、山。一瞬、何をしているのかがわからなかったシエ・スーミンは戸惑った。
「……まさか。その山を越えてきている……そう言いたいのか?」
「はい。それも尋常ではないスピードでこちらに向かってきています」
三方向からの奇襲ということだった。それも予想もしない山からの奇襲がメインとは……シエ・スーミンは地図を見ながら思考を巡らせた。
「……敵の総数はどのぐらいだ」
「おおよそ五万。こちらは三万。現在、右ルートに二万、左ルートに一万という
状況です」
「ならば、右ルートの一万を山に向かわせよ。私も山へと向かう」
「なっ……それは無茶です」
「無茶かどうか……試したことあるのか? お前は」
冷ややかな声色で司令官を黙らせるシエ・スーミン。たったその一言だけで場は凍り付いた。シエ・スーミンは地図を頭に叩き込むと作戦指令室から立ち去った。
「あっ! あの、どちらへ」
「言わなきゃわからないのか? 貴様は……」
シエ・スーミンはぎろりと睨む。睨まれた司令官は恐怖のあまり、その場で気を失ってしまった。
「……まったく」
速足で武器庫に向かい、自分の武器をいくつか調達し城門へ。すれ違い様に何かを言われたような気がしたが、そんなものを覚えているほど今は暇ではない。一つ一つの戦いが明日に繋がるか否かのどちらかしかないのだ。それだというのに……まるで緊張感がない。
城門に着き、現在の状況を確認。こちらがやや不利。左右のルートはどちらも交戦中とのこと。こうしている間にも山からの騎兵隊はこちらに向かってきている。
「私が先陣を切る。暴れたい奴は私に続け」
この一言だけで現場の士気は上がり、その場にいたドラゴニュートの八割はシエ・スーミンの後に続いた。険しく苦しい道だとしても、預けられる人がいる。
「ぼく……いや、おれだってできるんだ」
自分に喝を入れるドラゴニュートの龍麗。小さな体ながら武術に長ける戦士だ。鉢巻を巻きなおし、最前線へと向かう。
「あらあら。皆さん、はりきってますねー。私も頑張っちゃおうかしら」
自分よりも大きなメイスを持ちながら微笑むラウラ。愛おしそうにメイスを撫でると、突然恍惚の表情になる。
「あぁ……はやくこのメイスで鎧を……骨を砕きたい。あぁ、痺れてきました」
ひょいとメイスを担ぎ、列へと向かうラウラ。彼女もドラゴニュートなので、通常の人よりも何倍もの重さのあるものも軽々と持ち上げる。その重さを利用して戦うのが彼女の得意分野である。
山を登り始めてそう時間は経過していない。両脇から敵兵が現れた。咄嗟に身構えるが、それよりも先に飛び出した影が一つ。
「どんな音が鳴るかしら。聞かせて頂戴ね」
ラウラのメイスが敵兵の鎧にめりこむ。その音は思わず耳を塞ぎたくなるほど、生々しかった。
ごぎゅっ メギメギ ブチィ
「あらぁ。この感触は……内臓もいっちゃいましたねぇ」
彼女にかかれば音と感触で破壊した部位がわかるのだとか。音の余韻に浸りながら最後の一振り。すると、ぐったりした敵兵は勢いよく遠くへ飛ばされた。
「あらぁ? 張り切りすぎたかしら?」
ラウラは遠くまで飛ばした敵を眺めていた。その背後、襲う影が現れた。ラウラは気付いていないようだが……。
「させないぞ! 吹っ飛べ! 破っ!」
龍麗が渾身の掌底を放つと、力とはまた別の勢いが加わり、敵兵の内部を破壊した。
「ぼくだって……これくらいはできる」
律儀に敵の亡骸に一礼をし、再び走り出す。ラウラはかというと……。
「あの人、どのくらい飛びましたかねぇ? 誰かわかりますかぁ?」
どうやら本気で敵兵の存在に気づいていなかったようだ。飛距離を聞いた時にはもう既に味方は山へ向けて爆進していた。




